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8 ギルドの受付嬢


 夜、宿を訪れてきたのは受付嬢だった。


「こんばんは、ロフェイさん」

「こ、こんばんは……」


 受付嬢はまるで物色するような目で、玄関から部屋の中を見渡すのだった。


「驚いたわ。まさかここに宿泊してるなんて」

「どうしてオレのいるところがわかった?」


 すると彼女は自分の背後を指差した。


「あたしの住まいは、向かいに見える建物。さっきね、あなたがここへ入っていくのをたまたま見かけたの」


「なるほど。そういうことだったか」

「中にあがってもいい? いろいろ話がしたくて」


 物品を盗むための侵入じゃあるまいな? しかし高価なものは特にない。それに彼女はこれから世話になるかもしれない人物だ。あまり無下にはできまい。ただし一応、注意は払っておくべきだろう。


「いいぜ、入ってくれ」

「悪いわね。お邪魔しまーす」


 はたして、なんの話をするために来たのだろう。

 しかし受付嬢は小首をかしげている。どうしたんだ。


「おい……。どうかしたのか」

「ロフェイはずいぶん失礼な人だなって思って」


 えっ!? なんだ、なんだ、失礼って。


 もしかして他人を部屋に入れる際、人間社会では特有のマナーでもあったのだろうか。リムネからは何も教えられていなかった。でも、そりゃそうだな。彼女はオレの親じゃないんだ。


「悪いが教えてくれ。オレは何をすべきだったんだ……」

「年下のあなたは年上のあたしに、挨拶のキスを乞わなければならなかった」


 それが人間社会のマナー? なんとクソくだらない習慣だこと。

 受付嬢はソファに座ってから、ふたたび言葉を続けた。


「いまからでも遅くないわ。頬にくださいと乞うがいいわ」


 ああ、人間社会って面倒臭い。それでも彼女の正面に立った。言われたとおりにやってみる。


「頬にあなたのキスをください」


 これでいいのか?


「あら、かわいい人」


 馬鹿にされたような気分で不快だ。

 部屋に入れるんじゃなかった。


 そういえば受付嬢、敬語じゃなくなっている。

 勤務時間外だからか。


 彼女がふたたび立ちあがる。

 オレの頬に柔らかいものが当たった。


 これでお決まりの所作は終了だよな。

 ところが……。



 くっくっくっ



 何を笑ってるんだ?


「嘘よ、ロフェイ」

「う……嘘?」


 目を細めて首肯する受付嬢。


「ごめんなさい。嘘は二つ。まずキスを乞うなんて、そんな習慣はないわ」

「おい、騙しやがったな」

「どんな顔するかなって思ったけど、意外なことに平然としてたわね」

「うるさい、もう一つの嘘とはなんだ」

「決まってるわ。『年下のあなたは年上のあたしに』の部分よ」


 ハッとした。年齢のことだ。まさか……。

 だが、オレはすっとぼけてみた。


「老け顔で悪かったな」

「いいえ、逆でしょ。三百十六歳には見えないもの」



 バレてた!!!!!!!!!



 つまり、もう人間の町にはいられなくなったわけだな。

 ならばどうする? ここで殺せば解決か?


 手を伸ばし魔法陣を作る。

 オレの特大ミニファイヤを喰らわせよう。


 ここで彼女が言う。


「あたし、ロフェイの味方になってあげるわ」

「へっ、味方に?」


 ミニファイヤ発動の直前、いったん手をおろした。


「そうよ、魔族の血が流れている者同士」


 なぬっっっっっっっっ! 


 いまなんて言った。


 魔族の血が流れている者同士?


 てことは……。


「もしかして、お前も魔族だったのか」

「半分だけどね。母が魔族。父はヒト族……いわゆる人間。秘密よ」


 ハーフか。だからツノがないのか。

 でも驚いた。他にも魔族が人間の町にいたなんて。


「なんでオレが魔族だと気づいた?」

「登録器、あんなふうに故障しないの。三百十六歳って表示が出たけど」


 そうか。ギルドで登録申請したときに。

 あのときからオレの正体、わかってたんだな。


「あたしの名前はルーシャ。これからよろしく。年齢は十八なので、ロフェイとは約三百歳しか違わないわね」


「約三百歳しか(・・)って。そういうのは、三百年生きてっから言ってくれ」


 ルーシャは勝手にベッドに寝そべった。上体のみをゆっくり起こす。そして何を思ったか、豊満な胸部を誇張するようなポーズをとるのだった。長い髪を掻きあげながら、首を横に少し傾ける。


「ねえ、ロフェイ。あたしのオトコにならない?」







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