表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【クロウディプレート】「全ての終焉を司る樹」を体に宿す少年は、世界を憎む少女達と共に深呼吸をする。  作者: 絹鍵杖
滅國の再帰姫 第三章 吸血鬼の少年の、正体

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/48

第22話「太陽と月に愛された闇の眷属」

「『陽月鬼ヨヅキ』——吸血鬼の中でもおまえはそれに該当する」


「よづき?」


 天袖が首を傾げると、ラスノマィはホワイトボードに文字を書いて彼に見せた。


「太陽の陽に月光の月、そして吸血鬼の鬼。それで『陽月鬼』だ」


「よづき……」


「そもそも吸血鬼ってのは、全部同じに見えて種類がある。弱点があったりなかったり、昼間も活動できたり、棺桶以外でも眠れたり」


「……なんで棺桶で寝るの?」


「元々死体だから棺桶の中が一番安心できる、つまり体が休まるということらしい。……一方で出自が死体じゃない吸血鬼の家系の奴は、寝る時棺桶に拘ることもない。おまえだって——畳とかで寝られるだろ」


「うん。畳の匂いとかすきー」


 ふにゃ、と笑顔を見せる天袖。


(……よし)


 どうやら自分自身のことでストレスは感じていないようだと、ラスノマィは慎重に言葉を選んでいた。


「……で、おまえの種族『陽月鬼』は中でもトクベツだ。まず日の光に当たっても体が何ともない」


「……そういやそうだったな。……いや、天袖が吸血鬼だなんて忘れてたよ」


 碌亡のこの言葉に、天袖がまた笑みを作る。……今日一番の嬉しそうな顔をした。


「えへへ、そう?」


「……あぁ、そうだな」


 ラスノマィも頷く。天袖の笑みは、さらに深まった。

 人間である二人と自分との間に横たわっている筈の〝違い〟がまるで無いのだと言われる。……それが、天袖にとってどれほど嬉しいことなのかはラスノマィには想像もつかない。でも、どんな生活を送ろうとも最後まで孤独を選べなかった天袖にとっては、この上ないほどの喜びなのだろう。


「日光に当たっても平気、だけじゃない。日光に当たった方がおまえの場合はメリットが大きい」


「吸血鬼なのに?」


「吸血鬼なのに、だ」


「日光に当たるとどうなるんだ?」


 碌亡の質問。話を進める目的で、彼は言葉を投げた。……が。


「傷を負っていたら、治癒する」


 ごきゅ、とお茶が気管に入り、お茶を飲みかけていた碌亡は思わずむせた。


「……はあ?」


 そんなことはありえない、と碌亡は天袖を見る。


「えっ」


 本人はまるで分かってはいないが、碌亡は確信した。これははっきりと異常なことだ。

 月光浴ならまだしも、日光でなど——


「……いや、何でもねえよ。用事を思い出しただけだ」


 天袖が気にしないように補足を付けるが、今の天袖はしつもんモードらしく、さらに碌亡に食いついた。


「……なーがのこと?」


「……なーが?」


 しかし、碌亡は天袖の言葉が指す意味がわからない。たぶん、誰かのあだ名だと思うが……。


(なーが、ナーガ……なあが? いや、俺の知ってるやつの筈だから、天袖が知っていて俺も……あ)


 ……思い出した。考えてみれば簡単なあだ名だった。


亡芽なめのことか」


 亡芽——「ナーガ」とは碌亡の妹のこと。

 彼の妹はメールアドレスや「スヌス」等のアカウント名にナーガをつけている。

 天袖の指摘が的外れで助かった、と碌亡は胸を撫で下ろした。……目の前で目を光らせている金属バット少女が怖い、というわけではない。


(亡芽は〝なが〟、ナーガ……そういうことか)


「別の呼び方がいいって言うから」


「……そ、そうか」


 思わず声が震える。我が妹ながらどんだけ気が重いんだ、と口から言いかけた感想を飲み込み、胸の奥にしまう。


「……? だめ?」


「いや、いいと思うぞ。本人が喜んでるなら尚更な」


 震えが止まらない。ただしそれは恐怖によるものではなく、おかしくて腹がよじれる、ということ。

 ……だが、今はそれを追及するべきではない。碌亡の腹筋が裂けてしまう。


「……話を続けてくれ」


 多少無理にでも、碌亡は話の軌道修正を図った。


「……太陽の恩恵を受けられる。だから『陽月鬼』には陽の文字が入っているんだ」


 吸血鬼とは闇に生きるもの。いわば光の敵だ。

「光の侵蝕に耐える」というだけならまだわかるとしても、日光浴で体の傷が回復するなど、吸血鬼が持ってて良い権能ではない。

 それがどうして、と思う碌亡に、ラスノマィは天袖に向かって説明する。


「……吸血鬼の弱点は何と言ってもその数の多さだ。それを種族として克服した個体が出てきても、不思議じゃない。……克服どころの話じゃないけどな」


「月はなにが関係してるの?」


 天袖の質問に碌亡はああそうか、と納得する。

 陽月鬼とは、特性が一般的に名を叫ばれる吸血鬼とは逆なのだ。陽の光を恐れる吸血鬼に対して、陽月鬼は月光を恐れている——


「月もまた、その下に出れば恩恵を受けられる。具体的には月光浴で魔力が増大する」


「————」


 絶句。ラスノマィの方を向く碌亡の表情はまさにそれで、ラスノマィは天袖の頬をむにゅりとホールドして、碌亡から天袖の顔を逸らす。


「回復じゃないんだ」


「回復が無いわけじゃない。というか、日光の下でも回復効果が一番というワケでもないんだよ」


 淡々と語り合う二人の傍で。


「太陽と月。両方を味方につけた吸血鬼こそが『陽月鬼』だ」


(……吸血鬼じゃ、ねぇ)


 碌亡は、静かに零した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ