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【クロウディプレート】「全ての終焉を司る樹」を体に宿す少年は、世界を憎む少女達と共に深呼吸をする。  作者: 絹鍵杖
滅國の再帰姫 第四章 恋か、敵か

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第31話「誰も助けない。誰も見拾わない。今から行うのは人殺しなのだから」

天袖と最悪の再会を遂げる無架。彼女の手に伝わる小さな鼓動。その鼓動が止まるより前に、天袖は無架を救わなければならない。

「……、ゆ……っ!?」


 言葉を形作る無架の口は、最初音を発していなかった。仮に声に出せていたとしても、意味のある発言にはなっていなかっただろうが。

 それは彼女の驚きがもたらす不協和音。

 少なからず天袖のことを想ってしまっていた無架が受けた衝撃。


「……だいじょうぶ。すぐ、終わるから」


「っ!?」


 呆ける無架をよそに、彼らの周囲を取り囲むように〝黒い何か〟がせりあがる。

 それは最初、地面から噴き出す液体、石油であるかのように無架には見えていた。


「何なの……!?」


 しかし、その液体は無架が懐に構えていた拳銃の弾丸を弾き返して、液体ではないことを証明する。


(逃げないと……!)


 壁の破壊が出来ないのであれば、あとは直接脱出するしかない。でもそれは——


「……させない」


 無架の腕に添えられていた天袖の腕が、彼女を掴んでいた。


「……離して、……っ!?」


 でも、掴んでいるとは言っても、実際はそう見えているだけ。乗っていただけの天袖の手を振り払うなんて、難しくもない。だから無架が驚いたのは、その先のことだった。


「……なに、これ」


 壁から枝のように伸びてきた黒色の結晶体——戦枝が、天袖が触れていた無架の腕に纏わりつき、彼女の身体を固定する。


「……く、固っ……!」


 天袖本体のゆるゆるな拘束とは違って戦枝の拘束は生半可ではなく、破壊しようと試みているうちに戦枝で覆われたドームはその天井を閉じてしまった。

 ……だが、光を吸収する筈の密閉空間の中であっても、隅々まで見渡せるくらいに明るいのは、無架にとって不思議なこと。


「……〝戦枝〟だよ。ラスノマィみたいに黎術を使うことも無架みたいに銃を使うこともできないけど、これがあるから戦える」


 しかし天袖の言葉の中に明るさについての言及はなく、壁の名前がわかったところでどうにもならない。ペタペタと触ってみて視覚と触覚の認識に違いがないことを確認して、無架は天袖を振り返った。

 なんとか隙を作らなければ——そんな思いが、無架に口を走らせる。


「……デートの時は掌にエネルギー球を作ってたくせに」


「……?」


 その科白に、天袖は本気で不思議そうな表情を浮かべた。

 その胸に短刀が突き刺さり、胸からは血液がだくだくと流れているにもかかわらず。


(第三者目線の顔をして……っ!)


 くるり、と天袖が無架に向き直る。それと同時に、天袖が何故これほどまでに不自然に元気な姿を見せているのか、その理由を無架は知った。


「あれくらい誰だってできるでしょ? 初歩の初歩だから、名前がないのかもしれないけど」


 胸を刀が貫いている。それは事実だ。心臓を破壊し、皮膚を内側から食い破ったのも事実。ただ、心臓の鼓動とは別に天袖の体が動いているというだけのこと。


「……あなた、一体何なの? 心臓を貫かれて動けるなんて」


 吸血鬼の特性ではない。吸血鬼なら心臓を穿たれれば死んでいる。いや、死ななければおかしい。


「……べつに、むかし何回か心臓を抜き取られたことがあるってだけ。それで、心臓が壊れても少しの間なら動けるんだ」


 どこまでも興味なさげに、あくまで他人事のように天袖は言う。


「吸血したら終わるから。……だからすこし、動かないで」


 まるで真逆。先程とは形勢が逆転している。

 心臓を貫かれていることを微塵も感じさせないほど素早く、力強く天袖は地面を蹴った。


「……ッ!」


 瞬く間に駆け寄ってくる、デートの時には決して見せることのなかった俊敏な動き。何が目的かはわからないが、天袖は無架の血を吸おうとしている。その事だけを理解して、無架は背中の大剣の柄を掴んだ。


「ふざけ、ないで……っ!」


 烈火の咆哮。いや、純白の雷鳴があった。無架の叫びに応えるかのように、しゅりん、しゅりん……と背負った大剣が色を替える。鈍い鋼色、純白の雪色へと替わると、無架は大剣を戦枝に叩きつけた。

 そして、がきっ。……背中に担いだ大剣で、腕を拘束する戦枝を砕く。その上で、天袖の噛みつきを紙一重で躱す。天袖の体は、拘束されていた右腕の掌底突きで突き飛ばした。

 地面に倒れ込むも、すぐに起き上がる。


「……わたしに殺されるって言ったくせに、殺されたくせに……今さらなんでわたしの血を吸おうとするの!?」


 無架の叫びに天袖は答えず、彼女の大剣を指差す。


「……斬ったよね」


 突如大剣が重みを増した。いや重みを増したとかその程度ではなく、まるで地面に固定されてしまったかのような動かさなさ——


「……!?」


 ——見れば、無架の大剣は地面から生えた戦枝とやらによって固定されていた。

 さらに戦枝が四方から飛んできて、無架から、彼女の持つ大剣を取り上げる。もう一つの武器であるハズの拳銃は、最初に腕が固定された時に、スデに戦枝の中に取り込まれてしまっていた。


「……無架の言う通りだよ」


 自分に刺さっていた刀を引き抜いて、放り捨てる。天袖が無架に近づく。彼女の手には拳の他に何もなく、あの刃物に比べれば、無架の素手など恐るるに足りないと判断したのか。


「何が……っ!?」


「心臓がなくても動ける、なんて言っても、それはほんの少しだけ。この体はもうすぐ殺される。……だから、その前に無架を」


 無架は、ワイヤーを引っ張った。


「わたしを助け……たいなら! わたしに殺されて! それがわたしが助かる唯一の方法なんだから!」


「……っ!?」


 離れていく大剣から一振りの刀が分離する。大剣と無架とを繋ぐワイヤーによって引っ張られたその刀は、天袖が無架の下へ到達するより早く無架の手に収まると、無架の首元に噛みつこうとする天袖の肉体を切り裂いた。


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