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第4話 亡者

 死んでいるから、この世界では疲れないと考えていたけど、宛てなく1キロ2キロ歩き、疲労が重石おもしのように伸し掛かる。

 死にそうなほど疲れた。


 光のない空を見上げて一息着くと、彼方に目が止まる。

 地平線から浮き出たコブのような山があり、低い山頂に扉の無い、門のような物が建ててあった。


「なんだろう?」


「魂を転生させる門だよ」


 と、しゃがれた声が答えた。

 声は足元から聞こえる。

 そこには、石の上に置かれた老婆の生首があった。


「いやぁ!?」


 腰が抜けて地面に尻餅をついて座り込む。

 まともにしゃべれそうな人が生首なんて、つくづく、この世界は最悪だ。

 誰であれ、何かを知っているなら教えてほしい。


「あの……」


「見ての通り、首しかないからね。なんもできないよ」


「その、転生がどうのと……」


「あぉ、転生すると前世の記憶も、死後の世界にいた記憶も無くして、生まれ変わるのさ」


「また、生きられるんだ」


「まぁ、この門をくぐっても、どうせ戻ってくるだろ?」


「え?」


「産まれて生きても、寿命がくれば死んじまう。不幸があれば早死にもする。中には母親から産まれた瞬間に死ぬ人間だっている。そもそも、また人間に転生できるとは限らんよ? 牛になってステーキにされちまうかもしれない。あるいは蟻になって、人間に踏み潰されるかもしれない」


 その話を聞いて、私は改めて転生のリスクにたじろぐ。

 老婆は呆れたように話を継ぐ。


「生き物の命は儚い。なのに生きて死に急ぐ。わかんないねぇ。なんの意味があって生きるんだい?」


 なんの為に……。

 やりたいことがいっぱいある。

 人の寿命じゃ足りない。

 やりたいことを全部は選べない。


 だから、自分が好きになった物や、やると決めたことは一つ一つ大事にしたい。

 短い命だからこそ必死で探せる。


 意味なんて……今は、これで充分。

 老婆に理解されるかわからないけど、これだけは言いたい。


「永遠に生きていたら、生きる意味を探す気にならない。だから私は、もう一度、生きたい」


 芯が固まった矢先、恐怖でしかない、あの声(・・・)が呼び止めた。


「そして俺は、牧野という奇跡を見つけたんだぁ!」


 驚き振り向くと、全身は紅蓮の炎に包まれ、顔から足の先まで真っ黒な炭に変わり果てた、ストーカー男がいた。


 目や口から火が吹き出し、人の形をした炭が炎の服をまといながら、こっちへ近づいて来る。


「俺も連れていってくれよ。お前と俺、生きるも死ぬも、地獄だって一緒だ!」


「こ、来ないで!」


 その後ろからも、同じように炭となり火を噴きながら歩く集団が、ゾンビのようにさ迷っていた。

 石の壁に挟まれ、溶岩の海に呑み込まれた人々だ。

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