表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【クロウディプレート】「全ての終焉を司る樹」を体に宿す少年は、世界を憎む少女達と共に深呼吸をする。  作者: 絹鍵杖
滅國の再帰姫 第四章 恋か、敵か

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/48

第28話「許されざる破壊と滅亡の引き鉄」



 それの出現は絶望の始まり。悪意とか運命だとかは関係なく全てが終わる、その引き鉄の名は——。

『警告。「刻世事象」発生。「刻世事象」の発生を確認しました』


 情報支援特化型システムオルトロの発する警告音声に、統括長室で事務処理をこなしていた統括長は傾けていた湯呑みを滑らせた。

 ティーカップの時のように割ってしまうことこそなかったが、零れた中身がテーブルの上にぶちまけられて机の上に広げていた重要書類が全て台無しに。


「なんだと……?」


 それでも統括長はその衝撃から逃れられず、己が耳を疑った。


『「刻世事象」ナンバ・六。「ルーリレオ」が発現しました。深刻度B。急ぎ対処願います』


 オルトロの並べ立てる単語全てが、統括長でさえ耳を塞ぎたくなるほど嫌な響きをしている。


「どういうことだ!? 何故『刻世事象』なんてものが出てくる!」


『理由・不明。「刻世事象」発現による時空の歪みが連鎖発生しています。試算……最短二時間一五分後にはフォルスネア・タイプ、ギロトネア・タイプの出現が予想されます』


 まるで天気予報。今ある結果とそこから立てられる予測を淡々と行うオルトロの報告に、統括長は頭を抱えた。

「刻世事象」の発現だけでもありえないというのに、さらにその上〝世界を滅ぼせる〟なんて噂される〝域物〟が現れると言われたのであれば、目を回しても無理はない。……だが、その〝域物〟の出現と「刻世事象」には密接な繋がりがあった。

 まず「刻世事象」とは、広義的に「時空間を歪める程のエネルギーの放出」のことを指す。ただそこにあるだけで莫大なエネルギーを放つ物質であるかもしれないし、落雷のような自然現象かもしれない。他にも隕石の衝突やマイクロブラックホールの生成実験による重力波の観測、仮想宇宙の擬似崩壊など、あり得ない事象が編まれることによる副産物的なものであったり。

 要するに、生み出されるエネルギーの規模が大きければそれは全て「刻世事象」となるわけだが、その規模が大きいと判断される基準は、そのエネルギーに〝域物〟が寄ってくるかどうかによって決まる。

 例えば、夜間域物が出現する地域で焚き火をしたところで発生する熱量は次元を歪ませるには遠く及ばず、寄ってくる域物などは皆無。だが、数百年前に隕石が衝突した場所には〝域物〟が出現する〝穴〟でもないというのに、未だに日々数千体もの〝域物〟が集結している。……しかし、それさえ「刻世事象」と呼ばれるには至らないのだ。

「刻世事象」と呼ばれる中でもオルトロの言った「ルーリレオ」は、ある特定の〝域物〟を呼び寄せてしまう可能性のある「刻世事象」。域物ごとに好むエネルギーの種類が違うのか、他種に劣るエネルギー量であっても呼び寄せてしまうことはある。そして「ルーリレオ」が呼び寄せるもの、フォルスネアとギロトネアと聞いた統括長が思い浮かべるのは、サリカにいる人間が統括長を含めて誰一人生き残ることのない絶望の未来。


「ワーストスリーとフォースじゃないか!」


 フォルスネア、そしてギロトネア。人類が観測している〝域物〟の中でも「気まぐれで人類文明を滅ぼせる」存在としてランク付けされ、人類が畏怖し続けている滅びの象徴のひとつだ。

 大陸を割り、海に沈め……または新たな大地を想像する。世界の自然法則を書き換える程に絶対的な力を持つことから一部地域では神格化されている存在であり、その力を記述した神話までも存在する。空に浮かぶ大陸などはその力の証左とも言えるだろう。

 防御とか撃退だとか、そんなことを言ってられる相手ではない。


「……そんなのがこの場所に出現してみろ、この街は……」


 言うまでもなく壊滅する。サリカが破壊されれば、次元空間を利用したサリカの中にいる人々は次元の狭間に放逐され、二度と世界には戻ってくることはできない。


「……オルトロ!『刻世事象』発生の原因は何だ!? 次元障壁の展開を中止! あいつらを呼び戻して対処にあたらせろ! 外なら私がやる!」


 統括長の口から矢継ぎ早に飛び出る質問や指示や命令。

 オルトロの懸念が実現すれば被害はサリカだけに収まらない。原因を特定した上で速やかに排除しなくてはならないが、少々統括長は焦り過ぎていた。


『ノー。そのご指示に異論を挟ませていただきます』


 作戦中止の連絡のために回線を繋ごうとする統括長を、オルトロが止める。


「……なに?」


 情報支援に特化したシステムではあるが、組織としての人為的なミスを防ぐためにオルトロは状況にそぐわない、明らかに間違った命令を訂正、もしくは一時停止させる権限を持っている。

 オルトロの行動はその権限を行使して回線を繋がせなかったものであり、統括長はその権限行使に対する説明を求めた。


『失礼。既に深刻度はFを外れています。早急に対応しなければならない必要性は消失しました』


「……予測が間違いだったのか?」


『ノー。依然としてフォルスネア・タイプとギロトネア・タイプの召喚は確実です。ですが、その可能性は今後一時間以内に五パーセント以下になる見込みです。そのため何か指示を出す必要はありません』


「どういうことだ。何故危険性が消失する?」


『アンサー。久那無架が対象を討伐するためです。対象の死亡により「刻世事象」は消滅し、フォルスネアとギロトネアの召喚の可能性は失われます。ハッピーエンド』


「……まさか、あいつらが相対している人間がそうなのか?」


『ノー。本来の標的が「そう」であると推測されます』


 一人しか思い浮かばない。……だが、それならば納得はできた。


「……雪蕎麦天袖……域物の少年が久那達がいる場所にいるのか?」


『雪蕎麦天袖は久那無架の恋人です。久那無架にとっては殺害対象ですが、雪蕎麦天袖にとっては最愛の恋人。特に自分が吸血をしたせいで久那無架を吸血鬼化させたことになりますので、今回の作戦における対象の——』


「…………」


 聞き流しながら、統括長は考える。

 緊急性は消失した。ならば、オルトロの言う通り慌てる必要もない。

 落ち着いて、ずぶ濡れになった重要書類の後始末をするだけだ。あとは無事に任務を終えた無架を労ってやればいい。任務の完了までに一年の期間を設けはしたが、その半分以下の僅かな時間で終わらせたことは間違いなく褒賞もの。次の任務までに英気をたっぷりと養わせなければ。

 ……自分達のエゴのために。


「……標的も子供、それを殺させる自分の部下も子供。……彼らの親だったならと思うと、胸が痛くてたまらないよ」


 思わずこぼれる本音。戦闘能力があるからと就いた役職だが、正直なところ自分に合ってはいないことを自覚していた。


『子供どころか恋人すらいたことのないあなたが親心を抱くとは珍しい事象です。詳しく聞かせてもらえますか』


 オルトロが返す言葉は皮肉。統括長の心象を理解しているのか、いないのか。


「……叩き割るぞ、ボウリング球のように」


『ノー。ボウリング球は割るものではありません』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ