悪魔になりたい者
「まて、早まるんじゃない。」
20階建ての建物の屋上で中年の男は全身黒づくめの男に言った。
「いいか、この女の命が惜しいなら今すぐに金1億と逃走用のヘリを用意しろ!分かったか。」
その男は鎖を持っており、その鎖の先には若い女性がいた。
「分かった、分かった。今から用意させる少し待ってくれ。」
中年男はそう言いながらワイヤレスイヤホンを使い電話をかけた。
「もしもし、私だ。至急ヘリと金を用意するように。いいな。」
男はそう言うと電話を切ったと見せかけて繋いだままにし、交渉を再開した。
「すぐに準備するようだ。もうしばらく待ってくれ。」
そう懇願すると男は「10分だ。」と言った。
「分かった。」(10分か、普通に考えて1億なんて大金10分で準備できるわけないだろ。まぁ、いい。こちらからすれば狙撃部隊が配置につくには十分な時間だ。)そう思考を巡らせながら中年男は黒づくめの男の後ろの25階の建物を見た。
(準備ができたかは電話で合図をくれる。それに対して俺は髪をかくふりをして指を鳴らせば狙撃してfinishだ。それまでは、なんとかこいつに気づかれない様にしなければ。)
「なぁ、どうしてあんたはこんなことをするんだ?見たところまだ若いし、これからってとこだろ。」
中年男の問いに対し黒づくめの男は高らかに笑った。
「なぁ、あんた。俺みたいな人質を取り要求をされる様な事件初めてだろ。」
男はニヤリと笑いながら言った。
(何故それを。)中年男はそう思いながら同時に悪寒がはしった。
「10分で用意しろって俺言ったけどさ、普通無理だろ。なのに、あんたは分かったって言ったんだ。つまり、あんたははなから金とヘリの準備をするつもりがないってことさ。」
男はそう言うと、中年男のイヤホンから「準備ができた、合図を。」と連絡がきたが彼にはその声に耳を傾けず、代わりに男の話に耳を傾けた。
「そして、さっきの注意をこちらにそらす為のベタな質問。大方の予想だがこの後ろの建物に狙撃班を待機させてるってとこか。ベテランな者だったらもう少し伸ばしてくれって言って金とヘリを準備をする意思を見せようとするものだが、あんたは焦って分かったと言ってしまった。」
男はそう言って金属製のヘルメットを被った。
「だから、言ったんだよ。あんたは初めてだと。」
(読まれていたのか。くそ。どうする、あのヘルメットじゃ狙撃したとこで貫通できないし、あの余裕からして服は防弾だ。)
「さぁ、早く本当に準備してもらおうか。」
ヘルメット越しでも笑っているとわかる様な感じで言った。
(くそ、手はないのか。何か、手が。)
その時、突然ガラスが割れる音がしたかと思うと制服姿の女子高生らしき人物がヒョイっと下から飛び出てきた。
男は一瞬気を取られたが直ぐに冷静さを取り戻し「今昼間なのになz」言いかける前に女子高生のジャンプキックがヘルメットに炸裂した。「そんなの寝坊したからに決まってるでしょ。」女子高生は満面の笑みを浮かべながら言った。
「いや、助かったよ。また君に助けられたな明穂さん。」
中年男は女子高生に向かって涙を流しながら伝えた。
「全く川上警部もしっかりしてくださいよ。私がいなかったら大変なことになってましたよ。」
明穂はため息をつき手を腰に当てていた。
「本当だよ。遅刻は本来なら注意するところだが、今日の君の遅刻は感謝すべき遅刻だな。」
「じゃ、私これから学校に向かうんで。あとはよろしく。」
明穂はそう言って靴に手を当てると凄まじいスピードを出しながら去っていった。
「頑張れよ。」
川上警部は見送りながら煙草を吸い始めた。
「にしても、川上警部。武具ってすごいですね。」
「そうだな。10年前から突然13歳の者に宿るとされる武具。あれがあればと何度思ったことか。」
「ええ、僕なんて今24歳ですよ。後一年遅れていれば、武具を貰いただの警察官ではなく、出世街道爆進のモテモテ警察官になれたかもしれないのに。」
「いや、お前はポンコツだから変わらんと思うぞ。」
川上はジト目をしながら部下に言った。
「それに、あいつらも大変だぞ。強制的にあの学校に通わされて戦闘の訓練を受けさせられるんだからな。」
「知ってますよ。それに死者も出るとか。出ても訓練の一環だから仕方がないだなんてどうかしてますよね。」
「それくらい重要だってことなんだろうな。国防のことを考えても。だが、やっぱりあのくらいの若者が死ぬのは嫌だな。」
「はい、皆さん。123ページを開けてください。今日のテーマは武具。武具とは知っての通り、あなた方が持っているいわゆる力の結晶みたいなものです。その形状、能力は人それぞれによって違う。100人いれば100つの武具があるってことです。」
そこは、31個の机がある教室。教壇には眼鏡をかけた女性が立って講義を行なっている。
「武具は10年前に突然13歳にのみ現れたとされており今日まで13歳になると出現されてお「遅刻しました、すんません!」先生や生徒はその声がする前扉の方に顔を向けるとその子には、汗をかいている秋穂の姿があった。
「鈴村さん、あなたまたですか。大声で謝れば済むという問題ではないんですよ。」
先生は明穂に駆け寄りながら叱った。
「まぁまぁ、三宅先生良いじゃないですか。謝ったんだし。」
「あなたの台詞じゃないでしょ、それ。全く次遅刻したら反省文ですからね。」
「はいはい。」
「じゃ、早く席に座って。」
明穂は右後ろの席に座ろうとしたが、そこには先客がいた。
「貴方、誰?」
明穂は本来自分の席に座っている黒髪の男に質問すると、その答えは三宅先生が答えた。
「ああ、彼は今日転校してきた向井裕樹くん。」
「はじめまして、よろしくお願いします。」
裕樹は椅子から立ってお辞儀して挨拶をした。
「こちらこそよろしくね。」
明穂もそれに返すように挨拶をした。そのまま授業は進んでいった。
〜放課後〜
「明穂、あんた遅刻しすぎ。何回目なの?」
明穂は帰りの支度をしていると前から茶髪のギャルと白髪の眼鏡女子が喋りかけてきた。
「2回目かな。」
「ダウト。7回目。」
「ギクっ。」
「ギクって言う人いないから。」
「桜だってしたことあるでしょ。」
「私は1回とかよ。遅刻常習犯のあんたと一緒にしないで。」
「春香は、「0。」そうですよね。」
3人はそれから世間話をしながら学校を出た。
「へぇ、今日も警察の手助けをしたんだ。」
「そうなの。だから遅刻は仕方ない。」
「ダウト、事件、真っ昼間、発生。普通登校、遭遇、否定。遅刻、条件、遭遇、肯定。」
「だってさ、明穂。」
「く〜」
「あんた、明日こそはちゃんと来なさいよ。良いわね。」
桜と春香はそう言って明穂と別れた。明穂は歩いているとドラッグストアから出てくる裕樹と会った。
「向井くん。」
「鈴村さん。さっきぶりですね。」
明穂は裕樹が持っている袋に目をやるとそこには大量の目薬が入っていた。
「目薬多くない?」
「僕、乾燥しやすいんですよ。鈴村さんは家はこちらの方なんですか?」
「ええ、向井くんも?」
「そうなんですよ。途中からなんで近場の安いとこはどこも埋まってるし、仕方なく。」
2人は一緒に歩きながら話した。
「それにしても、すごいですね。鈴村さん。」
「え?」
「事件のことですよ。人質事件の犯人とり抑えに協力したんでしょ。」
「まぁ、そうね。」
「すごいなぁ、その正義感と勇気。僕もそれがあればなぁ。」
「ないの?」
「恥ずかしながら」
「誰も初めは持ってないと思うよ。努力して勝ち取るものだと思うから。あとは実践かな。」
「成る程、勉強になります。」
「何上から目線で言ってんのって感じなんだけど。」
「いえいえ。参考になります。じゃ、僕こっちなんで、また明日。」
「また明日。」
裕樹は手を振って明穂とは違う道にそれた。明穂はそのまま直進した。そのスピードはだんだんと増し、家に着く頃には息が少し上がっていた。明穂は家の中に入ると鞄を放り出し置いてあるパソコンにむかった。彼女は右手でマウスをスクロールしながら左手で爪を噛んでいた。
〜翌日〜
朝早く起床した明穂が学校に向かうと教室ではある揉め事が起こっていた。明穂が教室に入ると男子生徒2人が互いににらみあっていた。そのうちの1人は昨日転校してきたばっかりの向井裕樹であった。すると、桜と春香がこの出来事の原因を明穂に伝えてきた。
「問題児、正吾、原因。」
「なんでも、正吾の馬鹿が他クラスの女子生徒に性交を強要しようとしたところを転校生君が見てさ、それを止めに入ったんだと。」
「ふーん」
明穂は2人の言葉を聞き向井裕樹を見た。彼の目は冷静に自分よりでかい身長の正吾を見ていた。
(あいつ、昨日のことを。にしても実践早すぎないか?)
「テメー、俺の邪魔をしやがって。俺はただデートしねーかって聞いただけだろ。」
「聞き方が問題かと。貴方、彼女が持たれていた壁に拳を打ちつけながら聞いてましたよね。向こうはビビってたし、行きたくなくてもOK言わざるおえなかったでしょう。」
「俺流の優しい聞き方だ。それに文句あんのか?」
「一般的に優しい方法で聞いてみては?」
その言葉が引き金となり正吾の拳が裕樹の顔に迫りかけたその時「お前ら!!」三宅先生の怒号が響いた。
「教室内での喧嘩は禁止。それを破ったものはなんであろうとも罰を受ける。忘れたか?」
「「いえ。」」
「全く。相手の言い分とこちらの言い分が食い違った時、することはただ一つだろう。」
三宅先生が答えを言う前に正吾がニヤけながら答えた。
「転校生、俺と決闘だ。いいな?」
「分かりました。ルールは?」
「相手が気絶するか、根を上げるまでだ。日程は今すぐでどうだ。」
「異論はありません。」
「よし、先生ジャッジ頼むぜ。」
正吾はそう言うと駆け足でグラウンドに出た。それを追うように裕樹がそしてクラスメイト達も出た。
他のクラスや他学年は教室から興味があるものだけ見ていた。
「今から決闘を始める。ルールは相手の気絶もしくは降参によってのみ勝敗が決まる。相手を殺す技などは禁止する。
いいな。」
2人は頷いた。
「よし、それでは開始!!」
開始と同時に正吾は銀色の武具「鉄拳」を手に出現させ、裕樹に接近した。
「もらった。」正吾が拳を裕樹の顔にぶつけようとしたところを、裕樹は回転しながら回避した。
「ほー、なかなか良い目を持ってるじゃねーか。んじゃ、これはどうかな。」正吾は砂を蹴り飛ばし、裕樹にかけるとまたもや裕樹に接近してさっきと同じように拳を顔にぶつけようとする。裕樹も同じかと思い先程と一緒の回避をしようとしたところ、突然拳が加速して裕樹の顔面にヒットした。
「ワンヒットだな。」
「っく。」
「もういっちょ行くぜ。」
拳が裕樹の顔面にまたもや加速しながら迫ってきて裕樹は回避できずに食らってしまい吹っ飛んだ。それを喰らった時裕樹は違和感を覚えた。(俺の顔面がこいつの拳に向かって動いた。)
「ああ、も〜、なんで避けないの、転校生君は。」
側から見ていた桜は2度も連続顔面に食らってしまった裕樹を見て憤慨していた。
「転校生、昨日、初登校、正吾、武具、無知。」
「そうか、だから避けなかったのね。じゃ仕方がないわ。」
「にしても、なんで武具を出さないんだろう彼は?」
明穂は裕樹がなかなか武具をださないのを見て疑問を覚えた。
「明穂、同意。」
「明穂の加速する靴と違って常に有効じゃなくてカウンター型なんじゃない?」
明穂は桜の言葉に半分は同意した。
「さてさて、もうボロボロのボロ雑巾だなぁ、転校生。」
何発も顔と体に拳を喰らってしまい裕樹は顔から鼻血が出ていた。
「降参って言わねーと。やべーぜ。」
正吾の言葉に対して裕樹は笑顔で
「誰がいうか、ばーか。」
その言葉で正吾は真顔になった。そして、
「そうか、じゃ、次でシメーダ。」
正吾の拳がまた顔面に近づき加速しようとした時、
「悪いが、もうその技は見えた。」
裕樹はそう言って、顔面の横にグラウンドの砂の塊を投げた。すると、正吾の拳はその塊を追って加速していった。
そして無防備になった正吾の腹を黒い色のものを手に装着させ、思いっきり殴った。その勢いは凄まじく正吾はもろに食らったため気絶した。
「あんたの敗因は、自分の能力に過信し痛ぶるために決着を遅らせたことだ。」
「勝者、向井裕樹。」
その宣言にそれを見ていた者たちは声を上げた。そして、裕樹を胴上げしたのであった。
「あんた、昨日転校してきたばっかなんだろ。なのに、なんでそんな怪我をするのかね。」
保健のお婆さんはそう言って身体中に湿布と包帯を巻いた。
「明日までは絶対安静だよ。いいね?」
「分かりました。」
裕樹がそう言って保健室の外に出ると「あの、」と声をかけられた。
「はい、貴方は、あの人に迫られていた、」
「はい、平林真子といいます。助けてくれてどうもあ、あ、あ、ありがとございました。」
そう言うと真子はダッシュで去っていった。裕樹はそのまま学校を出ると明穂にあった。
「やー」
「昨日、確かに私は実践もいるって言ったけどさ、その段階に入るの早くない?」
「そうですかね。僕的にはここしかないって思ったんですが。」
「は〜」明穂は裕樹の答えにため息をついた。
「そういえば、よく分かったね。彼の武具の能力。知らなかったんでしょ。」
「ええ、貴方のお友達のおかげですよ。」
「え?」
「最初は拳を加速させるものだと思ったんですが、自分の顔も拳に向かっていってたので、それはないと判断しました。何か自分の顔と彼の拳が引き寄せ合う何かがあると思ったんです。そんな時に、あんたのお友達の「だから避けなかったのね。」っていのが聞こえてきまして。最初はこの拳の事かと思いましたが、違うって事に気付きました。彼のパンチは単純に避けられるものではありません。ですから、避けられる何かを指していると考えるとそれは僕に対して砂を投げてきた事だと分かりました。そこで彼の能力は砂に含まれている何かに向かって加速するんだと。」
「ほぼ、正解ね。彼の武具は磁石とほぼ同じ性質で、鉄に向かって加速するの。要するに彼は砂に含まれている砂鉄を利用してたってこと。すごいじゃん。」
「師匠に褒めて頂けるとはあり難き幸せ。」
「いつから私はあんたの師匠に。あの黒いのは武具なの?」
「ええ、まぁ」
「ふーん、じゃ、私は用事があるからここで。」
「また明日。」
「また明日。」
「くそ、なんで俺が。あんなクソ転校生に。」
正吾は自宅のソファに座りながらイライラしていた。
「あの転校生、絶対にぶっ殺す。ぶっろす、ぶっす、ぶっ、」
彼は初めて自分の能力を全く知らない人に負けたのだから。
「今から行くか。いや、学校でみんなの前でやろう。その方がいい、絶対。」
彼は自分を落ち着かせるために違法煙草をふかしていた。
(煙草じゃおさまんねぇ。また、あそこ行くか。)
正吾はソファから立ち上がり家を出た。
(本来なら決闘の祝勝のために行くとこだが、落ち着かせるためだ。いくしかねぇ。」
正吾はそう思いながら名前が「s様大募集」の店に入っていった。正吾が来るのを見ると店員は一瞬嫌な顔をしたが、すぐに平常に戻した。
「いつものだ。」正吾はお金を置きながら言った。
「正吾様、本来内は未成年者はダメなんですよ。これがバレたらうちは、」
店員が言い切る前に正吾は店員の襟元を掴んで引き寄せた。
「おい、誰のおかげでこの店が運営できてるんだ?ああ!?お前らなんてあいつの父に言えば一発だからな。」
「っそ、それは、」
「分かったならとっととしろ。俺は今イラついてんだ。」
店員は仕方なく正吾を通した。
「全く、ホントどうすれば。誰かあいつを消してくれないかな。」
店員が一人で愚痴っていると
「すみません、いいですか?」マスクをつけた全身黒い服装の客が現れた。
「はい、えっとコースはどうなさいましょ。」
「ノーマルで。」
「かしこまりました。えっと、年齢確認のためのものを何かご持参しておりますか?」
客は身分証を提示した。
「はい、分かりました。すみませんが、顔の方も宜しいですか。」
客はマスクをずらした。
「はい、オッケーです。では、こちらの302号室でお願いします。」
全身黒い服装の客は中に進んでいった。
「知ってるか?昨日正吾の奴死んだらしいぜ。」
「ああ、知ってる知ってる。なんでも、死因は違法煙草によく間違って含まれる毒によるものだって。」
「こう言っちゃなんだけど、ダサいよね。」
翌日、クラスの話題は正吾死亡の話題で持ちきりだった。
「正吾がどれだけ嫌われていたかが分かるわね。」
「私、正吾、嫌悪、正吾、死亡、喜、否定。」
「まぁ、私も人の死に関してはどんだけ悪人でも素直に喜べないわ。」
桜と春香はクラスメイトの反応に対して少しひいていた。
「明穂はどうなの?」
「私は、「裕樹君、裕樹君。」」
裕樹が教室に入ってきた。
「なんですか?」
「昨日ね、あの憎い正吾が死んだんだって。ウケるよね。」
その言葉を聞いた時、裕樹は涙を流した。クラス中の全員が裕樹に驚き視線を向けた。
「え、どうしたの?裕樹君。」
「いえ、僕が昨日勝てたのは彼の油断のおかげだったので、今日こそは本気の彼とやれるのかと思い楽しみにしていたんですが。それがとても残念で。」
「そ、そうか。ま、まぁ、それでも裕樹君が勝っていたと思うよ。」
クラス中の全員が裕樹のことをおかしいと思っていると「はい、座ってください。授業はじめますよ。」
三宅先生が登場した。
「授業の前に1つ。正吾の件は知っていますね。いいですか、これに関して言うと違法なものは絶対にダメです。あと、人の死に関して喜んではいけません。喜んでいるとそれが癖になって大変なことになりますから。分かりましたね。」
生徒たちは無言で頷いた。
「では、授業を始めます。」
しかし、2人だけ頷いていない人がいた。
「じゃ私先に帰るね。」
「ええ、今日一緒に寄りたいところあったのに。」
「桜、同意、」
「それは明日ね、じゃね、桜、春香。」
明穂はそう言ってダッシュで家に帰った。玄関を通った瞬間に明穂は腕を上げ
「っっっやったーーー!!ついにあのクソ野郎どものうちの1人を葬れた。」
歓喜のダンスの如く動き回り、ひとつの仏壇の前に座った。
「あと4人だよ、待っててね。茜。」
そこには明穂そっくりの顔をした女の写真があった。
「全員を葬れるなら、私は悪魔になってやる。」
彼女はそう言ってお風呂に向かった。
しかし、彼女は悪魔になれない。そもそも、悪魔になろうとしている時点で彼女は本物の悪魔にはなれない。
なぜなら、
「っふ、しっかし傑作だな。妹の為の復讐とは。久々に面白そうなおもちゃを見つけたぜ。」
そこはあるマンションの一室。机の上にはパソコンが置いてあり、そこには鈴村明穂、竜宮城正吾、そして鈴村茜の写真が写っていた。
「熱血キャラになるためとはいえ少々やりすぎたか。」
ゴミ箱には空っぽの目薬の容器があった。
「精々楽しませてくれよ。人間。」
本物の悪魔は人間になろうとするのだから。