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【クロウディプレート】「全ての終焉を司る樹」を体に宿す少年は、世界を憎む少女達と共に深呼吸をする。  作者: 絹鍵杖
滅國の再帰姫 序章

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第0.7話「人種魔妖」

 人を惹きつける「魅力」というものにはさまざまな種類がある。

 他者を楽しませる話術や知識、技術としての力。

 正当性、或いは合理性を以てより善い判断を下すリーダーシップ。

 もしくは人格や経験から生まれる人当たりの良さ、居心地の良さ。

 いずれにしても、環境と経験、目的を持って身につくそれらの「匂い」は、人間社会を生き抜く上で非常に役立つことは間違いない。初対面で険悪な印象のまま仕事をするよりも、お互いを理解し合うことができれば、より強固な関係を築き上げることができるように。


 では、それらの「匂い」を生まれ持つ種族がいたとしたら。


 魅力、と言っても所詮は人格とステータスの一部。生まれ持った地位や財力などを他人に見せず、自分の魅力を当てにしない人達もいるし〝彼ら〟が才能を生まれ持ったことに何の不思議も疑問も抱かないかもしれない。

 しかし。その生まれ持った「才能」が「人を傷付ける性質の才能」だったのなら、話は別だろう。

 話術ではない不可視の何か。

 正当性の無い無限の侵蝕。

 経験や人徳を正面から否定。

 洗脳。催眠。一世紀以上も昔に人類は、当時の科学力では立証が不可能な手段による「才能」を嫌い、その才能を使う者達に畏れの意味を込めて〝人種魔妖プーニッド〟の烙印を押した。

 天使や悪魔、果てはヒトのカタチをしているだけの精霊など、人間には無い能力を持つ種族の悉くがそう呼ばれ、とある時代には〝人種魔妖〟が〝域物〟と同じ存在の敵であるとみなされたこともある。

 以来彼らは恐れられ、忌避される存在となった——。













「…………そうだ」


 天袖の脳裏に、短い単語と共に噴き出す記憶。

〝勝てない〟と諦めたばかりの敵。そんな存在がつい最近現れたのを、天袖はうっかり忘れていた。


(クオンティの前にいる〝あいつ〟を、どうにかしないといけないんだ)


 だけどその前に。


「……オイ」


 突然立ち止まった天袖の胸に顔をうずめたラスノマィが、頬を赤く染めて恨めしげに天袖を睨む。

 そこでやっと天袖は己の過ちを思い出し、自分達の現状を思い知った。


「……っ、ごめんなさい」


 天袖は思考に夢中になるあまり自身の特性、体質を忘れてしまっていたのだ。

 無意識ながら胸に抱きしめていたラスノマィを離し、謝る。


「……」


 しかしラスノマィは天袖の〝ごめんなさい〟に反応しない。謝られたからと、反省しているからと全てが許されるわけではない。

 まして、自分の特質を知らないわけではないのだから。


(……また、やった)


 無意識の重みを噛み締めながら、天袖はラスノマィの後を歩く。


(約束したのに。ちゃんと頷いたのに)


 彼女の嫌がることを無意識に実行した己を、彼は嫌いになってしまっていた。

 約束を忘れること——それは仕方のないことだとしても、それでも許されざる罪がある。人類という大きな括りではなく「天袖」という個人が生まれながらにして背負うべき業が。

 天袖には特殊体質がある。天袖自身にも掌握できないその体質は「彼に近づく異性の精神に干渉し、天袖に好意を抱かせる」というもの。その効果は本人に近づけば近づくほど強力に影響し、たった今天袖がしたように触れ合い、抱きしめでもすれば一〇〇パーセント中毒になる。中毒になると善悪の判断や自分と他人の違いさえつかなくなり、自我の崩壊にもひとしい事態に陥ってしまうのだ。

 他者を操れるという能力ではないが、人間をいとも簡単に廃人にできる能力は洗脳以上の危険度がある。

 人間にはあり得ない特質。それは、天袖が〝人種魔妖〟という人間とは異なる種族の生き物だからだ。

 天袖は自分の特質を、自分が背負うべき罰だと、自分が生まれてしまったことに対する責任なのだと考えてしまっていた。

 ラスノマィが、自分に抱きしめられてなお〝正気を保っていること〟とは別に。


(…………)


「……はぁ」


 解放されたラスノマィはまず、乱された呼吸を深呼吸で整える。その間、天袖と密着していたせいで火照った身体が雨の空気で冷やされていくのを肌で感じながら、彼女は天袖に振り向かず、歩き始めた。


「…………」


「…………」


 無言のまま、二人は街を歩く。

 通行人は誰も彼らを気に留めない。時折視線を向けても、常識の範囲を出ない。

 いや、少し彼らは道行く人々の視線を集めていた。

 だけど全員が全員振り向いたわけでも、気づいたわけでもなかった上に〝この街〟で涙を流す少年なんて珍しくもない。さらには雨で音がかき消されていた事もあって、隣を歩いていたラスノマィも天袖の変化に気づくのが遅れた。


「…………」


「…………えぐっ」


「あのなあ」


 メンタルげきよわ少年、天袖。

 たった数歩の沈黙でさえも、今の天袖に耐えることはできなかった。

 だが実のところ、天袖の思考は大きな勘違いだ。

 ラスノマィは天袖に対し怒っていただけで、天袖のことが嫌いになったわけではない。

 許すも許さないもなく、たったの数歩でもう気にしてすらいなかったレベルなのだ。

 だからといって、天袖をあやすような真似は余計に天袖の心を潰す。

 ラスノマィは天袖に抱きしめられる前と変わらない態度で、天袖に言葉を投げかけた。


「ボクだけどわたしだってだけならともかく、お前は〝人種魔妖〟だろ。発展階層への立ち入りを断る連中が、同じようにボクだけどわたしだってとお前を歓迎するとは思えない」


 話す内容は、ラスノマィが天袖の胸に飛び込む前の続き。彼女が抱きしめられたことを気にしていないという、無言の示しだ。


「……で、でもっ、ぞれなら、らずのみだげ、いっで、ぐればっ……」


「……、どうしてそこまで号泣できるんだよお前は。ほら、鼻水拭け」


「……あ゛い」


 ……けれど。天袖もラスノマィの心遣いをわかってはいても、一度溢れ出した涙は止められない。さらにしゃくり上げてしまい、天袖が落ち着くまで、ラスノマィは会話をやめて彼の背中をさすっていた。


「落ち着いた?」


「……うん」


「よし、じゃあ話を続けるぞ」


 天袖が落ち着きを取り戻して数分後。

 変わらずのざあざあ降りと爆音広告を横にしながら、二人は会話を再開した。


「完全に会わないのが一日だけなら何とかなるかもしれないけど、クオンティまで行くとなると帰ってくるまでに数ヶ月はかかる。内容によっちゃ半年くらいかもな。その間はお前に会うために離脱とかできないだろうし、普通にデメリットしかないんだよ」


「……半年くらいなら、土の中に埋まってるから帰ってきたら掘り起こしてくれれば」


「セミかお前は。……いやできそうなところが怖いけど、それでも行かないよ」


「……行ってほしくない。けど」


 それでも、なんとか……と、あうあう考える天袖にラスノマィはため息を吐いた。


「言っとくけど」


「……うん」


「人前でやられることが嫌、ってだけだから……な。ああいう恥ずいのは、誰も見てないとこでなら……まぁ、ボクだけどわたしだってうれしいんだ」


 俯いていた、天袖の顔が上がる。泣きやんでもなお暗かった彼の表情に、光が差した。


「天袖も、うれしいだろ」


「……うれしい。うれしい……けど」


 不貞腐れた態度でそっぽを向くラスノマィに照れながらもこくん、と頷く天袖。だが、まだ彼の瞳には影が落ちている。


「……らすのみが行かないなら、たぶんあの人達は全員〝あそこ〟で死ぬ。だから、それでも、行って、行かなきゃいけなくて」


(……なるほどな)


 天袖が俯く理由は、人を集めて無謀な挑戦をしようとしている調査隊だ。

 まるで彼らがこれから対峙するであろうものの正体を知っているかのような様子で、天袖はラスノマィに無視された時よりも怯えていた。


(……やっぱ、アレが原因か)


 過去に刻まれた傷、対峙した時に感じた恐怖は、いくら時間が経っても到底拭いきれるものではない。変えることのできない過去が体を縛りつけ、視界を覆い尽くすほどの恐怖が思考を凍らせるのはいつの時代も同じだ。


「しょーがねーなー」


「……!」


 恐怖に呑まれ始めていた天袖の不安を吹き飛ばすように彼の手を握りしめて、ラスノマィは明るく言う。少しでも彼の負担が軽くなるように。

 まずは静かなところへ。家へ帰ろう。


「なんとかする方法を探してみっ——」


『クオンティの姫が復活せり!』


 ——爆音が、透き通るように聞こえた。


「……………………は?」


 振り返るラスノマィ。天袖自身はラスノマィが何に反応したのかわからないらしく、ただラスノマィの視線を追うように電子パネルへと視線を移す。

 天袖もラスノマィも、半分も聞いていなかったサリカの広告。

 彼らは今初めて、まともに視界に入れた。

 

『今回我々が自信よりも確実な安心を持って出発できるのも、この方のご協力があればこそ!』


 表示が切り替わり、白銀髪の少女が画面に映し出される。


『調査隊結成のため「人類領域直轄域物対策専門組織〝レッテル〟」よりお越しいただいた、久那無架くなむうか様です!!』


 広告は、無架という少女の戦歴や実力について軽く紹介したあとすぐにまたいつもの爆音広告へと戻った。それと共に、人々の歩みも再開する。

 映像を見るために立ち止まっていた人は天袖達の他にも何人もいる。だが、ラスノマィと同じ理由で同じようにその場を動けなかった人間は、誰一人としていない。


「らすのみ? ……っと」


 その情報に、その状況に。数秒の間縛られていたラスノマィは、我に帰るなり天袖の手を引いて足早に歩き始めた。


「……天袖」


 なんとかする、どころではない。

 もう大丈夫。……もう関わってはいけない。


「絶対にアレには参加するな」


 あんな怪物に目をつけられたら、絶対に逃げられない。


「オマエとボクだけどわたしだってじゃ、あいつに勝ち目なんてない!」


 レッテル。クオンティ。そして、一〇年前に死んだ筈の少女。

 何が起きたのか、まだ正確に理解しているとは言い難い。とんでもないことを聞いてしまったのは事実だ。

 ……だが、ここで聞いておいて良かったとラスノマィは考える。このまま事実を知らなければ、ノコノコと死に行っていたのは自分達の方だったのだから。

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