第34話:新居に引っ越します
ウィリアム様と婚約を結んでから、1ヶ月が経とうとしていた。結婚式の準備の合間を縫って、進んでいた新居探し。
中々思うような屋敷が見つからず、新しいお屋敷を1から建てる事になった。ただ、さすがに1から建てるとなると、いくら魔法を使っても1年はかかるとの事。
「そんなに待てるか!」
というウィリアム様の言葉で、急遽一時的に住むための屋敷を借りる事になった。少し古いお屋敷ではあるがリフォームした為、私は結構気に入っている。ちなみに新しいお屋敷は、討伐の褒美として陛下に建ててもらう事になっている。
さすがにお屋敷を建てて頂くのは、ちょっと図々しいかとも!そう思ったが、ウィリアム様が
「それくらいしてもらって当然だ!むしろ褒美としては安すぎるくらいだ!クレアは謙虚すぎる!」
そう言っていた。
それに陛下も
「そんな事でいいのか?他にはないのか?」
と聞いて来たくらいだから、どうやら大丈夫の様だ。
そして今日、いよいよリフォームが終わったばかりの新居に引っ越す日だ。予め家具などは既に新居に入れてもらっている。この家具たちも、ウィリアム様と一緒に選んだ。騎士団長として働いているウィリアム様。
物凄く忙しいはずなのに、こうやって屋敷や家具を選ぶ時には、必ず側にいてくれる。ウィリアム様は、いつも私の事を一番に考えてくれているのだ。
という事で、今日は私の身の回りのものだけを持って行けばいい。ただ身の回りの物と言っても、一応は伯爵令嬢。持って行くとなると、結構な量になる。そのため朝からマレア含めメイドたちが、大忙しで荷造りをしている。
もちろん私も何を持って行くのか、メイドたちに指示を出していく。
「お嬢様、この奥にあった箱はどうしましょう」
マレアが取り出したのは、サミュエル様にもらった思い出の数々を入れてある箱だ。そうだわ、討伐に行く前日にしまったのだった。すっかり存在を忘れていた。こんなもの、もちろん新居に持って行く事は出来ない。きっと返されても迷惑だろうから、処分してしまおう。
「それはもう要らないわ!処分しておいてくれる?」
「かしこまりました。では処分しておきます」
人から貰ったものを処分するのは心苦しいが、持っていても仕方がないものね。それに、もうサミュエル様とは全てが終わったのだ。これでいい!
「お嬢様、ある程度荷物がまとまりました。さあ、新居に移動しましょう」
「ええ、それじゃあ行きましょうか」
ちなみに新居に移動するに伴い、私の専属メイドのマレアも付いて来てくれる事になっている。
「私、新居に行くのは今日が初めてですの。とても楽しみですわ」
嬉しそうにそう言ったマレア。小さい頃から、ずっと私の側にいてくれた。メイドというより、姉の様な存在だ。そんなマレアは両親も旦那様も家で働いてくれている。マレアの両親は伯爵家に残るが、旦那様は一緒に新居で働いてくれる事になっている。ちなみにマレアの旦那様は料理人だ。
もちろん、屋敷にはマレア達使用人が住むスペースも完備されている。朝早くから夜遅くまで働いてくれている使用人たちに、出来るだけ負担を掛けたくはないものね。
そんな事を考えていると、あっという間に新居に着いた。馬車から降りると、ウィリアム様が飛んできてくれた。
「クレア、会いたかったよ!やっと今日から一緒に暮らせるんだね!嬉しいよ」
そう言ってギューギュー抱きしめるウィリアム様。
「騎士団長、何だよその締まりのない顔は!本当にクレアの事になると、人が変わったみたいに気持ち悪くなるの、止めてもらえますか?」
奥からなぜか討伐メンバーの姿が。一体なぜみんながここに居るのだろう。
「ハル、お前うるさいぞ。そもそも、どうしてお前たちが俺とクレアの新居に押しかけて来ているんだ!迷惑だから帰れ!」
討伐メンバーに怒鳴りつけるウィリアム様。
「ウィリアムは冷たいね。せっかく手伝いに来てあげたって言うのに」
「何が手伝いだ!そもそも荷物の搬入は全て使用人が行っている。お前たちは屋敷の中をジロジロ見ているだけだろう!」
皆にギャーギャー文句を言うウィリアム様。
「まあまあ、せっかく皆が手伝いに来てくれたのだから、良いではありませんか。そうだわ、せっかくだから皆、今日は家でご飯を食べていって。私も久しぶりに何か作るわ!」
「おい!クレア!」
ウィリアム様がすかさず私を止めようとしたのだが、時すでに遅し。
「さすがクレアだ!それじゃあ、今日の夕飯は団長の家でご馳走になるか。クレア、野菜たっぷりシチューと肉のワイン煮は作ってくれよ」
「俺はピザが食べたい」
「僕は特製肉入りサンドウィッチがいいな!」
次々にリクエストが飛び交う。
「そうと決まれば、早速荷物の搬入を手伝って宴にしよう。酒はたっぷりと準備しておいてくれよ!」
そう言うと、次々と荷物の搬入を手伝い始めた団員たち。
「クレア、どうしてあのバカ共を晩ご飯に誘ったんだ。あいつらには、遠慮という文字が存在しないんだぞ!せっかく今日は、クレアと2人きりで過ごせると思っていたのに!」
物凄い形相で詰め寄って来るウィリアム様。正直恐ろしい…
「これから毎日一緒にいられるのですから、1日くらい良いではありませんか。それより早く荷物を搬入しましょう。間に合わなくなりますよ」
その後は急ピッチで荷物を搬入していく。と言っても、私は特にやる事が無いので、早速厨房へと向かう。
「今日は急遽、討伐部隊のメンバーも一緒に夜ご飯を食べる事になったの。私も料理を作るから、皆もお願いね」
「「「任せてください!」」」
早速料理人たちと一緒に料理を作っていく。いつもの様に、美味しくなれ!美味しくなれ!と念じながら。
「それにしてもお嬢様、討伐から帰って来てから、さらにお料理の腕を上げられましたね」
そう言ってクスクス笑っているのは、マレアの旦那様だ。
「討伐部隊では、毎日作っていたからね」
そんな話をしながら、料理を仕上げていく。料理が完成した頃には、ちょうど夕方だ。早速食堂に料理を運んでいく。既に討伐メンバーによって宴がスタートしていた。忙しそうにメイドたちが、次々にお酒を運んでいる。
「クレア、遅いぞ。俺たちはもうお腹がペコペコだ!」
とう言いつつ、お酒を片手にチーズやハムなどをつまんでいる。
「ごめんね、今お料理を並べるから待っていてね」
急いで料理を並べ、宴がスタートだ。それにしてもいくら広い食堂でも、男性が20人も入ると結構狭い。
でも本人たちはあまり気にしていないようで、食事を楽しんでいる。それにしても、凄い飲みっぷりだ!どんどんお酒が消えていく。どれだけ飲むのかしら…
「だから言っただろう!こいつらには遠慮という文字が存在しないんだ。討伐の時は、翌日の事を考えて酒をセーブしていたが、今は違う。こいつら、家に泊るつもりだ。本当に図々しい奴らなんだよ」
若干引き気味に見ていた私に、そう教えてくれたのはウィリアム様だ。
「まあ大変!皆が泊まるのなら、お部屋を準備しないと!」
急いで近くにいたメイドに指示を出そうとしたのだが、なぜかウィリアム様に止められた。一体どういう事なのだろう…
結局この日の宴は、夜遅く…というより明け方まで行われていたらしい。ちなみに私は早々にリタイアし、部屋に戻って休んだ。
翌朝、朝食を食べる為食堂に向かったクレアが見たものは…
酒を片手に床でグーグー寝ている団員たちの姿だった。なるほど、確かに泊まる部屋は必要ないわね。でも、床で眠るなんて…
団員の姿を見て、若干引いているクレアであった。




