第6話:騎士団長は鬼でした
早速ハルに教えてもらった通り、ミノムシの中に入った。あら、これ以外と寝心地がよさそうね。さすがに今日は疲れたわ。ゆっくり目を閉じると、一瞬にして夢の世界へと旅立った。
「おいコラ!てめぇはいつまで寝てやがるんだ!とっとと起きろ!」
ドス!
お尻に鈍い痛みが走った。どうやら蹴られた様だ。急いで目を覚ますと、そこには鬼の様な顔をした騎士団長が立っていた。
「申し訳ございません!すぐに準備します」
「1分で準備しろ!いいな!」
そう言い残し出て行った騎士団長。とにかく急がないと!急いで着替えるが、慣れない着替えに手間取ってしまい、時間が掛かってしまった。
「遅いぞ!着替えるだけでいつまで掛かっているんだ!そんなノロマだと、ここでは生きて行けないぞ!」
朝から怒鳴り散らす騎士団長。
「申し訳ございません!」
とにかく必死で頭を下げた。
「ウィリアム。それくらいにしておけよ。クレアはここに来たばかりなんだ。ほら、クレア。こっちで一緒にご飯を食べよう。おいで」
助けてくれたのはもちろん副騎士団長だ。なんて優しいのかしら。そんな私たちを鬼の形相で睨んでいる騎士団長。恐怖でしかないので、見ない事にした。
「はい、これがクレアの分。基本的に食事を作るのも当番でやっているから、よろしくね」
副騎士団長から手渡されたのは、パンとチーズだ。きっと討伐中はシンプルな食事が多いのだろう。ふと周りを見ると、皆パンにかぶり付いてた。本来であれば、直接かぶり付くなんて、令嬢としてあるまじき行為だが、今は令嬢ではない。見よう見まねでかぶり付いた。うん、美味しいけれど、なんか変な感じね。
「へ~、令嬢なのにそんな食べ方をするんだね。でも、無理しなくてもいいよ。クレアは普段通りに食べたらいいんだよ」
「ありがとうございます。副騎士団長様。それでは、いつも通り食べさせていただきますね」
早速パンを1口サイズにちぎって食べる。やっぱりこの食べ方が食べやすいわ。食後は早速討伐開始だ。確かジークとハルが私の教育係だったから、彼らの元に行けばいいのよね。そう思っていたのだが…
「おい、お前は俺と一緒にこい!お前の実力を確認する」
騎士団長が声を掛けて来た。正直気が重いが、付いて行くしかない。
「とっとと歩け!このノロマ!」
早速怒鳴られてしまい、小走りで付いて行く。既に恐怖しかないが、とにかく付いて行くしかない。
その時だった。魔物の群れが現れた。皆一斉に攻撃魔法と剣を使って攻撃をする。よし、私も!手をかざし「炎」と叫ぶと、一気に炎が噴き出た。
ただ持続性が無いらしく、すぐに消えてしまう。あら?皆みたいにずっと炎を出すにはどうしたらいいのかしら?
その時だった!1匹の魔物が私目掛けて飛んできた。しまった!やられる!そう思って目を閉じた!あら?襲って来ない?
「お前は何を目を瞑っているんだ!このバカが!!!」
隣から騎士団長の怒鳴り声が聞こえて来た。ゆっくり目を開けると、鬼の形相の騎士団長と目が合った。
「申し訳ございません!」
とりあえず謝る。
「謝る暇があるなら、攻撃魔法を掛け続けろ!!」
そうだわ!急いで攻撃魔法を掛けるが、やっぱり持続性が無い。それも強弱が難しく、炎の大きさも定まらない!
「おい、もうちょっと上手く攻撃魔法を掛けられないのか!!」
隣で再び騎士団長の怒鳴り声が聞こえる。そんな事を言われても、出来ないものは出来ないのだ!完全にパニックになる!
結局周りの騎士団がほとんど魔物を倒してくれたので、何とか事なきを得たのだが…
「お前!そんな技術でよく討伐部隊に参加したいと思ったな!そもそも、お前の様な弱い人間がいると、隊員皆の命が危険に晒されるんだ!意気込みだけは立派だが、お前の弱さによって、他の者が迷惑する!!!分かっているのか!」
「はい、申し訳ございません!」
「申し訳ございませんはいらん!!とにかく、もう少し強くなるまでは、お前の討伐は禁止する!いいな!」
結局しばらくは討伐に出る事を禁止された。ただ、ここには置いてもらえる様だ。良かった。お昼になり、皆でお昼ご飯を食べる。どうやらお肉を焼いた物の様だが、味付けも薄く、お肉も堅い。なんだかゴムを食べている様だ。
でも文句は言えないわよね。黙って食べた。
「クレア、お疲れ様!騎士団長にかなりきつく怒られていたみたいだったが、大丈夫か?」
「騎士団長厳しからな。でも、最初はあんなもんだ。気にするな」
声を掛けて来てくれたのは、ジークとハルだ。
「ありがとう、ジーク、ハル。でも騎士団長の言う通り、今の私では明らかにお荷物だから、もっと頑張らないとね」
「お前本当に令嬢かよ。随分と強靭な精神を持っているんだな!あんなに騎士団長に怒鳴られたら、騎士志願者でも泣いて帰って行くのに」
そう言って笑っていた。確かに騎士団長は言葉も悪いし、暴力的だし(朝もお尻を蹴られた)鬼だけれど、あの程度で逃げ出すなんて皆柔なのね。
「俺達お前の事気に入っているんだよ。だから、午後から俺たちが魔術を教えてやる」
「本当!ありがとう」
彼らに教えてもらえるなら、少しは上達するわね。そう思っていたのだが…
「いつまでのんびり飯を食べているんだ!今から俺が稽古を付けてやる。さっさと来い!」
何と、騎士団長が呼びに来たのだ。ふとジークとハルの方を見ると、可哀そうな者を見る目をしていた。
「ごめん、忘れていた。新人は騎士団長自ら稽古を付けるのがルールなんだ。かなり厳しいけれど、頑張れよ」
そう耳元で呟いて去っていく2人。そんな大事な事、なぜ今話すのかしら。でも、騎士団長自ら稽古を付てけ貰えるなんてある意味ラッキーよね。よし、頑張るか!気合いを入れて、早速騎士団長に付いて行ったのだが…
「お前の魔力はその程度か!まだ行けるだろう!ほら、もっと腹に力を入れろ!」
そう言ってお腹をバシバシ叩く騎士団長。
「次は体力作りだ!あそこまでダッシュ30本だ!さっさと走れ!」
「誰が休んでいいと言った!バツとしてスクワット50回!」
やっぱり鬼の様な稽古だった。そもそも、スクワットって何かしら?
「あの、騎士団長様。スクワットとは何でしょうか?」
「お前はスクワットも知らないのか!どれだけ甘っちょろい世界で生きて来たんだ。いいか!スクワットはこうやるんだ!やって見ろ」
見よう見まねでやるものの…
「なんだ!そのスクワットは!!バカにしているのか!!!」
すかさず怒鳴る騎士団長。いくら怒鳴られても出来ないものは出来ないのだ。
「もういい!次はもう一度攻撃魔法を掛けて見ろ!とにかく手に魔力をずっと集中するんだ!!」
何度も何度も攻撃魔法を掛けさせられ、正直最後の方は記憶がないほど限界まで魔力を使い切った。
「よし、午後の稽古は終わりだ!次はもっと厳しくするから覚悟しろ!」
そう言って去って行った騎士団長。あの人はまさしく鬼だ。鬼としか思えない!騎士団長の稽古を終え、地面にぐったりと倒れこむクレアであった。