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第3話:家族で過ごすのは今日で最後かもしれません

翌日

「う~ん…」


ゆっくり目を覚ました。なんだか眩しいわね。そう思い外を見ると、随分日が空高くまで昇っていた。もしかして私、寝すぎたのかしら?


「マレア、どうして起こしてくれなかったの?これじゃあ、完全なお寝坊さんじゃない!」


近くに控えていた専属メイドのマレアにそう声を掛けたのだが…


「旦那様が、寝かせておいてやれとおっしゃられたので。お嬢様、魔物討伐に行く事、どうか考え直してください!」


目に涙を浮かべたマレアが、必死に訴えて来た。


「心配してくれているのね。ありがとう、マレア。でも、もう決めた事だから。それに、断れば家族もどうなるか分からないのよ!あなただって、路頭に迷うかもしれないし」


伯爵家が無くなれば、今まで伯爵家の為に一生懸命働いてくれていた使用人たちも、路頭に迷う事になるのだ。そんな事は、絶対にさせられない。


「私の事はどうでもいいのです!それにしても、なんて傲慢な王女なのかしら!あんな王女がいるなんて、この国ももう未来はないですわ!」


確かにエミリア王女は随分と傲慢だけれど、それでもやっぱり王女なのだ。逆らう訳には行かない。


泣きじゃくるマレアを何とかなだめ、着替えを済ませると食堂へと向かった。お昼まで眠っていたせいで、お昼ご飯になってしまったが仕方ない。


そうだわ、早速お父様に魔術を教えてくれる家庭教師を付けて貰わないと。いくらなんでも、全く攻撃魔法や治癒魔法が使えないんじゃあ、向こうでも迷惑を掛けるものね。今日お父様が帰ってきたら、早速相談してみよう。


食事を済ませた後、魔術について書かれている本を読む事にした。今日は天気もいいし、中庭で読もう。


本を持って中庭に向かったのだが、なぜか玄関の方が騒がしい。なにかしら?そう思いながら、玄関へと向かう。そこにはなんとサミュエル様の姿が…一体何をしに来たのだろう!


「頼む、10分、いや5分でいいんだ。クレアと話をさせてくれ!」


「今更クレアに何を話すとおっしゃるのです!散々クレアを傷つけただけでなく、あんなひどい仕打ちをしておいて!少しでもクレアに悪いと思うなら、今すぐ王女様にお願いして、クレアの魔物討伐参加を取り消してもらってください!」


「その件も今王女に頼んでいるところだ!とにかくクレアに会わせてくれ!」


お母様とサミュエル様が言い合いをしているのを、しばらく眺めていると


「クレア、ああ、僕のクレア!」


ヤバイ、見つかってしまった!急いで部屋に戻ろうとしたのだが、サミュエル様に捕まってしまった。


「クレア、本当に今回の事はすまなかった!確かに王女とは色々とあったが…でも、これだけは信じて欲しい!僕が愛しているのは、クレアだけなんだ!とにかく今回の件は、必ず何とかする。君の魔物討伐の件も、無くすようにするから。僕を信じて待っていて欲しい!」


この男は一体何を言っているのだろう。開いた口が塞がらない。


「何を勝手な事を!とにかく、娘はもうあなたの婚約者ではないのです!帰って下さい!あなたのせいで、娘の人生は滅茶苦茶になったのです!二度と娘の前に現れないで!何をボーとつっ立っているの?この男をつまみ出しなさい」


お母様の指示で、護衛騎士たちに連行されていくサミュエル様。


「クレア!僕が愛しているのは君だけだ!信じて欲しい!クレア!!」


叫び声と共に退場していったサミュエル様。


「お母様、男の人の“愛している”と言う言葉ほど当てにならないものはありませんね。今回その事だけは学べて良かったです」


「…そうね。でも、全ての男性に当てはまる訳ではないから、その事は覚えておいた方がいいわよ」


そうかしら?少なくとも、私はもう男性を信じる事なんて出来ない。


気を取り直して、中庭で魔術に関する本を読む。何々、攻撃魔法は攻撃したい相手に向かって手をかざし、魔力を集中させ、攻撃方法を叫べばいい。なるほど。


よし、早速やってみるか。


手に魔力を集中させて

「炎」

そう叫んだ瞬間、手から一気に炎が出た。そして…近くにあった木が炎に包まれた。しまった!ここは中庭だった。


再び魔力を集中させ、燃え盛る木に向かて

「水!」

と叫んだ。


すると今度は水が出て来た。何とか火は消えたが、木が真っ黒こげだ。チラッと側に控えていたマレアを見ると、苦笑いしている。でも、攻撃魔法を使えたわ。これなら、魔物討伐部隊に行っても生き残れるかも!


他にも治癒魔法や防御魔法についても勉強した。基本的に手に魔力を込めて念じればいいのね。なんだ、簡単じゃない!


自信もついたし、きっと何とかなるわね。そう思いながら屋敷に戻ると、既にお父様が帰って来ていた。なぜか、物凄い暗い顔をしている。


「お父様、お帰りなさい。どうしたの?そんな暗い顔をして」


「クレア、実は今日、王女に呼び出されてね。これが魔物討伐の任命書だ。明日には早速魔物討伐部隊に合流して欲しいとの事だ」


何ですって!明日ですって!


「お父様、随分急ですね…」


「ああ、多分王女は一刻も早くお前を追い払いたいのだろう…ダメ元で陛下に直談判しようと思ったのだが、生憎陛下も王太子も他国に視察に行っていて、後1ヶ月は帰ってこないとの事だ。」


そう言うと俯いてしまったお父様。


「分かりました、明日ですね。大丈夫ですわ、お父様。今日魔術に関する本も読みましたし、実際使ってみたら上手く出来たので。そうそう、そのせいで中庭の木を1本丸焦げにしてしまいましたが、それは許してくださいね」


「木を丸焦げに?」


何を言っているのかさっぱり分からないと言った顔のお父様。


「クレア、今ならまだ間に合う。討伐に行くのが嫌なら嫌と言ってくれて構わないのだよ!」


私の腕を掴むと、真剣な表情でそう言ったお父様。


「お父様、私はもう決めたのです!必ず生きて帰って来ますから、安心してください!」


お父様の目を見てはっきりそう伝えた。


「わかったよ。それじゃあ、今日がクレアと過ごす最後の日になるかもしれないから、クレアの好きな物を沢山作らせよう」


そう言って厨房へと向かったお父様。今、最後の日と言ったわよね?私が帰ってこない事前提で話をしていない?若干腑に落ちない点はあるが、まあ気にしない事にしよう。


そうだわ!しばらく料理も作れなくなるのだもの。せっかくなら、最後に料理人たちと一緒にお料理を作らせてもらおう。


そう思い、早速厨房へと向かった。


「皆、今日は私も一緒にお料理を作っても良いかしら?」


「もちろんですよ、お嬢様。一緒に作りましょう。それにしても、どうしても討伐に行かないといけないのでしょうか?」


そう言って涙ぐむ料理人たち。彼らには料理の事で随分とお世話になった。そんな彼らを路頭に迷わせる訳にはいかない!


「ありがとう、皆。でも、もう決めた事だから。さあ、早速料理を作りましょう!」


もしかしたら、料理を作るのも最後になるかもしれない。そう思ったら、いつも以上に丁寧に仕上げて行く。美味しくなれ、美味しくなれと念じながら。


「よし、これで完成ね!早速食堂に運びましょう」


出来立ての料理たちを、食堂へと運ぶ。


「ねえ、せっかくだから、今日は使用人たちも一緒に食べましょう。私のお別れパーティーという事で」


「クレア、そんな寂しい事を言わないで。でも、あなたが皆で食べたいと言うなら、そうしましょう」


私の提案で、皆で食事をする事にした。私の大切な家族たち、この人たちは何が何でも私が守りたい。その為に、魔物討伐に行くんだ!そう思ったらやる気が出て来た。


どこまで出来るか分からないけれど、やれるだけの事はやろう。


両親や兄、使用人たちの姿を見て、そう決意したクレアであった。

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