第29話「最強にしがみつく絡繰と二人の名前」
機ノ槍「言減」。オートロが保有する攻撃手段の中でも最も高い攻撃力を持つ槍だ。
槍の持ち手側のおしり、石突にあたる部分にオートロから伸ばしたコードを直結させ、オートロのコアエネルギーシステム「アミハ・ゼロ」からエネルギーを供給することで、真の性能を発揮する。
『アハハハッ! コイツダケハヤラセナイ、奪ワセナイヨ』
刃を交えた剣の刀身を融解、沸騰させる程の熱量。
武器の素材が鋼程度なら剣戟すら起きることのないその威力は、今までに数々の標的を蒸発させてきた。
……だが。
「まぁ、あとはおまえがしがみついてるその槍だけなんだけど……」
オートロに搭載されていた「言減」以外の全ての攻撃手段が、ラスノマィによって悉く潰されてしまっていた。
武装の数は合計して二〇二。遠慮など何もなく、一切の隙も躊躇いもなく使われた全武装のうち一本を残してほぼ全ての攻撃が迎撃、そして破壊されている。
言葉にするまでもなく、オートロの劣勢だった。
『……マァコイツダケハ折ラレナイト自負シテルカラネェ』
……と、口では言うが。
先に目にしたラスノマィの技「七権獄」の進化バージョン? である「三権獄」に、意思を持たない人形部隊「コラカゲ」が絡め取られてしまった。
(ナゼ数ガ「減ル」ト対応デキル対象ガ「増エル」? 数字ハ縛ルコトガデキル権利ノ数ジャナイノカ……?)
たまたま「言減」が無事だったというだけで、破壊されていない理由も、オートロの武装が破却された理由もわかっていない。
ラスノマィの両手は空いている。武器を握ったことは一度もないが、時折手の甲や腕に紋様が浮かびあがり、殴る力を強化したり特殊な現象を引き起こしたりと、攻撃手段は多種多様。また同じ攻撃や同じ紋様は二度までしか使われていないが、その法則やそもそもの紋様の違いをオートロは把握しきれていなかった。
(向コウモ気ニナルケド、様子ヲ見ニ行ク為ニハコイツガ邪魔ダ……)
時間稼ぎは必要無い。無架が天袖に負けるとも思っていない。……だが、無架と離れ離れになっているのは無架が天袖に負けるよりもまずい。
一刻も早く無架と合流したいオートロに対して、ラスノマィは何故かオートロをこの場に引き留めるような、自分自身はこの場にいて良いような動きをしている。天袖の生死は気になるだろうに、まるでそのことが行動に現れない。そのせいもあって、オートロにはラスノマィがより不気味に見えていた。
「全くずいぶんな手紙をよこしてくれたもんだ、手紙ってのは本来外見も中身も美しいもんだろ? あんなに外も中も汚い手紙は初めてもらったよ。『思考指示システム』を名乗るくせに人類のちょっとしたくらいの文章しか書けないのか?」
今だってほら、会話なんて挟んで、ちっとも急ごうとしていない。
『思考支持システムダ、間違エンナ色ボケ小娘』
でも、この状況でオートロが急ぐのは自然。天袖に閉じ込められた無架を心配するということに何ら矛盾は起こらない。
槍を構え、ラスノマィの周りから飛んでくる〝何か〟を弾きながら突撃する。
オートロの動きと会話は別物だ。槍捌きを披露しながら会話を挟み込めるが、それでラスノマィに攻撃を捌かれているのだから目も当てられない。
「あと父さんのことなー。天袖からそこまで辿り着くとは思わなかったよ」
『雪蕎麦天袖ノコトヲ調ベレバ自然ト行キ着ク。……ソウダロウ? ラスノマィ・フェルノ・ニェーバー……イイヤ』
揺さぶりも何も通じない。正直なところオートロにはラスノマィに対する勝機などまるで見えてこない。……だが、今までが通じなかったからといってこれが通じないとは限らない。
ラスノマィの両親がオートロの予測通りなら、天袖と一緒にいる事も頷ける。そして彼女は肯定した。確定事項だ。ならば、天袖があの年齢に対して年不相応なほど幼い性格をしているのは、吸血が不足しているせいだけではなく、恐らくそういう事だ。
『コウ言ウベキカ。本来デアレバ「雪蕎麦天袖」ト名付ケラレル筈ダッタ、人種魔妖ニ育テラレタ人間ヨ』
「……!」
(モラッタ……!)
一瞬、ラスノマィの動きが止まる。その僅かな隙にオートロは迷わず「言減」を突き刺した。




