表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おちる

forget me not

作者: 花都

 夏の夜風は紺色だ。すこしだけ紫色を帯びた、深く甘い色。わたしの一番好きだった色。

 そして今は、わたしの一番、嫌いな色。

 巻き添えを食っただけで、夜風に罪はないのだけれど。


 朝靄みたいな純白のスカートが翻り、風に煽られて紺色に汚れる。まるで藍に浸けたよう。

 わたしの肌も青く汚れる。下駄箱で一番かわいい靴を揃えて捨てて、傷だらけの足が穢土を蹴って飛ぶ。

 わたし、蒼い夜空に堕ちてゆく。

 

 久しく見上げなかった空は、息を忘れるほど美しかった。

 つま先の向こうは金銀の粒をふりまいたように星が埋めつくしていて、重なったブルーの奥に銀河や星雲まで見えるようで。この空は、いつかもらった宝石のお菓子みたいに、きっとなめたら甘いんだろう。


 ――ああ、きれい。


 声なんて出ない、出なくていい。音に乗せなくたって、空に響くのだから。

 わたし、物理法則のしがらみから解き放たれて、どこへだって行けるんだ。蒼の煮凍りにまっすぐ落ちて、果てのない空に落ちて墜ちて堕ちて。きっと空の底は、浅く澄んだ湖みたいに、やわらかくわたしの爪さきを受けとめてくれるだろう。

 つま先が曲線的な波紋を描いて、びゅうっと風が吹いて。ティモール・ブルーの長い髪と、フォーゲット・ミー・ノットの全円スカートが、天使の羽みたいになびいて広がる。


 自由、自由だ。過去も未来も空想(イメージ)の世界もへだてなく、好きなところへ行けるのだから。電子になったわたしを、もう何ものも止められない。


 ――ずっと探してた。こんなところにあったんだ。


 ぱしゃん。

 

 勿忘草色の湖に、わたしはからだごと飛びこんだ。

白味の強い水色、勿忘草の色です。

「飛び降りる女の子」は以前から書きたかった話でした。ここに描いた景色は絶対にフィクションだけれど、その一瞬だけでもこんな綺麗であって欲しい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 飛び降りる女の子、衝撃的なモチーフでありつつ、ただただ描写が美しく引き込まれました。 彼女が飛んだのは、地に向けてではなく空に向けてだったのかも知れませんね。 ぱしゃんという擬音もとても綺麗…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ