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「~~ア!」


「~リア!」


「ミリア!」


「エミリアァ!!」




 気が付くと私はフレンに膝枕をしてもらい身体を揺さぶられていた。

 まだ視界ははっきりとしてはいないが、かなり動揺しているように見える。




「……フレン……」




「エミリア!良かった……死んだかと思った……。

 てか安心したらめっちゃ寒くなってきた……寒すぎて俺が死にそうだ……」


 フレンは鼻をすすりながら自分の身体をこする。「上半身裸だからだよ……」そう言いたくても言葉が喉につかえて発する事が出来なかった。


「ご…めん」


 私は精いっぱい力を振り絞ったが、この一言しか出なかった。


「びっくりしたよ……いきなり無言になったと思ったら、急にすげぇ呼吸乱れて目ん玉ぎょろぎょろしながらめっちゃ身体ふるえて、頭から川に倒れてさ……危うく流されるとこだったよ……」


 フレンはまだ震えている私の両手を優しく握り、キュッと包み込んでくれた。

 フレンの手も水に濡れてるのにあったかいなぁ……。

 そういえばこういう風に優しくされたのって久しぶりだなぁ……。

 そう思っていると無意識に涙がこぼれ、フレンの手を握り返した。


「ごめんね……本当にごめんなさい……私……グズだから……皆に迷惑ばっかりかけちゃって……」


 止めたいのに涙は流れ続け、私はひたすら謝る事しか出来なかった。

 そしてそれしか出来ない自分に嫌気がさし、孤独の悲しさ、自身の弱さに沸き立つ怒り、フレンに優しくされた喜び、様々な感情が渦巻きはじめ、いよいよもって声を上げて泣いた。


 そんな私をフレンは曇った表情で無言で見つめ、手をさっきよりも強く握っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 あれからどれくらい時間が経っただろうか、私はひとしきり泣き叫び続け、気が付けば日が傾き始め、景色がオレンジ色に変わり始めていた。


「ごめんねフレン」

「それ言うの7回目、もう謝らなくていいよ、俺は全然気にしてないからさ、それよりも俺もエミィも生きてて良かったぜ」


 フレンは大きく伸びをした後ため息交じりに「ふぅ」と息をした。


「次謝ったらデコピンすっからな」


 険しい顔で私に顔を向けたが、すぐにいつもの笑顔をみせる。


「わかった……ごめ」


 私は言葉を言い終わりかけた瞬間に視界にフレンの指がにゅっと映り、私の眉間をビシッと叩いた。


「あいっ!」


 私は思わず言葉を発し、両手で眉間を軽くこすった。


「バーカ、言われたそばから言うんじゃねぇよ」


 フレンはニシシと笑いながら私の頬を両手で引っ張る。


「い、いひゃいいひゃい!もうひわはいはら~」


 パッとフレンは手を離すと「よろしい!」と言って腕を組んだ。


「少しは気、落ち着いたか?」

「ほんの少しだけね」


 私は苦笑いで答えた。


「そっか、ならよかった」

 

 少し沈黙した後、フレンはあまり元気のない口調で語り始めた。


「まぁなんつーかさ、お前が……。

 お前の家が大変になって、家の事手伝いはじめてからお前の元気がどんどんなくなってって……。

 数年間ずーーっと俺に出来る事無いかなって色々考えてたんだけど。

 他人の家の事情に首突っ込んでいいのかわからなくてよ……。

 何も出来なかったんだ……。

 今日の薪割りも本当は手伝うかどうかすげぇ悩んだんだ……でもあんなよろよろしてたら危ないし時間も凄い掛かるだろうと思って、つい手伝ったんだけど……。

 そしたら案の定今に至っちゃったわけだし……もどかしいよなぁ……」


 フレンははぁとため息をしてぐったりと項垂れた。


「……仕方ないよ、フレンが私に出来る事は『私に何もしない事』が一番の答えなんだから……」


 私も項垂れているフレンと同じように俯いた。


「悲しい答え、だなぁ……」


 フレンはそういうと大の字になって地面に倒れながら空を見上げた。


「あ、そっか、わかった!」


 大きな声で「ひらめいた!」と言って空に向かって指を指した。


「エミィ、お前いつも下ばっかり見て歩いてるだろ?今度からは上を見ようぜ!」

「上?」


 そういわれて私は空を見上げる、そこには茜色に染まったキャンパスに、色々な形をした雲が浮かび、鳥達が鳴きながら空を飛んでいた。


「綺麗だね……」


 思えば空を見上げるなんて何年ぶりだろうか、私はもうずっと下しか見ないで生きていたので、何気ないこの夕暮れの空がとても新鮮に思えた。


「だろ?でよでよ!俺今からメッチャいい事言うから忘れんなよ!」


 フレンは相変わらずの笑顔で私を見る。


「それ自分で言うの?」


 私は自然とくすりと笑うと「まぁまぁ」といってフレンは続けた。


「エミィはここ数年間俯いてばかりで同じ物しか見えてなかった……いや、見れてなかったって言った方が正しいか……。

 そんで、地面なんて余程何かない限り見えるものは変わらない……でも空はちげぇ、空は毎日…いや、たった一時間でもガラッと変わるんだ」


 再び私は空を見上げると今日は上空の風が強いのか少しだけ雲の位置が変わり、鳥達もいない……しかしその代わり夕日の太陽が先程よりも気持ち動いている気がした。


「………」


 私は黙ってそのまま空を見上げ続ける。


「……今の生活……家庭環境とか……根本的な解決の糸口は無いけどさ……。

 これから先、俯きたくなるような事があったら空を見上げてみるってのはどうだ?

 俯くよりは景色が変わってる空を見上げて『あの雲美味そう!』とか『星が綺麗だなぁ』とかな?よくね!?」


 確かに今の私の生活を今すぐ変える事は出来ない……でも確かに……下しか見ないで憂鬱な気持ちで歩き続けるよりは、空を見上げる事もいいかもしれない……本当に些細な……他の人から見たらちっぽけな話かもしれないけれど、私の中では大きい変化になるかもしれない……。

 私は心臓の奥が一回だけ大きくトクンと鳴った気がした。


「今こうやってエミィが見上げてる景色はエミィだけの物だ……。

 俺が見上げてる景色も俺だけの物……そんでもってな」


 フレンは立ち上がり私の真横に来て再び空を見上げ、先程の無邪気な声じゃなく落ち着いたトーンで。


「こうやって二人で並んで見る空は、俺とエミリア、二人だけの物……」


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