第37話:クレアが誘拐されただと!~ウィリアム視点~
クレアと通信を切った後、俺の弁当を狙うバカ共を締め上げ、急いで弁当を食べる。
「ちょっとくらい弁当をくれてもいいじゃないですか?こんなに沢山あるのだから!」
団員たちがブーブー言うのを無視して食べる。そもそも、可愛いクレアが俺の為に愛情をたっぷり入れて作ってくれた弁当だ。なぜこいつらに食わせないといけないんだ!
黙々と弁当を食べる。それにしても、クレアの料理は本当に美味いな。それに、力もみなぎる。
食後、稽古に励む為、団員たちを引き連れ稽古場へと向かおうとした時だった。
騎士団の受付係が、クレアの専属メイドと家の使用人数名を連れてやって来た。なぜか専属メイドは泣いている。その姿を見て、嫌な予感がした。
「急にどうしたんだ?クレアに何かあったのか?」
急いでメイドの元に駆け付ける。
「申し訳ございません。お嬢様が…お嬢様が何者かに連れ去られました」
「何だって、クレアがか」
頭が真っ白になった。クレアが連れ去られるだなんて…
「しっかりしろ!ウィリアム。それで、どんな状況でクレアは連れ去られたんだ!」
俺の代わりにメイドに質問するデビッド。
メイドの話では、新しく入ったメイドがクレアを連れて外に出て行ったらしい。不審に思い後を追うと、ぐったりとしたクレアを複数の男が馬車に乗せ、そのまま連れ去ったとの事。急いで後を追おうとしたが、見失ったらしい。
「何て事だ…一体誰がクレアを…」
「しっかりしろ!ウィリアム。とにかく、すぐにクレアを探そう!俺たちも協力するから!」
そう言って俺の肩を叩くデビッド。
ふとポケットに入っていた通信機を取り出した。最後にクレアと話したのは、この通信機越しだったな…
ん?通信機?
急いで通信機を起動させた。そう、この通信機は、持ち主の居場所が特定出来る機能が備え付けられている。もしクレアがこの通信機を持っていれば、クレアの居場所が分かるかもしれない。
頼む、クレア!通信機を持っていてくれ!そんな願いを込めて、早速クレアの通信機がどこにあるのか調べる。すると、通信機が移動しているのが分かった。どうやらクレアは通信機を持っている様だ。よかった!これでクレアを助け出せる。
「クレアの居場所が分かったぞ。今移動している様だ!俺は急いで今からクレアの後を追う」
「僕も行くよ。それにしても、クレアの居場所を特定出来る器具を付けさせていたなんて…さすがにドン引きだよ…」
デビッドが物凄く気持ち悪い者を見る様な目で、俺を見ている。他の団員たちも、かなり引いている様だ。
「誤解するな!俺はクレアにそんなものを付けてはいない!たまたま通信機にその様な機能が付いていて、たまたまクレアがその通信機を持っていただけだ!」
そう叫んだが、どうも信用していない様子。まあ、そんな事はどうでもいい。とにかくクレアを助け出す事が先だ。
「とにかく急ぐぞ!」
急いで騎士団内にいる愛馬にまたがる。なぜかデビッドの他に、討伐メンバーも馬にまたがっている。
「団長、俺たちもクレアが心配だから付いて行くよ」
どうやらこいつらもクレアが心配な様だ。
「分かった。とにかく急ぐぞ。俺について来い!」
一斉に馬を走らせる。しばらく走ると、クレアの通信機の動きが止まった。どうやら港の街で止まった様だ。
「デビッド、港の街で動きが止まったぞ」
「なるほどね。という事は、クレアを船に乗せて隣国に連れて行くつもりだろう。それでウィリアム、心当たりはあるのかい?君の大嫌いな王女は、既にこの国にはいないし…」
デビッドの言う通り、港から船に乗せ隣国に向かうつもりだろう。船で行くという事は、エミリアのいる国とは別の国だ。エミリアのいる国は、海が無い。となると、エミリアは関係なさそうだ。そもそもエミリアは、多分今それどころではないはず。という事は…
「デビッド、俺の予測では1人だけ心当たりがある。クレアの元婚約者、サミュエル・カードリッドだ。あいつはまだクレアを諦めていない」
「そう言えば、先日カードリッド侯爵が嫡男を勘当したらしいよ。もしかして、今回の事件と関係があるのかな?」
「何だって!どうしてそれをもっと早く言わないんだよ!きっとそうだ。家に迷惑がかからない様、予め縁を切っておいて、そのうえでクレアを誘拐したんだ。そして隣国へ渡り、2人で暮らそうと言う計画だろう!クソ!ふざけやがって!!!」
体中から怒りが込み上げて来た。そもそも、あの男がクレアを諦めていなかった事は分かっていたのに!まんまと連れ去られるなんて!
「落ち着け、ウィリアム。とにかく、港まで急ごう!」
さらに馬の速度を上げ、港の街まで急ぐ。馬を走らせること約2時間。やっと港の街に着いた。急いでクレアの位置を確認する。どうやら、既に船に乗り込んでいる様だ。
「クレアは既に船に乗せられている!急いでクレアを救出するぞ!」
それにしても、船が沢山停まっているな。とにかくクレアが乗っている船を探さないと!
「ウィリアム、尺の幅を縮めろ!」
隣でデビッドがすかさず指示を出す。言われなくても分かっている。
「デビッド、どうやらあの船の様だ!」
俺が1隻の船を指さすと、一斉に走り出す団員たち。どうやら、我先にクレアを救出しようとしている様だ。
ふざけるな!クレアを救出するのは俺だ!早速船の責任者を呼びつけ、理由を説明する。俺がバーレッジ公爵令息とわかると、真っ青な顔をして船に入る事を許可してくれた。
やっぱり爵位は役に立つんだな。改めてそう思った。乗客名簿を確認するが、それらしい名前はない!きっと偽名を使っているのだろう。
仕方ない、片っ端から部屋をノックして確認して行く事にした。
きっとあの男の事だ。あまり貧相な部屋には泊まっていないはずだ。とにかく、グレードが高い部屋から訪問して行く事にした。もちろん、船員を連れて確認していく。
コンコン
「おくつろぎの所申し訳ございません、少しよろしいでしょうか?」
船員が丁寧に声を掛ける。
「何か用かい?」
姿を現したのは、間違いない!クレアの元婚約者のサミュエルだ!
「貴様、よくもクレアを!」
怒りからサミュエルを殴り飛ばし、すぐに部屋に入る。そこには、鎖で繋がれたクレアの姿が。
「クレア!」
「ウィリアム様!」
嬉しそうにこちらに走って来るクレアを、思いっきり抱きしめた!クレアもギューギュー抱き着いて来る!良かった、本当に良かった!もう二度と、クレアを手放すものか!




