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7 町の神殿


 頭が混乱してきた。リムネはミーンミアのことを『大の仲良し』なんて言ってたよな? しかしどういうことだ。父が買ってきてくれたって。


「なんだと? どこで買ったと言うんだ」

「さあ、どこかしら。でも奴隷商からなのは間違いないわね」


 当たり前のことのように、平然とした口調だった。

 おいおい。待て、待て、待て。


「ミーンミアは親友か? 奴隷か?」

「親友に決まってるじゃない! 奴隷なのは身分に限っての話よ」


 それでも衝撃的すぎる。


 リムネの屈託のない笑顔。たぶん悪意なんてものは微塵もないのだろう。きっとその状況を当然のこととして育ち、疑問すら湧いてこなかったのだろう。


 常識に洗脳され、思考に狂いが生じている……。それともオレの思考がおかしいのか。すなわち魔族の常識がおかしいのか。


 はたしてミーンミアに、こんなことを訊いてもいいのかどうか……。しかし訊かずにはいられなかった。


「リムネからは親友扱いされているようだが、どっ……奴隷でもあるんだよな。それをどう思ってる?」


 ミーンミアは無邪気に白い歯をこぼした。


「旦那様……すなわちリムネのお父上に購入していただいたことには、とても感謝しています。わたしは毎日を幸せに過ごせているのですから」


 リムネのいないところでも、同じように答えただろうか。ただ嘘を吐いているような感じは少しもなかった。あるいは洗練された名演技なのか。


 奴隷という言葉は知っていた。しかし奴隷所有という文化は、魔界ではありえなかった。魔族狩りにきた冒険者を捕獲したときだって、肉体労働させるなんてことはなかった。監禁と拷問のあとは単に殺すだけだった。それが常識だった。



 食堂というところに入った。


 魔界では『魔の果実』と『干し人肉』ならば、口にすることもごく偶にあった。しかしそれら以外の固形物を食べるのは、初めての体験となる。


 人間の料理を恐る恐る口に含み、思いきって咀嚼する。驚いたことに、鼻孔と舌が心地よかった。しかも腹の辺りが妙に落ち着いてきた。


 もしかしてオレはずっと『空腹』というやつだったのか?


 なるほど。オレたち魔族のエネルギー源はツノだ。ツノは永久に魔力とパワーを与えてくれる。しかしオレはそのツノを失ってしまった。これからは口からモノを摂取していかなければならないのかもしれない……。それにしてもモノを食べることが、こんなに快感だったなんて。



 食事を済ませ、宿を探した。


 気に入った宿はすぐに見つかった。リムネとミーンミアは、宿代の値下げ交渉まで手伝ってくれた。ありがたいことだ。


 そのあと神殿に向かった。


 神殿に行く理由はまだ聞かされていない。別に祈りにいくわけではないそうだ。祈りが目的ではないのなら、わざわざ何をするために行くのだろう? 彼女たちによれば、冒険者となったオレにはとても重要なことらしい。



 見えてきたのは、石積みの巨大神殿だった。


「すごいぞ、膨大な魔力を感じる。さすがは神殿だ」


 素直に感想を述べてみると、リムネは首を横に小さく振るのだった。


「神殿がすごいっていうよりはね、魔力の強いポイントに神殿を建てたらしいの」


 なるほど。逆だったか。



 さて、ようやくリムネはここへ連れてきたワケを明かしてくれた。


 神殿では魔石を『魔法の種』に変えられるのだという。その魔法の種とは、加工された魔石のことらしい。つまり魔石を持ち込めば、魔法発動用に加工できるそうだ。


 きのう狭間の森でリムネから魔石をもらったが、あれも魔法の種だったのだ。ミニファイヤ発動のために加工されたものだったらしい。


 これから魔法をたくさん覚えなくてはならないオレは、今後ここには足繁く通うことになるだろう。


「神殿って、そんなこともできたなんてな」

「はい、そのため多くの冒険者が訪れます。では、まずわたしからいきます」


 ミーンミアはそう言って、神官のもとへと歩いていった。魔法の種がほしい旨を伝えると、最上階に連れていかれた。もちろんオレとリムネもついていった。


 ミーンミアが神官に謝礼を渡す。リムネの解説によれば、謝礼の金額は決まっていないらしい。続いて魔石を手渡した。あれはF級モンスターから得たものだ。


 神官は魔石を手のひらに乗せ、静かに目を閉じる。


 魔石が光った。


「成功よ。ミーンミアの魔石が、いま魔法の種と化したの」

「失敗することもあるのか」


 リムネが首肯する。


「もちろん。そのときは光らないし、未加工と変わらない魔石のまま。最悪、魔石は砕け散るの。ちなみにそうなったとしても、神官から謝礼を返してもらうことはできないから、それだけは忘れないでね」


 神官が自分で加工した魔法の種を鑑別する。


「ミニファイヤです」


 オレがリムネからもらった魔法の種も、ミニファイヤ用のものだった。あれと同じやつか。ミーンミアはふたたび神官に謝礼を渡し、今度は格上のE級モンスターの魔石を手渡した。神官が目を瞑る。魔石が光った。また成功したようだ。神官が魔法の種を鑑別する。


「ミニファイヤです」


 なんと、格下のF級モンスターの魔石と同じ結果になってしまった。ガッカリした顔のミーンミア。ちょっと可哀想な気がした。それでも彼女は、また謝礼を渡すのだった。


 あれ? また?


 彼女が神官に渡したのは、いま加工されたばかりの二つの魔法の種だった。どちらもミニファイヤのものだ。リムネの解説によると、これから複数の魔法の種を融合させるらしい。


「ならばミニファイヤよりも上位の魔法の種を得るためってことか」


「そうよ。もしうまく成功すれば、二つのミニファイヤのものが、一つのファイヤに昇格するの」


 ちなみにファイヤ系の場合、ミニファイヤ、ファイヤ、メガファイヤとレベルが

あがるそうだ。


 ウォーター系ならば、ウォーター、フォールズ、メガフォールズとあがる。

 ウインド系ならば、ウインド、トルネード、メガトルネードとあがる。

 他にもたくさんの系統があるらしい。


 また、ファイヤ系からウォーター系といった感じに、系統が変わることも稀に起きるそうだ。もちろん失敗もよくあることらしい。最悪、二つの魔法の種とも、砕け散ることだってあるのだとか。

 

 神官が目を瞑る。二つの魔法の種が光り、片方が静かに消えた。

 ミーンミアの喜び方を見ればわかる。融合に成功したみたいだ。


「ファイヤです」


 神官が魔法の種を返す。


 ミニファイヤがファイヤに。しかしこの時点では、ファイヤ用の魔法の種を得た段階にすぎない。まだファイヤを習得したことにはならないのだ。


「じゃあ、次はリムネの番か?」

「あたしはやめておくわ。あの神官、下手そうだから」


「いや、いま連続で成功したじゃないか」

「偶々って気がするわ。ロフェイはどうする? 依頼してみる?」


 オレか。さて、どうしよう。下手すれば失敗して、魔石は砕け散る。謝礼はドブに捨てるのと同じになってしまう。


 リムネはあの神官を下手そうだと言った。確かに自信なさそうな顔つきだ。別の神官に交代してもらいたいが、そんなことを言えるわけもなかった。日を改めようか。しかし……早くチャレンジしてみたいのも事実だ。


「魔法の種に変えられるのは、神官だけなのか」


 神官の他にも、それを商売にしているようなプロがいればいいのだけど。

 するとリムネから意外な回答があった。


「誰でもできるわ。ただ成功率をあげるために、神官にお願いしているだけよ。場所だってそう。神殿でなくても成功することがあるわ」


 ふうん。そういうことか。


 だったらオレがやったっていいじゃないか。成功率はぐーんとさがるだろうが、たとえ失敗しても納得がいく。他人の失敗ではなく自分の失敗だから、諦めがつくというものだ。


 オレは目を瞑り、さっきの神官をマネした。

 てのひらにあるのは、E級モンスターの魔石一つ。


「ちょっと、ロフェイ! 本当に自分でやるの?」


 魔石に集中しているので、返事はできなかった。


「光ったわ!」

「光りました!」


 にっこり笑うリムネとミーンミア。

 成功したらしい。なんだ、オレ一人でできたじゃないか。


 しかしなんの魔法の種になったのかは不明。

 少なくともミニファイヤではなさそうだ。


 彼女たちも初めて目にする魔法の種なのだとか。

 結局、神官に謝礼を渡して尋ねるしかなかった。


 神官が鑑定する。


「これは珍しい。拡大魔法です」


 小さな物を一時的に少しだけ大きくする魔法だ、と教えてくれた。


 オレは首をかしげた。『一時的に』というのが気にかかる。『少しだけ』というのも引っかかる。


 時間制限にしろ、大きさ制限にしろ、使い手の能力次第らしい。いろいろ制限があり、あまり実用的な魔法ではないそうだ。ちょっとガッカリした。



 神殿から出た。リムネとミーンミアと別れ、一人で宿へと向かった。人間の町で夜を過ごすのは初めてだ。物盗りの侵入には注意すべきだろう。


 宿に到着。もうすっかり夜だ。

 ろうそくに火を灯した。



 コン コン コン



 部屋のドアを叩く音。

 誰だ? リムネやミーンミアたちが来たのか。

 しかしこんな夜に?


 ドアを開けてみる。


「こんばんは、ロフェイさん」

「こ、こんばんは……」


 そこに立っていたのは、ギルドの受付嬢だった。




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