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57 ルルロコSIDE


ඔබට ස්තුතියි ルルロコ視点 ඔබට ස්තුතියි




   ―― 前日 ――



 お店から連れ出されたところは、なんとコーリシャス城の中だった。今回のお相手は、世間知らずで風変わりなお客様。ヨソの町から来た冒険者様だとか。


 ところが、そのお客様に急用ができてしまった。ここマハ・コーリシャスにおける危機が到来したのだとか。


 この地の危機だろうと、あまり興味のない話だった。それでもわたくしは客商売の身。皆様に同調してみせなければならない。


 眉間にシワを寄せ、驚きの声を発する。サービスとして少々大袈裟に。


「まあ!」


 伝言にきた親兵様が、優しそうな口調で言う。


「心配いらないよ。この地の平和は必ず守ってみせるから」


 わたくしは今夜の仕事がなくなったので、店に戻されることとなった。

 親兵様は副隊長様のご命令で、馬車で店まで送り届けてくれるそうだ。


 城門を出たところで――。


「申しわけございません。馬車をお止めいただいてよろしいでしょうか」


 親兵様は御者様に馬を止めるよう命じてくれた。


「ルルロコ嬢、忘れ物でもしたのかい?」

「いいえ、そうではございません」


 城門のすぐ外にいるらしき人物を指差した。

 わたくしは、嗅覚にはとても自信がある。


「おやっ、あの少女は……」


 親兵様も彼女に気づいたようだ。お客様に平手打ちして出ていった獣人族のお嬢様だ。


 彼女はここで何をしているのだろう?

 ああ、なんとなくわかった。


「あちらのお方は、本日のお客様のご友人様のようです。親兵様、あちらのお嬢様も馬車にごいっしょというのは、難しいお話でしょうか」


 親兵様からは構わないとの返答。

 馬車をおり、声をかけた。


 ご友人様はわたくしの顔を覚えていたらしい。

 それは彼女の息づかいの変わり方から容易にわかった。


「わたくしとお話できませんでしょうか?」

「遠慮します」


 あっさりと断られてしまった。

 ご友人様も面倒なタイプなのかもしれない。


「同じ獣人族ではございませんか」

「種族は関係ありません」


 なかなか応じてもらえない。


「本日、それはそれは酷いお客様に当たってしまいました。最低最悪なお客様でした。わたくしの愚痴を聞いていただけませんでしょうか」


 息を呑み込む音。

 小さな声で「はい」と返事があった。


 わたくしは恭しく頭をさげる。


「嬉しいです。獣人同士でお話できますなんて」


 獣人同士の部分を強めに発音した。それを耳にした親兵様は、わたくしの思惑どおり気を利かせてくれた。親兵様は車両の外、つまり御者様の隣に腰をかけた。


 ご友人様が車両に乗り込み、獣人族二人きりでの会話となった。


 こんなことをしようとした理由は、お客様の誤解を解くためだった。わたくしなりのアフターサービスだ。それからどなたでもいいので、久々に獣人同士のお話がしたかったというのもある。さらにもう一つ。あの風変わりなお客様について、いろいろ語り合いたかった。


 馬車はお客様のご友人様の宿へと向かった。


 このご友人様は自ら話をするタイプには思えない。あのお客様と同様、やはり面倒臭いお方なのは間違いない。


 などと断定してしてみたものの、必ずしもそうではなかったようだ。


「さきほど、あの人のことを最低最悪だと言っていましたが、どんなことをされたのでしょうか」


 気になっているのね?


「とても酷い目に遭いました。もう悲惨なほどです。それにつきまして、逆にお尋ねいたします。あの一室で、わたくしはどのような仕打ちを受けたと思われますでしょうか?」


「酷い目……。信じられません。あの人が暴力なんて……」


「いえいえ。暴力を振われたりとか、獣人だと蔑まされたりとか、そういったタイプの苦痛とはだいぶ違います。ですが、あの二人だけとなった一室で、何故あのお客様は……。ああ、ごく普通に事を済ませてくだされば、こんな思いをする必要はございませんでしたのに! あのお客様には、たいへん驚愕し、呆れ果て、そして心より軽蔑いたしました」


「ふ、二人だけとなった一室で……? 心より軽蔑……?」


 ご友人様の鼓動がドキドキと強くなった。そしてこの息づかい、体温の微かな変化……。視力がなくともよくわかる。お顔を耳まで真っ赤に染めあげているのね。


 ご友人様は何を想像されたのでしょう?


 ただわたくしは胸がキュンとなった。この可愛らしいお方をギュッと抱き締めたい衝動に駆られた。もちろん実行はしなかったけれど。


 ではそろそろ?


「ええ、お聞きなさってくださいますか。実は……あのお客様、わたくしに何もされなかったのです。指一本、触れることがありませんでした。せっかくお偉い兵士様がたくさんの金貨を積みあげて、わたくしをお店から連れ出しましたのに」


「えっ……」


「暇をもてあましました。何もせずほとんど会話もせず、じっと動かず座りっぱなしです。そんな退屈が苦痛で苦痛で……。あのようなタチの悪い拷問は他にございません」


 ご友人様がつくづく可愛らしい。自分では平静を保っているつもりなのね。少しも隠せていませんよ! ほら、その嬉しそうな呼吸音……。お客様の誤解が解けて何よりだわ。


「あのお客様は、恋人様ではないのですか?」


「ちっ、違います!」


 本当に恋人ではないと?


「ではあの平手打ちは何故なのでしょう? もし恋人様ならば理解できなくもないことですが」


「それは……あのときは単に驚いて思わず、その……。よくわかりません」


「では、まだお付き合いされる前でしたか」


「ま、まだも何も……。わたしなんかは獣人ですし奴隷ですし……」


「とおっしゃいますと、あのお客様、獣人や奴隷を低く見られるお方ということでしょうか」


「違います! それだけは違います! いまのはわたしの間違いです。あの人に失礼な発言でした。あの人は決してそんな人ではありません」


「でしたら近い将来、お付き合いされるかもしれませんね」


「いいえ。あの人は素敵すぎるんです。特に魔法の才能は尋常ではありません。わたしなんかとは釣り合いが取れません。友人関係でいることが精一杯です。異性として見られることはないでしょう」


 ご友人様は弱々しい口調でそう言うと、自虐的に微笑んだ。


 あのお客様は、獣人や奴隷を蔑むような人ではない。それについて、わたくしも見抜くことはできていた。『仕事相手』としては関わりたくないけど、『人』としてはその逆。身近にいてくれたらどれほど幸福だろう。


 ご友人様が心底羨ましかった。異性として見られていないのならば、なおさらのこと。真の友人……わたくしには一生、手に入らないもの。


 だからご友人様に嘘をつく。ちょっと意地悪な嘘。


「理想のご婦人について尋ねてみましたところ、あのお客様から意外なご返答がございました。そのお答え、お聞きになりたくはございませんか」


 ご友人様はハッとした顔を見せた。


「聞きたいです」


 蚊の鳴くような声だった。


「お客様のお答えは、内気なタイプよりも積極的なお方とのことでした。遠慮なくグイグイと迫ってくるご婦人に弱いそうです」


 ご友人様はわたくしの言葉を、少しも疑っていないようすだった。




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