第31話:討伐部隊のメンバーと共に王宮に呼び出されました
婚約を結んだ翌朝、早速お義母様(ウィリアム様のお母様)から公爵家に来るように呼び出しがあった。どうやらウエディングドレスのデザインを決めるとの事だったので、早速お母様と一緒に公爵家に向かう。女3人とデザイナーであーでもない、こーでもないと話していたら、結局お昼まで掛かってしまった。
そして午後は宝石商による、アクセサリー選びだ。ウィリアム様の瞳をイメージした金のアクセサリーを中心に選んでいく。
この国では、花嫁は花婿の瞳の色のアクセサリーを付けると言った決まりがある。その為、出来るだけ金色のアクセサリーを中心に選んだ。
それにしても、さすが公爵家に出入りしている宝石商の事だけはある。持ってくる宝石も、最高級品ばかりだ。途中から義姉に当たる、マーラお姉様(長兄のお嫁さん)と、姪っ子のリリア様も加わり、物凄く賑やかになった。
マーラお姉様はとてもいい人で
「私の事を姉だと思ってね!」
そう言ってくれた。ちなみにマーラお姉様と次兄のお嫁さんでもある、メリア様はとても仲が悪いらしい…
「2人共いい子なのだけれど、どうしても馬が合わないみたいなの」
そう言ってクスクス笑いながら教えてくれたお義母様。
そして翌日
再び公爵家に呼び出された私は、改めて家族を紹介してもらった。確かにマーラお姉様とメリア様は仲が悪い様で、目も合わそうとしない。ちなみにメリア様は元侯爵令嬢で、今はウィリアム様のお兄様が後を継いでいる。
ちなみにメリア様も私にはとても親切だった。ただ、マーラお姉様にかなり対抗意識を燃やしている様で
「私の事も姉だと思ってね」
そう言われ、メリアお姉様と呼ぶことになった。ウィリアム様の話では、2人は元々友人だったが、ある事がきっかけで大げんかをしてから仲が悪くなったようだ。
ちなみに子供同士は仲が良い様で、お互い男の子と女の子1人ずつ子供がいる。私にも懐いてくれて、その日は一緒に遊んだ。
そんな私を見たウィリアム様が
「クレアは子供の扱いも上手いんだね。随分と懐かれているじゃないか!あいつら、意外と人見知りなんだよ。俺には寄り付きもしない」
そう言って苦笑いしていた。確かにウィリアム様には全くと言っていいほど寄って行かない。
気になって子供たちに聞いたら
「だってウィリアムはすぐに怒るんだ。怒ると鬼の様に怖いんだよ!」
そう言っていた。なるほど、確かに鬼の騎士団長だものね…
どうやらウィリアム様の家族にも受け入れてもらえた様で、ホッとした。
その後も色々とバタバタと過ごしているうちに、あっという間に討伐から帰って来て10日が過ぎた。
今日は討伐部隊のメンバーと一緒に、王宮に呼ばれている。今回ジャイアントスネークを倒したという事で、褒美が貰えるらしい。
久しぶりに皆と会えると思うと、ワクワクが止まらない。早速討伐時に着ていた服に着替える。
久しぶりに履くズボン。なんだか懐かしいわね。ただ、私の討伐時の姿を見た両親やお兄様、使用人たちが複雑な顔をしていたが、気にしない様にした。
マレアに至っては
「討伐に行く訳ではないのですよ。ドレスに着替えてください!」
そう言ってドレスを持ってきたが、今回は討伐メンバーとして参加するのだ。ドレスなんて着て行く訳にはいかない。頑なに拒否し続け、何とか諦めたマレア。ただ、まだドレスを持ってこちらを見つめている。しつこいわね!
コンコン
「お嬢様、ウィリアム様がいらっしゃいましたよ」
「ありがとう、すぐに行くわ」
王宮までは、ウィリアム様と一緒に行く事になっている。急いで玄関に向かうと、騎士団の服を着たウィリアム様が待っていた。久しぶりに見る騎士団長の姿に、つい見とれてしまった。
「おはよう、クレア。その姿を見ると、討伐の時を思い出すよ。今日は討伐に行く訳ではないのだから、ドレスでもよかったのだよ」
「あら、ウィリアム様。今日は討伐メンバーとして参加するのですから、やっぱりこの衣装でなくては!」
そんな事を言ったら、マレアが喜ぶだけだ。現に後ろで嬉しそうにドレスを広げているマレアが待機している。
「早く行かないと遅刻してしまいますわ。さあ、行きましょう」
このままドレスに着替えさせられるのは御免だ。さっさとウィリアム様の腕を掴んで、馬車へと乗り込む。
「クレア、こっちにおいで」
馬車に乗り込むと、そのまま腕を引っ張られ、ウィリアム様の膝に座らされた。さらに、後ろからギューッと抱きしめられる。
「クレアの討伐時の衣装を見ると、何となく騎士団のメンバーにクレアを取られるんじゃないかと不安になるんだ。何でだろうな…」
「ウィリアム様、そんな心配は無用ですわ。そもそも騎士団員たちも、祝福してくれていたではありませんか?」
「そうなのだが…どうしても不安なんだ。今回はジークも来るしな」
「まあ、ジークも来るのですか?それは楽しみですわ」
久しぶりにジークに会えると思ったら、つい嬉しくて笑みがこぼれる。
「クレアはそんなにジークに会えるのが嬉しいのか?」
不機嫌そうにそう言ったウィリアム様に、無理やりこちらを向かされ、そのまま唇を塞がれる。
ゆっくり離れたウィリアム様が、真っすぐ私を見つめる。美しい金色の瞳と目が合った。なんだか恥ずかしくて、俯いてしまう。それが気に入らなかったのか、再び目線を合わせさせられた。
「いいか、クレア!俺たちはもう正式に婚約を結んだんだ。結婚式の準備も急ピッチで進めている。今更、結婚は無かった事にして欲しいと言っても駄目だからな!」
なぜそんな話になるのかしら…
「何度も申し上げている通り、私はウィリアム様を心から愛しております。ですから、ウィリアム様が私を裏切らない限り、私から結婚をお断りする事はありませんので!」
ウィリアム様にはっきりとそう告げた。
「俺がお前を裏切る事は、120%ない!!すまん、クレアが俺の事を大切に思ってくれているという事を、頭では分っているのだが、どうしても不安になる事があるんだ」
そう言うと、俯いてしまったウィリアム様。いつも毅然とした態度で討伐部隊を束ねていた騎士団長のウィリアム様。こんな可愛い一面もあるのよね。
「ウィリアム様、私はいつも皆を束ねている物凄く強い騎士団長のウィリアム様も、少し嫉妬深いウィリアム様も、たまに甘えてくるウィリアム様も全て大好きです。もし不安になったら、私にぶつけて頂いても大丈夫ですわ。そのたびに、ウィリアム様をいかに大切に思っているか、きちんと説明いたしますので」
そもそも一度婚約者に裏切られた私が心配するなら分かるが、なぜウィリアム様がそこまで心配するのかよく分からない。ただ不安に思う事があれば、遠慮せずに言って欲しい。少しずつでも、不安な気持ちが解消していってくれたら嬉しいと思っている。
「クレア!ありがとう!」
ギューギュー抱きしめるウィリアム様。少し息苦しいが、今は我慢しておこう。
ふと窓の外を見ると、どうやら王宮の目の前まで来ている様だ。
「ウィリアム様、もう王宮に着くようです。降りる準備をしましょう」
その瞬間、馬車が停まった。どうやら着いた様だ。
「それじゃあ行こうか」
ウィリアム様にエスコートされ、馬車を降りた。久しぶりに皆に会うのね。そう思ったら、ワクワクしてきた。
高鳴る鼓動を抑えながら、王宮内に入って行くクレアであった。




