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【クロウディプレート】「全ての終焉を司る樹」を体に宿す少年は、世界を憎む少女達と共に深呼吸をする。  作者: 絹鍵杖
滅國の再帰姫 第二章 初めてのデート作戦

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第11.5話「確認のためのデート。目的のための予定」

 天袖とのデート日の、前日の夜。

 変装するための髪型を決めあぐねていた無架に、オートロが話しかけた。


『サテ、ソレジャアワタシハオ昼ガ終ワッタクライカラ合流スルカラ』


「え?」


 手が止まる。彼女は、支援担当のオートロが現場に出てきて一体何をするつもりだ、と思っていた。


『エ? ジャナイヨ。殺サレテモイイナンテ言ッテル相手ニイマサラ好感度ヲ稼グ必要ナンテ無イダロ』


 その科白で無架はオートロが彼女達のデートにかこつけて何をしようとしているのか、気づく。


「……ああ、検体採取? それならお昼にでも」


 オートロが空中投影した白地パネルに浮かぶ、バツの文字。無架の予想は外れていた。


『ダカラソウジャ無イヨ。モット本質的ナ事ダ。コノ機会ニ調ベトカナキャナラナイ、大事ナモノ。ソレハ……』


 無架が天袖に接触できる機会は限られている。というか、このサリカでは直接会う約束をする以外に天袖のことを調べるのは不可能だったりする。

 その理由は、主にサリカの構造のせいだ。同じ階層の中であれば直接視認して尾行し、天袖の自宅を特定することも可能なのだが、彼の家がある階層がデートをした階層とは異なるので、それもできない。

 階段を登り降りして階を跨ぐのとは訳が違う。文字通り、次元が異なっているのだから。

 サリカは階層都市と呼ばれるだけあって、一つの都市をマンションのようにいくつも重ねて広大な空間を確保している。

 その重なりは単純に積み上げられたものではなく、結界で区切った中に発生させたいくつもの次元空間を管理することで現実世界を侵食する事なく実現させているのだ。

 そんな訳で、行き先を指定しなければ無架達はサリカから出ることすら叶わない。そして、その移動をする際にも少々面倒なことが発生する。

 手っ取り早く彼と一緒、彼の移動に付いていけば話は別だが、そうすると今度は天袖の周りの人間、家族を警戒させてしまう可能性があるのだ。

 彼らにとって現在の無架は「天袖の恋人」でも、その正体を警戒していないとは限らない。最悪、天袖と付き合っているのが無架だと知らない可能性だってある。

 無架もその可能性を避けるため、天袖と彼の家族についてだけは話をしないように注意していた。


「……それは?」


 正直なところ、この後のデートで二回目の検体採取さえ達成すれば天袖が白か黒かはハッキリする。だから、その前にオートロが天袖に接触しようとする理由がわからなかった。——が、それも無架自身の思い違い。


『雪蕎麦天袖ノ、能力ヲ調ベル』


「天袖の……能力?」


 接触ではなく接敵。「仲良くしよう」の握手ではなく、多少強引ではあるが天袖の底を見る、いざという時の実力を把握しておくための襲撃だった。


『吸血鬼トイウノハ一般的ニ日光ヲ嫌ウ。トイウカ、日光ニ体ガ晒サレルト灰ニナッテシマウノハ知ッテイルヨナ?』


「……ん、それはそう。ウチにも吸血鬼はいるし」


 知り合いの姿を思い浮かべながら、無架は頷く。


『アイツモ吸血鬼ダケド、真ッ当ナ吸血鬼デアルアイツト違ッテ、雪蕎麦天袖ハ吸血鬼トシテハカナリ特殊ダ。何セ日光ニ当タッテモ体ガ燃エナイシ、昼ニ起キテ夜ニ寝テルンダカラナ』


「燃えない? ……いや確かに特殊だけど、それが何でわかるの?」


 それが本当なら、天袖は吸血鬼としての弱点を克服しているということ。……血を吸わなければならないという欠点は残っているが、それだけでも他の吸血鬼と比べてだいぶ優れている。

 でも、それより無架が気になったのは天袖の特性を知っている点。……何か調べたらしい。


『記録ガアッタ。「雪蕎麦」トイウ苗字デハナカッタケド、外見ヤアノ絵本ニ興味ヲ示シテイタ事カラモ間違イハナイ』


「……?」


 絵本。……密会の日の夜に天袖が読もうとしていた、あの「あくまのカラス」という絵本か。


「あれは……確かに天袖は読んでいたけど、それとどう繋がるの?」


『アノ絵本ノ作者「つるぎし」ハ、数年前ニ突如業界カラ姿ヲ消シタ。ソレ以降続刊モ出ル事ハ無ク、出版社ハ本人ト突然連絡ガ取レナクナッタト言ッテ、ソレキリダ』


「その作者と天袖に繋がりがあった……ってこと?」


 オートロはバツマーク……ではなく、△マークを表示した。何が惜しいというのか。


『ソレガネ。作者トシテ出版社カラ報酬ヲ受ケ取ッテイタ人物ハ「つるぎし」ガ最後ニ絵本ヲ刊行スル数日前ニ、逮捕サレテイルンダ』


 逮捕。「つるぎし」が最後に絵本を刊行したのは数年前のこと。天袖の年齢とは釣り合わない。


「事前に描き上げていたんじゃない?」


『ソレハソウダロウナ。ダケド「つるぎし」が逮捕サレタ後、編集部ニハイツモノヨウニ次回作ノ原案ガ送ラレテキテ、修正要望ニモ応エガアッタラシイ』


「…………ホラー?」


 とぼけて見せる無架でも、彼女はほぼ確信していた。

 いつものように、作者が逮捕されているにもかかわらず。事前に決まった時間に送るようプログラムされていても、家宅捜索を受ければそれがわかってしまう。返信なんて到底無理だ。


「……ちなみに罪状は?」


『薬物乱用。「つるぎし」ハ結婚シテイテ、ソノ妻モ同ジ罪デ捕マッテイル』


 薬物を手に入れる手段として使われていたであろうパソコンなどは押収されているし、そもそも編集部に送る手段が無い。他に誰かが自宅にいて、それらのパソコンとは別のもので、他人にはわかりにくい倉庫や屋根裏などから送っていたりしない限りは。

 最早不思議には思えない。


「……それは確かに、記録として残るね」


『ツマリ——』


「『つるぎし』として報酬を受け取っていたのは天袖の父親で、絵本を描いていたのは天袖だった。……しかも、天袖はかなり深刻な虐待を受けていた」


『……ソウダ』


「つるぎし」失踪の際、囁かれた噂の中には「虐待によって逮捕されたから」などもあった。……事実であったなら、度し難い。

 天袖があの年齢で吸血相手を求めていた事にも合点がいくし、年齢の割には妙に怯えた態度で、無架に従順だったのも納得がいく。


「…………」


 だからどうした。


『トイウワケデ、雪蕎麦天袖ノデータハアル程度見ツカッテイル。幼少期、昼間ニ外デ遊ブ事モアッタミタイダ。普通ノ吸血鬼ハソンナ事ヲシタラ灰ニナッテシマウトイウノニ』


 それはそうと、だ。彼女には関係ないし、たかが一人の受けた傷。万人が殺される痛みとは比べものにならないのは明らかだ。


『以上ノ点カラ、雪蕎麦天袖ハ今マデノ吸血鬼ニハ無イ特性ヲ有シテイル可能性ガアル』


「……それで、どうするの?」


 そんなので同情はしない、と無架は切り上げて、……顔を上げてオートロを見る。

 

『……ワタシガ君達ヲ襲ウカラ、君ハ彼ト共ニ適当ニ逃ゲロ。ダガ君ハ手出シヲスルナ』


「……それって不自然でしょ。襲われてるのに反撃しないなんて」


 オートロの作戦自体には反対しない——が、異論はあった。サリカの施設の破損、民間人への被害だとか、天袖が怪我をするかもしれない可能性は気にしていない——けど。


『ナラ、適当ニ一発ブッ放シテ後ハ店ヲ傷ツケルカラ反撃ハ控エル、トデモスレバ良イ。ソウスレバキミノ彼氏ガ護ッテクレルダロ。ソレヲ観ル』


「だからってそんな急に……」


『急ジャナイ急襲ガアルカネ』


 オートロの中ではもう、譲れないらしい。天袖の能力を確かめる他の案も無いことだし、無架はデート予定場所の地図を開いた。


「……わかった。それじゃ、場所はここね」


 無架が差し示したのは、フードレギオンの中心部。フードレギオンの中で唯一独立して建てられている店舗を、ぐるりと円形に囲む道路。そして円から三方向に伸びていく道路脇にはあらゆる店が軒を連ね、人通りも多い。普通は襲撃地点としては最も避けるべき場所だ。


『……理由ハ?』


「人通りが多いから。情報の伝達も早いだろうし、人はすぐに逃げる。……開けた場所だから逃げ込める場所も無いし。その分警備隊の駆けつける時間が短いから確かめる時間は少ないけど、人通りが無くて隠れやすい場所よりはピンチを誘いやすいし」


『……確カニ、ソウダネ。目的ハ能力ヲ確カメルコト、ト言ッタノハワタシダシ』


 二人の襲撃計画は決まった。あとは、きちんとデートをするだけだ。


「最初はわたしに当てて。そうじゃないと、いきなり天袖が死にかねないから」


『了解。……マ、アノツノオオカミヲ仕留メルクライダカラ多少ハ大丈夫ダト思ウケド』


 天袖では死にかねない攻撃も、無架なら大丈夫ということ。果たして、この化け物を捌いたフリをしながら、どうやって天袖を追い詰めるかな——と考えていると、今度は無架が首を横に振った。


「……ん、多分それは違う」


『……何?』


 天袖の強さを否定するかのような言葉に、オートロは球を一回転させる。


「天袖からはあまり強い匂いがしない。……なんていうか、アレをやったのはもっと獰猛な人だと思う」


 無架は理解していたのだ。彼の実力は彼女にとって格下であり、天袖が無架にとってさほどの脅威にならないことを。ならば事前に能力を確認しておくことは、あまり意味が無い。


『…………獰猛、ネ』


 オートロは息を吐いた。それは電子音だが、ため息のように低く、重い音だ。


(マッタク——)


 吸血鬼は血の匂いに敏感だと言うが、無架は気配に敏感だ。

 そんなもの、どうやってわかるのか……と、再び髪型にあれこれと悩む無架の背中を見つめながら、ベッドの上を転がり——オートロは音を鳴らした。



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