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【クロウディプレート】「全ての終焉を司る樹」を体に宿す少年は、世界を憎む少女達と共に深呼吸をする。  作者: 絹鍵杖
滅國の再帰姫 第三章 吸血鬼の少年の、正体

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第21話「飛んでいったお説教と吸血鬼講座」

「いいか。お前が吸血をするってのはどういうことなのか、この際だから教えておく」


「……はいっ」


 数本の金属バットが生えたリビングルーム。

 壁からバットを引き抜いて、ラスノマィは天袖に向き直った。

 正座していた天袖はラスノマィにほんの少し許されたのか、ソファに移動している。彼の前にラスノマィは座って、持ち運び可能なサイズ、キャンパスノートほどのホワイトボードを手に絵を描き始めた。


「まずは、普通の吸血鬼が血を吸うと『どうなるか』だ。あいつらの場合、ただ血を吸うだけなら普通に死ぬ。そしてただ血を吸うだけではない場合、つまり吸血鬼化だが、それは血を吸われた人間が吸血鬼に『触れられている間』に『死ぬ』ことで吸血鬼化する」


 吸血鬼のデフォルメされた顔の上に、「吸血鬼」の文字。髪の長い少女の絵は天袖の似顔絵だ。

 ラスノマィは吸血鬼のことを指して天袖に話している——のだが。


「……」


 何か言いたそうに、もじもじと口を開閉させる天袖。そんな彼を見てラスノマィはゆっくりと、


「……何か質問は?」


 質問があるなら答える、と言った。

 天袖は何か抱えるものがあってもそれを他人に伝えようとはしない。……「できない」とも言うべきだが、ラスノマィは天袖が今回抱えたそれ——疑問をやんわりと引き出した。

 ラスノマィに促されて顔明るくした天袖は、えっと、うんと、と繰り返して口にする質問に迷う。


「……別に質問は一個だけじゃなくていいからな。気の済むまでしていい」


 再び明るくなる、天袖の顔。


「『触れてる』のは、服の上からでもいいの?」


「肌と肌同士、直じゃなきゃダメだ。紙一枚でも直じゃない。……けど大体は吸血中に死ぬし、牙が肉を穿ってるから直で触れてる扱いになってる」


「じゃあ、吸血鬼が作り出した血の武器とかで殺したらどうなるの?」


「その血が生きてる……吸血鬼本人によって操られたものだったら吸血鬼化する。あとは吸血鬼本人の力が込められた武器とかも同じだ」


「体を真っ二つとか、バラバラにして殺したら再生するの?」


「再生に時間がかかるからくっつけたほうが早いけど、どっちを本体にするかは復活した本人次第だな。例えば、切られた髪の毛を本体にして、やられたふりをして生き返った奴もいる」


「そこまでの再生力はバケモンだけどなー」


「離れていても本体とか決められたりするんだ」


「元は自分の体だからな。……今言った例の奴だけど、場合によってはその髪の毛を身体に触れさせることで体を乗っ取るとかもできたらしい。まだ質問はあるか?」


「順番は?」


「順番?」


 殺した後に血を吸ったらどうなる、と天袖は聞いた。これにラスノマィは、


「身体に欠損がなければ、そのまま吸血鬼として蘇るだろうな。頭とかが吹き飛んでいた場合は身体だけが蘇り、血を吸った者の言うことを聞くゾンビになる。……まぁ頭が吹き飛ぶくらいだから耳なんて残っちゃいないだろうけど、吸血鬼が命令として語りかけるのは体内に取り込んだ対象者の血だからな。耳なんて無くても言うことは聞く」


「ゾンビになった人に『足りない部位を再生させて、吸血鬼として復活し直す』って命令は効くの?」


「復活するだけの力があればな。大抵は短期間しか動かない雑魚としてしか蘇らない」


 ふんふん、とラスノマィの話に夢中になる天袖におかわりのオレンジジュースを注いであげながら、ラスノマィはホワイトボードを反転させる。


「んじゃ、話に戻るぞ。吸血鬼化した元人間は、吸血鬼化させたやつの眷属となって、主人からの絶対的な隷属を強いられる。いわば契約だな。その気がなくても、体が勝手に言うことを聞いてしまう」


「……」


 もじもじ。


「……何か質問は?」


「……えと、碌亡が逃げた」


 天袖が指差す先は玄関に繋がるリビングのドア。その奥から、声がした。


『っっっ!? バカ天袖! そこでバラすんじゃねえよ! まだリビング出たばっかなのに!』


 リビングのドアを挟んだ向こう側から、碌亡の声。……そして、いつの間にかリビングからは碌亡が姿を消していた。


「ちょっと待ってろ」


 金属バットを、ラスノマィが構えた。


「うん」


 リビングのドアを天袖があける。


『え……ちょ、ぎゃあああっ!!』


 ドキュン。碌亡が玄関にたどり着くよりも、ラスノマィが放った金属バットが彼の体を捉える方が疾かった。









「——というわけで、これが一般的な吸血鬼だ。血を吸われることに対しての快楽があるから、そいつらを雇った風俗なんかも歓楽街じゃ営業してたりする」


「うん、わかった。ありがとっ!」


「ああ」


 ラスノマィの講義、普通の吸血鬼についての説明は一時間半にも及んだ。

 コウモリへ変身することについてや吸血鬼の弱点など、ラスノマィは色々話した。

 ほとんどは天袖の質問に対する返答、そこから派生する更なる疑問などの解消に費やされ、途中観念した碌亡からの質問などもあり、これだけの時間となっていた。

「流石は父さんと母さんの息子なだけはある、大した好奇心だ」——とラスノマィは思った。


「……やっと終わったな」


 普通の吸血鬼の講義を終えて碌亡がこぼした言葉に、ラスノマィはため息を吐く。


「残念ながらこれは普通の吸血鬼の場合。天袖が誰かの血を吸ったりしても、同じようにはならない」


「一度に血を吸えないから?」


 一度に血を吸えない——これは天袖の体質であり、偶然からなされた産物だ。天袖が一度に必要量を摂取しきれるのであれば、無架は天袖と出会ったその日に血を吸われて死んでいたのは、間違いない。


「根本的に種族が違うからだよ。同じ血を吸う生き物でもコウモリとヒルくらい違う。共通するのは血を吸うってことだけ。……まぁ、天袖は突然変異みたいなものだから、実の両親ともほぼ別の種族みたいなことになってるけど」


 両親——〝あの〟二人の姿を想像し、寂しそうな顔をする天袖。そんな天袖の変化に気づき、彼の気を逸らそうとしたのか、ラスノマィは天袖の顔を覗き込むように近づいた。


「それじゃ、次は肝心の天袖の特性についてな」


「……うん」


「天袖は吸血鬼ではあるが、今話した普通の吸血鬼じゃない。——天袖の種族は〝陽月鬼〟っていう、お前以外この地球上には何処にもいない種族なんだよ」


(…………はぁ)


 最早、ただの民族歴史の授業。おしおきや反省は何処へ行ったんだ、と思いながら、碌亡は吸血鬼講座を聞いていた。




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