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【クロウディプレート】「全ての終焉を司る樹」を体に宿す少年は、世界を憎む少女達と共に深呼吸をする。  作者: 絹鍵杖
滅國の再帰姫 第三章 吸血鬼の少年の、正体

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第24話「残る疑問と渦巻く疑念」

 ラスノマィの「責任を取れ」という言葉に対して「言われるまでもない」と返した天袖。

 彼が決めた覚悟は立派でも、それとは別に確かめないといけない事があった。


「それならそれでいいけど、気になることはまだある」


「……なに?」


 すぐにでも無架の所へ向かおうとする天袖の肩を押し留め、ラスノマィは天袖に言い聞かせた。


「なんでレッテルはピンポイントで天袖を引き当てることができたのか。それを突き止めなきゃ、久那無架がいなくなっても、別の都市でもずっとレッテルに狙われ続けることになる」


「なんで……? 殺したいからじゃないの?」


「…………」


「…………」


 むにゅ、とラスノマィは天袖の頬を両手で挟んだ。


「おまえは自己分析が客観的すぎる! もう少し『命を狙われてる』って自覚を持てよ!」


「おええあええおええ」


 ラスノマィが身の内に煮えたぎる行き場のない怒りを思う存分天袖にぶつけたところで、天袖の三半規管が使いものにならなくなる前に碌亡が助け舟を出した。


「元々狙ってたんじゃないのか?」


 掴んでいた両手を離す。……天袖はぼて、とソファの上に落ちた。


「それなら天袖に対して直接連絡を取るだろ。マッチングで出会うにしちゃ、用意周到すぎるんだよな」


 ぐるぐる〜、と目を回していた天袖が何かを思い出したのか、声を上げた。


「……あ」


 彼の記憶に蘇る、一ヶ月ほど前の出来事。




『——、————?』




「……あったらしいな」


 天袖は確かに出会っていた。吸血に纏わることで、彼に申し出があったのだ。

 天袖がアビリティニアに向かうよりも前だったので、すっかり忘れてしまっていた。


「……らすのみに言われるまえから、ずっと約束してたんだ」


 ぽつり、と天袖が話す。「らすのみに言われる」——それはサリカに帰ってきた時、数日前のことだ。


「何?」


「……どういうことだ?」


 二人の反応は同じようなものだった。


「アビリティニアに行く前に『君、吸血鬼だよね?』って声をかけられて。『吸血に困ってるなら力を貸すよ』って言われて……」


 ラスノマィは信じられない。まさか天袖が、見た目で吸血鬼だと見破られるなんて——


(ひと目で天袖がそうだと見抜かれた? いや、それは無い)


 混乱しかけるラスノマィの脳は、しかし冷静な結論を導き出す。


(事前に知っていたんだ、それしかあり得ない)


 日光の無い場所で吸血鬼かどうかを見分けることは難しく、そもそも天袖は日光に当てられても何ともない。見た目で判断しようにも天袖の肌はラスノマィの管理のお陰でハリツヤ共に良く、血色も良い。吸血鬼の肌のように血の気がない訳ではないから、見た目でそうだと判断はできないはずなのだ。


(天袖が吸血鬼だと最初から知っていた、ってことはかなり前から狙ってたってことか……?)


「でも堂々と提供することはできないから、インターネットでこっちが募集をかけたら、すぐに連絡するって」


 それはそうだ、とラスノマィも碌亡も頷く。

 厳密な法令が敷かれている訳ではないので「不透明なところ(グレーゾーン)」もあるが、人種魔妖に対する血液の自由売買は基本的に禁止されている。これは、鮮度の良い血液や健康な血液が病人や怪我人の治療を最優先として提供されなければならないとされているためだ。

 一応、公共機関に行き身分証明書を提示すれば食事用の血液を提供してもらえたりはするが、そこで貰えるのは使用期限が過ぎたり鮮度を誤魔化すために成分が類似したもので薄めていたりして、吸血鬼にはとても食えたものではない。


「その人と話すのはそこで最後だったけど、……その、恋人になってって言われた時はびっくりした」


「そりゃ、向こうからだろうな。おまえが誰かに告白できるはずがない」


「告白するもん!」


 うんうん、と頷くラスノマィに何故か天袖が吠えた。


「誰に?」


 じろり、とラスノマィに睨まれ、天袖はしゅぼん、と小さくなって俯く。


「……らすのみに」


 その後、ぽしょりと呟かれたその一言が誰の顔を赤くしたのかは、言うまでもない。







「そいつはどんな見た目だった?」


 事前の接触を含めてのレッテルの作戦だったのかもしれないが、天袖が接触したというその人物は天袖と無架を引き合わせた張本人。

「もし今度見かけたらぶん殴ってやる」——そう腹に決め込んで、ラスノマィは姿形もわからないそいつの風貌を少しでも明らかにしようとしていた。

 ……でも、残念ながら予めそうなることを相手も読んでいたかのように、天袖の語った外見はぼんやりとしていた。


「フード付きのパーカーを着てて、フードを深く被ってて……たぶん同い年か年下くらい? で、声とか体つきはたぶん女の子」


「……しまった」


「何が『しまった』なんだ?」


「素人の天袖でもそこまで情報が絞れるってことは、当然相手もそれを理解されてるつもりでいるってことだ。……そいつは恐らく、もうこの都市にはいない」


 跡を追うにも、その痕跡が何も無いに等しい。似たような格好、似たような体格の人間などどこにでもいるのだから。


「……天袖の記事が出回ってたってことか……?」


 彼らが思い起こすのは一〇年ほど前の事件。人種魔妖と人間の子供が入れ替わって、それぞれが違う両親の下で育てられていたという所謂『取り違え』だ。

 その事件の当事者が天袖であり「数年間人間として変わらない生活をしていた吸血鬼」のことを天袖に接触した人間が知っていたのなら、天袖が吸血鬼だと知っていた理由も頷けはする。……だが。


「何でそいつの言うことを信じた?」


「うれしかったんだ。碌亡に言われたことをその人にも言われて。……だから、信じてみようって思った」


「『普通の人とかわらない』、か」


 天袖に接触した人物がかけた言葉は、まさに彼を救うものだった。


(人心掌握にも長けている……こりゃ厄介だな)


「……なんとなく、俺も探ってみるかね」


 立ち上がる碌亡。彼は天袖の行動をラスノマィに内緒にしていた事で責任を追及されていたが、この後に協力するということでラスノマィからは釈放となった。


「……え、いいの?」


 碌亡はあくまでも天袖のやり取りを黙っていただけだ。ラスノマィを引き留めた嘘は別としても、立ち位置は部外者に近い。

 そんな碌亡はこれ以上この件には関わらない、そんな気持ちで天袖は言ったのだけど。


「まるで部外者みたいな口を利くなあ、このやろう」


 ぐりぐり、と天袖の頬を掴み、こねくり回す碌亡。その口元には笑みがある。


「いていて……だって、碌亡はずっとこっちにいるじゃん。戻ったりしなくていいの?」


「亡芽に作業投げてきたし、それが終わるまではこっちにいるから気にしなくていい。……それに、少しでも早く無架ってのを助けたいんだろ?」


「……ありがと」


 こねくり回されるまま、その温かみを感じて——天袖はそっぽをむいた。




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