3 はじめての魔法
安心していいだと? いま人間は確かにそう言った。しかも不思議と笑顔を向けている。もしや殺すつもりはないと? ああ、なるほど。オレを人間だと勘違いしてるんだな。
ツノを失ったオレは、人間と変わらない容貌になった。それが幸いして、武装した冒険者に人間だと思われたらしい。
三人の冒険者は、それぞれオス、メス、メスだ。面白いことに、メスのうち片方は普通の人間じゃない。獣人族ってヤツだ。
「ちょうど良かった。あたしたち、そろそろ引き返そうと思っていたところなの。
あなたを町まで送っていくわ」
はあ? いま人間のメスに言われたが、とんでもない。冒険者といっしょに行動するなんて、考えただけで恐ろしすぎる。ましてや人間の町へ行くなんて。
「ありがたいが遠慮する」
提案を断った。しかし立ちあがった際に、よろけてしまった。そのままうずくまり、片手で頭部を押さえた。ツノのあった場所が、まだズキズキと痛む。
すると回復魔法を施された。もちろんそんなもので、ツノが復活することなどない。痛みにしたって緩和されるはずもなかった。
だが結局のところ、ほぼ強引に人間の町へと連れられることになった。魔族だということをこのまま隠し通さなければならない。ああ、もし正体がバレたら、どんな殺され方をされるやら。
それから……これもツノがなくなったためなのだろうか。足がふらついている。すると三人はオレのために、ゆっくり歩いてくれた。オレを置いていってくれればいいのに。
しばらく歩いたのち、突如としてオレたちに緊張が走った。目の前にサソリ型の巨大モンスターが出現したのだ――。
三人が大声で騒ぐ。
「サソリ……でかっ」
「あれはインフィエルノ・スコーピオンだ。何故こんなところに」
「インフィエルノ・スコーピオン? C級モンスターじゃないですか」
「C級のモンスターって! かなりマズいことになったわね」
「やるっきゃないだろ」
長剣を握る人間のオスと、二つの短剣を左右の手で操る獣人が、近接戦でモンスターに挑む。人間のメスは後方から魔力を使った攻撃で挑むことになった。しかし三人は巨大な敵にかなり苦戦している。
人間のメスが振り返った。
「いまあなたが弱ってるのは知ってるけど、少しでいいから加勢してもらえないかしら? あたしたち追い詰められてるの。ホント、大ピンチだから」
そう言われても、オレは鬼法が使えなくなったのだ。参戦なんてできるか。
「悪いがオレは無力だ。ここで共に死ぬ以外、何もできない」
「だけど剣も槍も持ってないってことは、あなたは魔法の使い手じゃないの?」
ああ、そういえば人間が魔力を使ったものを『魔法』とかいうんだったな。オレたち魔族が使用する『鬼法』によく似たヤツだ。
オレは首を横に振った。
「魔法なんてものは使えない。少なくとも使ったことがない」
「魔法も使えず、武器も持たず、この森に来たわけ? 無謀すぎ」
「オレだって別に来たくて来たんじゃないだ」
すると人間のメスは、ポケットから何かを取りだした。
「だったらコレ使ってみて。もし使えたら、返却不要でいいから」
青い石を投げ渡された。これは魔石……だな。
「こいつをどうしろと?」
するとこんな説明が返ってきた。
「何もしないよりは、ずーっとマシ。それは魔法のミニファイヤ用に加工された魔石よ。百回でも千回でも試してみて。まぐれでミニファイヤが発動するかもしれないから。一度でも成功したら習得したことになるわ。魔石は砕け散るけど」
「よくわからんが、やればいいんだな」
とりあえず試すことになった。
手順を聞き、ワケがわからないまま実践する。パーンと魔石が砕けた。ちょっとビックリした。伸ばした手の先に魔法陣が浮きあがる。そこから火球が生じた。
わっ! 出た。
火球は勢いよく飛び、インフィエルノ・スコーピオンの足一本を破壊した。
冒険者の三人が驚愕する――。
「なんなんだよ、いまのは? ミニファイヤにしちゃ、デカすぎるぞ」
「彼、その魔石を使ったのよね。確かにミニファイヤの魔石だったけど……」
「信じられません。あんな巨大なミニファイヤ、見たことありません!!」
さっきのオレの魔法、普通ではなかったらしい。
三人が話を続ける。
「俺だって見たことないぜ。しかも初回で発動させるとか、なんてヤツだ」
「ミニファイヤでインフィエルノ・スコーピオンの足を破壊って、嘘よ!」
「はい、まったくの驚愕です。わたし夢でも見ているのでしょうか……」
称賛されているようだが、なんか複雑な気分だ。魔族のオレが人間の『魔法』を使ってしまったのだ。まさかこんなことが現実にあり得るとは。だいたいどうして使えたのだろう……。ツノがなくなったためなのか。
鬼法とは違い、魔法って疲れるものなんだな。かなり魔力を消費したようだ。そういえば、魔石が砕けたら習得したことになるとか言ってたっけ?
てことは魔法を習得したことになる。
オレが人間の魔法なんて……。いいのだろうか。
とにかく魔法発動のイメージは掴めた。
ただ……。さっきのは軽くやってみただけだ。もし魔法発動にもっと真剣に取り組んだらどうなるんだ?
全力本気での魔法発動かぁ。
面白いかも。よし、やってみよう。
オレはインフィエルノ・スコーピオンに手を向けた。
今度は試し打ちじゃなくて本番だ。
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