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38 集落民の秘密


 なんだと……。

 イージュたちも魔族だった?


「本当よ。ここの集落民は皆、魔族ってこと。ツノを失ったから、こんなみすぼらしい顔立ちになっちゃってるの」


「もしかしてツノは切られたのか」


 だとしたらオレと同じってことだ。

 イージュは悲しげに笑みを浮かべた。


「そう。あたしたち集落民は、誰一人の例外もなく流刑囚。ツノを切られたのち、魔界を追放された。その後、少しずつここに集まって暮らすようになった。人間とはいっしょに住めないからね」


 皆、流刑囚だったと!?


 話を聞いて羨ましく思った。彼女たちは追放された先に同じ魔族がいたのだ。オレの場合、周囲に魔族の流刑囚はいなかった。ただ、ハーフのルーシャがいてくれたことは救いだった。出会った人間や獣人がリムネたちだったことも、幸運だったと言えよう。


 イージュはこんな話もした。


「デジルは本当にどうしようもない子だよ。馬鹿だし。あの子はずっとオトコに飢えてた。オトコが欲しくて堪らなかった。だけど鬼法が不能になっちゃったんで、オトコを得ることはできなくなった。鬼法がなければオトコを従わせられないからねえ。そんなとき、人間のオスを見つけた」


「オレってことか」


「そう。あんたの外見から人間だと思うのは当然。軟弱な人間ならば、戦って勝てると思ったのだろうね。だけどあんたに破れた。ショックはデカかったはず。まあねえ、人間OKのビッチには最高の薬になったと思うんだけど」



 ゴゴゴゴゴゴゴ ズドン



 何かと思えば、爆雷系の鬼法だった。ただ、ずいぶんと貧弱な鬼法だこと。威力はオレのミニファイヤよりも遙かに格下だ。


 あの二人の男の仕業に違いない。だが……鬼法を使ってきたぞ?


「アイツら、ツノはないんだろ? 鬼法は使えないんじゃないのか」


「使えるよ。ほんの僅かにツノが残ってるから。微かに皮膚が硬く盛りあがってるだけだけど。そのため鬼法の力は微弱なもの」


 知らなかった。ほんの少しツノが残っていれば、弱い鬼法が使えたとは。しかしオレの頭にはまったく残っていない。オレには関係ないってことか。


「ここの集落民は皆、ツノが多少は残ってるのか」


「ううん、まったく残ってない集落民もいるよ。デジルだってそう。だから彼女はここのオトコどもを、自分のものにできなかったんだ」


 ふうん。気の毒と言えば、気の毒だな。

 では、そろそろ本題に入ろう。


「アイツらの目的はなんだ? 何故こんなことをしてるんだ?」

「すべて鬼法の完全復活のためよ。失った能力をきっちり取り戻すの」

「何っ、鬼法を完全に取り戻せるというのか」


 ツノはほとんど残ってないんだろ?


「可能よ。ここの集落民の僅かに残ったツノから、鬼法の根源をぜーんぶ奪い取っちゃえばいいの。たとえ皆殺しにしてでもね。どうせ、全員流刑囚なんだし。あたしたち三人で考えたんだ」


 鬼法の根源というのがイマイチわからん。だがそれをツノから奪えさえすれば、鬼法を完全復活できるのか?


 イージュは続けてこう言った。


「で、そろそろ始めて見ようかって話になってた。まず、あんたに白羽の矢が立った。当然よね、こんなタイミングで集落に来ちゃったんだもん。なのに……あたしまで!! あんたの巻き添え食らったわ」


 巻き込まれたのは、オレではなくイージュだったらしい。


 ふと思った。


「なるほどな。お前もあの二人に狙われるわけだ」

「あたしも狙われて当然なの?」


 不思議そうな顔だが、本当にわからないのか。ならば教えてやろう。


「そう、お前はオンナだからな。オンナはオトコよりも強力な鬼法をぶっ放せる。つまりお前が鬼法を完全復活させれば、アイツらを楽に支配できるようになる。二人にとっちゃ、お前は脅威だったんだ」



 ドボーーーーン



 いきなりなんだよ! 明かり窓からの攻撃だった。それでも彼らの鬼法は大したことがなかった。オレもイージュもほとんど無傷だった。


 ミニファイヤで返してやろうと、手を突きだした。

 するとヤツら二人が怪しく笑う。


 何がおかしい?



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォ



 なんだ、この音は。

 オレは手をおろした。


 イージュが悲鳴をあげる。


「壁が崩れた!!」


 確かに明かり窓とは反対側の壁が崩れだした。

 しかしそこまで怯える必要があるのだろうか。


 壊れた壁の奥に何かがいた。

 そいつがこの部屋に入ってくる。


「殺される、殺される!!」


 イージュがまた騒ぐ。


 どうした? 現れたのはグロテスクな姿のモンスターだった。アリクイのような長い口を持った顔が、大きなナメクジのような体から突き出ている。そして小さく短い足が四つあった。


 あまり強そうなモンスターには見えない。イージュがそこまで怯えるほど恐ろしいものなのか。まあ、見た目の気持ち悪さならば、オレも悲鳴をあげたいものだ。


 モンスターが四つの短い足で這ってくる。細長い口を一気に開いた。なんだ? 部屋内の空気を吸い込んでいるのか?


 突然、イージュの様子がおかしくなった。苦しそうに悶えている。


「おい、どうした?」


 応答はない。

 ただ「はぁ、はぁ、はぁ」と、息を荒げているだけだ。


 明かり窓からの声が聞こえた。


「アイツ、まだ平然としてるぞ?」


 オレのことか? 平然としてたらなんだっていうんだ。そりゃモンスターの見た目はグロい。目をそらしたいし、触りたくない。だが、モンスターからはまだ攻撃を受けてない。


 そういえばイージュの苦悶している様子……。

 まさか攻撃は始まっていたというのか。


 ふたたび明かり窓から二人の声。


「アイツ、無事だなんて……。もしやツノがまったくないんじゃないのか」

「そんなはずはない。さっき強力な鬼法をぶっ放しやがっただろ!」


 ほう。ツノがあったら無事ではなかったと? グロいモンスターは大きく息を吸い込んでるが、やはりそれがヤツの攻撃だったのか。オレにツノがまったくなかったことが、今回は幸いしたわけだな。


 だけどあの二人、ミニファイヤを鬼法の一種だと思ってやがる。まあ、オレも魔法陣のことを除けば、魔法と鬼法の区別はつかないが。


 足元でグッタリしているイージュに問う。


「一応訊く。オレはなんともないが、お前、演技してるわけじゃないんだな?」


「演技してなんの得があるってのよ。あのモンスターにいま吸われてる。僅かなツノに込められた鬼法の根源を。それが苦しくて苦しくて……」


 鬼法の根源って、さっきの話に出てきたヤツだな。


 それがモンスターに吸われてるのか。


 オレもツノを失ったとき、気絶するほど苦しい思いをしたっけ。でも何故か切られた痛みだけじゃなかった。なるほどな。鬼法の根源とやらを断ち切られたのが、あのときの苦痛の原因だったとは。


 ところで……。


「この不気味なモンスターはなんなんだ」


「故郷の地方では稀に見かけるんだけど、昨年そいつの幼体を狭間の森で偶然見つけたんだ。三人で大喜びして、持ち帰って育てた」


「こんな気持ち悪いもの、よく持ち帰れたな」


「必死だった。故郷じゃ、言い伝えがあってね。そいつ、鬼法の根源を体内に蓄えてるから、生で食せば鬼法を増幅できるって信じられてるんだ。つまり集落民すべての鬼法の根源をそいつに食わせ、あとであたしたちが頂いてしまう予定だった。鬼法の完全復活のためにね」


「わっ、気持ちわりっ。あのグロいのを生食とか。そいつを食うぐらいなら、死んだ方がマシだぞ」


「ろくな鬼法が使えない方こそ、死んだ方がマシよ!!」


 そうなのか。


「じゃあ、いま望んで死ぬってことか」


「それはその……やっぱり死にたくない。でも結局そいつに殺される……」


 なんだそりゃ。


「オレがそのモンスター、屠ってってやろっか」

「できっこない! 鬼法に耐性があるから、普通じゃ倒せりゃしないの」

「やってみなきゃ、わからんだろ」


 ヤツが短い足で歩いてくる。こっちからも近づいていった。

 いまのオレにゃ、鬼法はなくとも魔法があるのだ。


 手の先に魔法陣を作る。


 エアーブレイド!


 たった一振り。楽勝だった。ヤツの小さな頭は首から落ちた。首の切断面から体液を垂れ流し、グロい体は縮んでいった。


 明かり窓の向こうから二つの声。


「馬鹿なっ。アイツ、あのモンスターを倒しちまったぞ!」

「大抵の鬼法を無効化してしまうモンスターのはずなのに」

「モンスターが殺されたってことは、鬼法の完全復活はできなくなったのか」

「そんなことより、逃げた方がいい。アイツは特殊な鬼法が使えるんだ」


 逃すかよ。オレを殺そうとしたんだからな。

 魔法陣を足先に作る。ウインド!


「アイツ、飛びやがった。そんな鬼法まで使えてやがるとは」

「マズい、マズい、逃げろ、逃げろ!!」



 ファイヤ!!!



 新人戦で放ったときよりも、威力が強くなっていた。


 オレは鬼法こそ使えないが、魔法ならば使える。

 魔石のおかげで、使える魔法が増えつつある。

 日々、魔法の威力が増大しているように感じる。



 明かり窓側の壁は、完全に破壊された。

 ヤツら二人の体は残っていなかった。




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