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5 人間の町


「えっ。C級モンスターの魔石、なくなったの!?」

「ノッチーロもいなくなったですって!?」


 彼女たちも困惑している。偶然が一度に重なったのだから当然だ。ノッチーロも魔石も、いったいどうしてしまったんだろう。


「他人を疑うことはあまり良くないけれど、盗まれたとしか考えられないわね」


 と言ったのはリムネだ。ミーンミアも首肯している。


「待ってくれ。こんな『狭間の森』の奥地に、誰が盗みにくるって言うんだ。だいたい、魔石はともかくノッチーロは盗まれないだろ。誘拐されたとでも言いたいのか」


「状況からして『ノッチーロが魔石を持ち去った』と考えるのが自然なのよ」


 えっ、ノッチーロが盗んだと? いやいや、ありえるものか。ノッチーロは昨日いっしょに行動した仲間じゃないか。ともに命をかけてサソリ型モンスターと戦ったんだぞ。


 もしかして、こんなときに冗談を言っているのか。


「仲間の大切な所有物を盗むとか、そんなヤツがいてたまるものか」


 すると彼女たちはこう言った。


「ええ。そんな悪党はなかなかいるもんじゃないわね」

「まったくです。身近に盗人がいたなんて初めてのことです」


 はあ? 身近にいたのが初めて?

 オレは首をかしげた。


「仲間の大切なものを盗むヤツが、身近以外ならばいることもあるのかよ」


 彼女たちが顔を見合わせる。

 口を開いたのはリムネだった。


「ロフェイ、もしかして本気で言ってる?」

「もちろんだとも」


 しかしどうして呆れ顔するんだ。


「いったいどこの田舎出身なの? 仲間の物を盗むとかって、そこまで珍しい話でもないから。特に都会ではたびたび耳にする話よ」


 な……なんと。


 普通にありえることなのか。人間には失望した。仲間の大切な物品を悪意で盗むなど、魔界では決して考えられないことだ。


 そりゃ例外もあった。


 たとえば手柄や情報といった無形物だ。それらが仲間に盗まれるってのは、魔界でもしばしば聞く話だ。


 また戦乱時、敵の所有物を強奪や略奪するってのもある。おっと、これは『大切な仲間から物を盗む』には該当しないな。


 あと、オンナが恋人の物品をゆすりとったり、勝手に持ち去っていくってのもよくあることだ。(恋人だから許されて当たり前なのだと、魔族のオンナたちは口をそろえて主張しているのだ!)


 だがノッチーロのしたことは、それらのどれにも当てはまらない。魔族ならば誰もが首をかしげる話だろう。もしかしてオレたち魔族の感覚がおかしいのか? なんにせよ、いま人間の町に向かっている。しかもそこで暮らすつもりでいる。モラルの欠如した社会で、オレはやっていけるのか? ちょっと考えてしまう。


 それはそうと、その前に……。


「ノッチーロは『連れ』だったんだろ? 住んでる場所とか知らないのか」

「あたしたちがそれを知らなかったからこそ、盗みに走ったのでしょうね」

「えっ? 前から仲間じゃなかったのかよ」


 二人はそろって首を左右させるのだった。


「彼とはこの森に入る前日にパーティを組んだの。初対面だった」

「じゃあノッチーロを捕まえることは……」


 リムネが再度、首を横に振る。


「彼、かなり遠い町から来てたみたい。なので探すのは超たいへんね」

「くそっ、絶対に不可能ってことか」


 ただ、『絶対に』ということではないらしい。

 リムネは言うにはこういうことだ――。


「あの魔石は確かに値打ちのあるものだったわ。でも追跡には、気が長くなるほどの時間が必要よ。さすがにそこまでの価値があるとは思えないな。仮に捕まえたとしても、彼が皆の合意のもとで受けとったと主張しちゃえば、有罪にするのは難しいでしょうしね」


 つまり泣き寝入りしかなさそうだ。

 畜生っ、なんてことだ。




 この日も『狭間の森』を歩く。


 たびたびE級やF級のモンスターと遭遇したが、それらを倒して魔石を得ることができた。なおも歩き続ける。


 まもなく人間界に入るらしい。歩きながら魔石の分け前について話し合った。結果、それぞれ次のとおりで話がまとまった。


 オレ:E級x1個、F級x2個

 リムネ:F級x3個

 ミーンミア:E級x1個、F級x2個


 リムネが一歩譲ってくれた形だ。



 人間の町が見えてきた。あともう少しだ。そんな思いとともに、不安も増大していった。ノッチーロの件があったからだ。


 人間は親しくなったとしても、信用してはならない相手だ。魔族の常識は通用しない。また、もし魔族だとバレたら殺される。もはや鬼法が使えないので、抵抗するのも難しいのだ。



 ようやく人間の町に到着。町名はウルスロというらしい。

 へえ、ここが人間の町……。



 すっげぇ!



 石畳の道を人間が歩いている。馬が車を引いている。魔界にはない町並みだ。この景観はとても新鮮だった。感動すら覚えた。車輪がゴトゴトとうるさいが、不思議と耳心地がいい。


 ある場所で死臭がした。そこに羊肉が並べられている。

 別の場所で甘い香りがした。木の実が並べられている。

 爽やかな匂いに包まれた。並べられているのは石鹸だ。

 それらは露店というものだと、ミーンミアが教えてくれた。


 衣服の並べられた露店で、ある通行人が立ち止まる。服を選び、金属片を手渡そうとしている。


 ほう、なるほど。あれならオレも知ってた。その金属片は硬貨ってヤツだな。人間社会特有のアイテムだ。


 その通行人の手が止まった。硬貨を袋にいったん戻す。もう一点の服を取った。屋台の男と話がまとまると、なんと服一点当たりの硬貨枚数を減らしたのだ。リムネはそれを『まとめ買い』というものだと教えてくれた。


「へえ、そんな裏技があるとは!!」


 面白い光景を見た。


「なんにも知らないのね。ロフェイはどんな辺境の地から来たのよ」

「もしかして、わたしたち獣人族の里の近くからではないでしょうか」


 もちろん魔界からなんて言えるわけがない。


「そ、それは……秘密だ」


「ごめんなさい。軽率な発言だったかもしれないわね。でもロフェイを悪く言ったり、馬鹿にしたりとか、そんなつもりはなかったから」


「別にいい。気にすんな」




 このあと狭い路地へと入っていった。


 突然、背後から男の低い声。


「こら、ちょっと待て」


 振り向いてみると五人組の大男がいた。皆、ナイフを握っている。

 リムネとミーンミアの目つきが鋭くなった。


「大勢の男がなんの用かしら?」

「その場に財布を置いて立ち去れ」


 それが大男たちの要求だった。

 しかし……。


「横から口を出してスマン。財布ってなんだ?」


 素朴な疑問をぶつけてみた。


「はあ? ふざけるな、殺すぞ!!!」


 怒られた。ふざけたつもりはなかったが。

 待ってましたとばかりに、リムネがニッコリする。


「殺すって言ったわね。それじゃ正当防衛ってことで……」


 リムネの手の先から魔法陣が浮き出てきた。

 大慌ての五人組。踵を返して走りだした。


「しまった、魔導師だったのか!」

「逃げろ、こっちが殺されるぞ」

「たっ、助けてくれー」


 五人組は逃げていってしまった。

 リムネがオレに説明する。


「さっきのお財布のことだけど、ふざけて言ったわけじゃないのよね? だったら一応教えておくわ。お財布って硬貨を入れておく袋のことよ。こういう狭い路地だと、ああいう悪い連中がたまにいるから、奪われないように用心が必要なの」


「ほう。勉強になった」


 オレがそう言った直後、また背後から声がした。


「おい、ちょっと待て」


 振り向いてみると長身の男がいた。

 サーベルを握っている。


 オレはリムネに訊いてみた。


「アイツもさっきの連中と同じような悪いヤツか?」


「あの制服をよく覚えておいて。彼らは『町の治安警備団』っていうんだけど、多くの場合、もっとタチの悪い人々なの」


 治安警備団の男が目を細める。


「この路地は非常に治安が悪く、強盗も頻発している。念のため持ち物検査をさせてもらう」


 なんだ。単なる持ち物検査か。

 今回は悪いヤツじゃなかったようだ。


 しかしリムネがぼそっと言う。


「困ったわね。ああ言って持ち物を奪うつもりよ。もし抵抗しようものなら公務執行妨害ってことで、あたしたちが悪者になってしまうわ」


「はあ? なんだそりゃ」


「治安警備団は文字通り、町の治安維持のために配備された組織よ。だけど彼らの一部には、副業で強盗もやってる連中もいるの。『権力を持った強盗』だからとても厄介。残念だけど、運が悪かったと諦めるしかないわね」


 リムネとミーンミアが両手をあげる。

 だが、そんな彼女たちに笑顔を見せてやった。


「オレ、いいこと考えた」

「いいことって何よ」

「簡単だ。殺せばいい。証拠が残らぬくらいに焼き尽くせばいい」


 オレは片手を前に突きだした。

 ミニファイヤ、喰らってみろ!





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