60 シッポがニョロッ
ミーンミアのようすがおかしい。
魔法をかけて、とはなんだ。ストーンボムの爆風がかかったってことか? それなら謝らなければなるまい。ただ……言っている意味のほとんどが理解できなかった。彼女は顔も真っ赤だし、やはり酔っ払っているのだろう。真っ昼間だというのに、しょうがないヤツだ。まさかミーンミアが酒好きだったとは驚いたぜ。
上空が光った。
何か嫌な予感がした。とりあえずミーンミアのことはいったん忘れ、不測の事態に備えた。なんだ? 何が来る?
すぅーっと空からおりてくる者がいた。
ずいぶんと飛行魔法が得意なようだ。会場の中央に軽やかに着地したが、そいつはいったい何者だ? こっちを見ている。そして歩いてきた。フードで顔を半分隠している。
「ロフェイ……」
聞き違いではない。ミーンミアが確かにそう呼んだのだ。オレではなく、そいつのことを。つまりはオレと同じ名前で大活躍してるっていう人物……なのだな?
観客席から大拍手が鳴り響いた。そしてロフェイ・コールまで。
なんなんだ! この大人気っぷりは。
そいつの視線はオレを捕らえたままだ。
「知ってるわ、あなたがロフェイよね? あたしと同名だなんて、なんという偶然かしら。会えて嬉しいわ、とてもとても」
ミーンミアはそいつに駆け寄っていった。
「どこへ行ってたんですか。心配しました」
「ごめんなさい、ミーちゃん。ずっとその人を探していたの」
そいつの指がオレに向く。
オレを探していたなどと言っているが……。
「だいたい、なんでオレを知ってる」
「ヒ・ミ・ツっ」
くそっ、腹立たしい。
「何が秘密だ。話せっ」
「聞きたいのなら勝負する必要があるわね」
「なんの勝負だよ」
一瞬、ちらりと白い歯が見えた。
「そうねえ。あたしとあなたとの殺し合いとか素敵じゃない?」
間に入るミーンミア。
「待ってください。何言ってるんですか」
「ごめんなさい。ミーちゃんは黙っててね」
穏やかな口調だったが、不思議と殺気のようなものを感じた。もちろん気のせいかもしれない。それでもオレはミーンミアを背中に回した。そいつに尋ねる。
「もし断ったら?」
「それは困るわ。うふふふ。いいこと考えた。あなたが断ったら……観衆の人間をみーんなコ・ロ・ス♡」
「人を殺すって……」
そいつは長いスカートを半分たくしあげた。
すると細長いシッポがニョロッと見えた。
「獣人族!?」
フードで顔を隠していたのもそのためか。
「フフフ。観衆たちは獣人族を虐める人間、悪い悪いヒト族だもん。たくさん殺したって納得できるでしょ?」
大声で言ったわけではないので、観衆の耳には届いていないようだ。彼らは呑気なもので、「勝負しろ」「戦え」「試合を見せろ」「逃げるな」「ビビるな」などと、対戦を要求している。
おい、オレがヘソを曲げて断ったら、お前らはどうなると思うんだよ? まあ、いいだろう。やってやる。
「つまりエキシビションマッチだな。了解した」
「同意してくれて嬉しいわ。ただしそのナントカマッチの超過激バージョンね♡」
係員らが駆け寄ってきた。勝手な試合は困るそうだ。しかし風魔法ウインドのような強風が吹き、彼らは吹き飛ばされてしまった。いまのはそいつの魔法だったのだろうか。もしそうならば、滅茶苦茶なことを!
「さあ、お邪魔虫は消えたわ」
審判も何も不要ってことか。
「じゃあ、いくぜ!」
さっそく魔法陣を浮かびあがらせた。いきなり得意魔法ファイヤを喰らわせるつもりだった。
ところがそいつはオレよりも早く魔法を発動したのだ。魔法陣は確認できなかった。どうやったんだ? まるで鬼法だな。
しかもその魔法は水系。ファイヤの威力を減少させてしまう。だからファイヤを取りやめた。
じゃあ代わりに……。
しかし放つ暇がない。そいつの水系魔法がスネークドラゴンのような形を為して襲ってくるのだ。動きはクネクネと柔らかそうなのに、地面に接触するとそこを激しく削っていく。
それを避けるのに精一杯な状況だったが、なんとか一瞬の隙を見つけた。すぐさま魔法陣を生成した。右手からはマジックレーザー、左手からはストーンボム。
どちらも命中してみせた。
やったか? いいや――。
マジックレーザーは水のドラゴンを貫いてから当たったものだが、そいつの表情からするとほとんど効いていない。石爆発系最強のミティオライトボム級とも言われたストーンボムでも、ダウンすら取れなかった。やれやれ、恐ろしい防御力だ。
「ガッカリだわ」
「安心しろ。まだ奥の手がある」
そう、オレの最大魔法はファイヤだ。どうにかまともに喰らわすことができないものか……。しかしかなり難しそうだ。
水のドラゴンや光の矢から逃げ回っていると、そいつはオレの足を止めにきた。今度は土系魔法だった。地面が揺れたかと思うと、垂直に突きだしてきたのだ。
崖となった地面から転げ落ちた。ウインドを発動して飛ぶ余裕も与えてもらえなかった。水でできたドラゴンは、いつの間にか光のチェーンに変わっていた。そのチェーンは輪となってオレの体を捕らえた。
ぐぐぐ。身動きできない――。
そこへ猛火の球がとんできた。それはまるでオレの得意魔法ファイヤそのもの。この体に直撃した。
わあああああああああ
ハッとした。一瞬、気を失っていたようだ。
くそっ、とんでもない化け物だな。
そいつがオレに屈託のない笑顔を送っている。
「まあ、タフな人ね。まだ動けるなんて」
そりゃオレはヒト族じゃなく、実は魔族だからな。しかも魔族のオトコは皆、タフなんだ。オンナからの虐待に堪えられるくらいには。ツノが生えてた頃だったらこんなもんじゃないぜ。
オレの体は光のチェーンで拘束されているが、手の先っちょならば動かせないこともない。てのひらをそいつに向けた。
喰らってみろ。ミティオライトボム級だとも言われている、オレのストーンボムを!!
ただしそれだけじゃない。
さっきストーンボムはあまり効いていなかった。それでも敢えてのストーンボムだ。すなわち今回のものは、単なるストーンボムじゃないのだ。
ストーンボムと同時にもう一つの魔法を発動。久々の拡大魔法だ。小さな物しか拡大できなかったので、戦闘ではほとんで役に立ってこなかった。しかし――。
発射する『ストーンボム』に『拡大魔法』をかける。
膨張したストーンボムがそいつに命中。
見たこともない大爆発を起こした。
空気が震え続けている。
観衆を驚愕させたようだ。
「見間違いだったか? 片方の魔法陣、ストーンボムのものに見えたが」
「ああ。片方はわからんが、もう片方はストーンボムに間違いない」
「だが、ロックボムやミティオライトボムなんてものじゃなかったぞ」
「それ以上のボムって……」
「つまり、幻の……スターボムだ」
「ま、まさか!?」
ミーンミアのことが心配になった。大爆発の被害に遭っていないだろうか? 彼女の姿を探す。いた! 大丈夫そうだ。オレは安堵の溜息を吐いた。
さて、対戦者のそいつはどうなった?
横向きに倒れていた。
オレ、倒したのか。
強敵だったぜ……。
ところが、そいつはゆっくりと起きあがった。
「殺してしまったかと少し心配もしたが、アンタこそずいぶんタフじゃないか」
「あら、心配してくれたの? 優しいのね。タフなのは当たり前よ。だって……」
そいつは再度スカートの裾をたくしあげた。
ニョロッと出てきたシッポを片手で引っこ抜く。
「なんてことを。シッポを自分で? 気でも狂ったか」
「これ市販の玩具だから。ミーちゃんの真似がしたかっただけ」
さらにそいつは顔を半分隠していたフードを取った。
「さっきの『だって』の続きだけど。あたし、魔族なの」
何っ??
顔が見えた。頭にはツノ。
うっ、嘘だろ? アンタは……。
ベッサーリリィ!!
どうしてこんなところにいるんだ?
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