第26話:とにかく王都に戻りましょう!
サミュエル様の言っている事が分からず、固まってしまった。でも次の瞬間、ウィリアム様が私たちを引き離し、すかさず自分の腕の中に私を閉じ込めた。
「お前がクレアを討伐部隊に送り込む原因を作った、浮気男のサミュエル殿か。それで、今更こんな所まで何しに来たんだい?そうそう、クレアは俺と結婚する事になったんだ。気安く触るのは止めてくれるかい?」
「あなたは騎士団長の、ウィリアム・バーレッジ公爵令息ですね。なるほど、クレアは伯爵令嬢だ。あなたに迫られたら断れないだろう。そもそも、あなたの噂は聞いている。物凄く厳しく、何人もの騎士たちを追い返したと!クレアの髪もあなたが切ったのだろう!」
あまりの言いがかりに、他の騎士団員たちも顔をしかめている。
「お前、さっきから聞いていれば好き勝手言いやがって!」
サミュエル様に殴り掛かろうとするハルを制止するウィリアム様。さすがに私も腹が立ってきた。
「サミュエル様、何を勘違いしているのかは知りませんが、まず私とあなた様は、既に婚約を破棄しております。それから、髪はここに来てすぐに自分で切りました。そして何より、私はウィリアム様を心からお慕いしております。どうか、ウィリアム様を悪く言うのはお止めください!」
サミュエル様にはっきりそう告げた。とにかく、もうサミュエル様には関わりたくはないのが本音だ。
「クレア、まだ僕の事を怒っているんだね。それはそうだろう。僕があんな王女に嵌められなければ、君をこんなにも傷つける事はなかったのだからね。でも、これだけは信じて欲しい!僕が愛しているのは君だけだ。君のご両親を説得して、もう一度君と結婚できるよう手配するから、安心して欲しい!」
サミュエル様ったら、頭がおかしくなってしまったのかしら?それとも、人の話が聞けなくなったのかしら?全く話が通じないわ。
「ここで揉めていても仕方がない。とにかく、一度王都に帰ろう。早く出発しないと、夜までに着けなくなるからね」
そう言いだしたのは副騎士団長だ。確かに副騎士団長の言う通り、ここで意味もない言い合いをしていても仕方ない。
「そうだな、それじゃあ出発するぞ!ほら、クレア。おいで」
ウィリアム様の馬にまたがろうとした時だった。
「待て、クレアを馬に乗せて帰るのか?それは可哀そうだ!僕の馬車に一緒に乗ればいい。ほら、クレア、おいで」
「サミュエル様、行きも馬で来ましたので大丈夫ですわ」
そう言って、ウィリアム様の馬にまたがった。
「それじゃあ行くぞ」
ウィリアム様の掛け声で、一斉に走り出した。
「待って、僕も帰るよ!」
後ろでサミュエル様の声が聞こえるが、放っておこう。
「ウィリアム様、サミュエル様が申し訳ございません。なぜここまで来たのか、正直私にはさっぱりわかりません!でも、これだけは信じてください。婚約は破棄されていますので」
「ああ、知っているよ!クレアに何があったのかも、全部知っている。それにしても、あれほどまでにクレアを傷つけておいて、よくのうのうと姿を現せたな…」
ウィリアム様の言う通りだ。誰のせいで討伐部隊に参加する事になったと思っているのかしら。そもそも、サミュエル様が王女に手を出さなければ、こんな事にはならなかったのに…
「クレア、大丈夫だ。俺がお前を守ってやるから安心しろ!あの男の事も、俺がきちんと処理するから」
馬を走らせながらも、後ろからギューッと抱きしめてくれるウィリアム様。
「ありがとうございます。でも自分の事なので、自分で解決したいと思っています。きちんとサミュエル様とは話をしますから!」
「分かった。でも、2人きりにするのは心配だ!俺もその際は立ち会おう」
「ありがとうございます!そうして頂けると、とても心強いですわ!」
ウィリアム様が付き添ってくれるなら心強い。とにかく、何とかサミュエル様を説得しないと!
その後も何度か休憩を挟みながら進む。休憩のたびに、なぜか一緒に行動しているサミュエル様が絡んでくるのが若干うざい。
今も皆で昼食を食べているのだが…
「その特製肉入のサンドウィッチ、僕が好きだった料理だよね!それにしても、クレアの料理は相変わらず美味しいな。侯爵家に戻ったら、またいつでもクレアの料理が食べられると思うと、嬉しくてたまらないよ」
なぜか私のお弁当を横取りしたサミュエル様が、そう言って嬉しそうに頬張っている。サミュエル様って、こんな人だったかしら?今日のサミュエル様は、どう見ても私の知っているサミュエル様ではない。
「クレア、弁当を取られたんだな。ほら、俺のをやるよ」
「俺のも」
「僕のも」
そう言って少しずつ譲ってくれる仲間達。
「皆、ありがとう」
何だかんだでたくさん集まったので、お腹いっぱいになった。食後は再び馬により、王都を目指す。それにしても、やっぱり遠いのね。随分と走っているけれど、中々王都が見えてこない。
「クレア、疲れたかい?辛いなら俺に体を預けてくれてもいいんだよ」
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて」
ウィリアム様に寄りかかる。確かにこうすると少し楽だ。さらに休憩を挟みつつ、やっと王都が見えて来た。夜になっていたにもかかわらず、沢山の民が外に出てきてくれていた。
民たちに出迎えられながら、向かった場所は王宮だ。どうやら一度王宮に向かい、そこから各人家に帰る様だ。王宮前にも、沢山の人が集まっていた。ふと王宮の門の内側を見ると、お父様とお母様、お兄様の姿もある。
隣には、この世の者とは思えない程美しい女性。その女性の横には、これまた美しい男性が3人立っていた。奥には陛下や王妃様、王太子殿下の姿もある。
あぁ、やっと王都に戻って来たんだわ!そう思ったら、胸が高鳴る。皆の歓声を一心に受けながら、王都に帰って来た喜びをかみしめるクレアであった。




