第22話:必ずクレアを迎えに行く~サミュエル視点~
侯爵家の嫡男として産まれた僕は、小さい頃から女性たちに人気が高かった。さらに、勉学や魔力量にも優れていた為、周りからはチヤホヤされて育った。でも心のどこかで、何もかも無関心と言うか、興味が無いと言うか。そう、僕は何事にも冷めた人間だった。
もちろん、女性なんて興味が無い。特に可愛いと思わないし、正直皆ジャガイモに見えるくらい興味が無かった。そんな僕に転機がおとずれたのは12歳の時だ。両親に連れられ、面倒なお茶会に参加した時の事だった。
そこにいた1人の少女に僕は釘付けになった。美しい金色の髪を腰まで伸ばし、真っ青な瞳をした女の子。髪には大きなリボンを付けていた。嬉しそうにケーキを頬張っているその姿は、まさに天使だ。こんなにも可愛い女の子がこの世に存在するなんて!
すぐに彼女に駆け寄り、名前を確認した。彼女はマケット伯爵家のクレアだった。すぐに父上に頼んで、クレアと婚約出来る様伯爵に話を付けてもらった。
侯爵家でもある我が家からの申し出だ、断る事など出来ないだろう。もちろん、僕も必死に伯爵にいかにクレアを好きか熱弁した。父上や母上からは
「何事にも無関心なサミュエルが、こんなにも真剣になるなんて」
そう言って喜んでいた。
無事クレアと婚約を結んでからは、本当に幸せな日々だった。時間があれば、クレアと一緒に過ごした。クレアも僕を慕ってくれているのが分かり、まさに幸せの絶頂だった。貴族学院を卒業したらすぐに結婚できるよう、手配も整えた。
我が家も改装して、クレアをいつでも迎え入れられる準備も整えた。そして、貴族学院卒業まで後1ヶ月に迫ったある日、あの女と出会ってしまったのだ。
そう、第三王女のエミリア王女だ。友人と一緒に食事に行った時、彼女と出会った。どうやら、友人が連れて来た様だ。エミリア王女は、色々な男と関係を持っていると噂されている女性だ。
「サミュエル、お前、もうすぐ婚約者と結婚するんだろう?夜の方、上手くできるか心配していただろう!だから、エミリア王女を紹介してやろうと思ってな。王女は色々な男と経験があるから、経験を積むにはうってつけだと思って」
そう言って僕にエミリア王女を紹介してきた。
「大丈夫だ、王女は別に好きな奴がいるらしいから、あと腐れなく経験できるぞ。俺も先月経験させてもらったんだ」
そう言った友人。
「あなたがサミュエル。へ~、ウィリアム程ではないけれど、いい男ね。いいわ、教えてあげる。大丈夫よ。絶対に婚約者にはバレないから」
そう言ってにっこり笑ったエミリア王女。その言葉を信じた僕がバカだった。確かにエミリア王女は随分慣れている様だった。でも、はっきり言ってクレア以外の女をクレアを抱く前に抱いてしまうなんて…正直虚しさしかなかった。
たとえ愛情が無かったとしても、こんなにも簡単にクレアを裏切ってしまうなんて。
それに、もしクレアに話したら、きっと僕の側から去っていくだろう。そう思ったら、とにかく隠し通すしかない!
二度とエミリア王女に会うのは止めよう。そう思っていたのだが、なぜかその後も僕を呼び出すエミリア王女。
「私、あなたの事気に入っちゃった!ねえ、婚約者にバラされたくないなら、今日も抱いて!」
そう脅されては、抱かない訳には行かない。正直、苦痛でしかなかった。とにかくクレアと結婚さえすれば、この女から解放される。早くクレアを抱きたい!その一心で耐えた。
そして、クレアとの結婚を1週間後に迫ったある日。あの女が僕の家に乗り込んできたのだ。
「私とサミュエルは愛し合っているの!だから今すぐ婚約破棄をして、私との結婚の準備を進めて!」
そう両親に言い放ったのだ。一体この女は何を言っているんだ!何を思ったのか、父上が伯爵とクレアを呼び出した。
そして、家の両親を交え、6人で話し合いだ。その場で、なんとあの女は
「サミュエルは私と結婚する事になったの。悪いけれど婚約を解消してもらうわ!そうそう、結婚間近で婚約破棄だなんて、あなたも恥ずかしくて社交界に出られないでしょう?あなた、魔力がまあまあ強い様ね。だから、魔物討伐部隊に参加する事を命じます!」
そんなふざけた事を言いだしたんだ!そして、そのまま伯爵とクレアを追い返しやがった。
「どういうつもりですか、王女。僕はクレアを愛している!それなのにこんな仕打ち!とにかく、今直ぐ婚約解消も、魔物討伐部隊参加も取り消してください!」
「嫌よ、そんなの!そうね、あなたが私と結婚してくれるのなら、討伐部隊参加だけは取り消してあげるわ!」
そう言い放った王女。なんて女なんだ!こんな女、死んでも御免だ。でも…
クレアを守る為には、結婚するしかないのか…
翌日
クレアに会いたくて、伯爵家を訪ねた。でも、夫人が鬼の形相で僕を追い払おうとする。何とかクレアに会いたくて、必死に夫人に訴えた。その時だった。奥でこちらを見ているクレアの姿が目に入った。
僕と目が合った瞬間、急いでどこかに行こうとするクレアを捕まえ、腕の中に閉じ込めた。クレアの温もり、この温もりを絶対に失いたくない!
クレアに”愛しているのは君だけだ、僕を信じて待っていて欲しい”そう伝えた。とにかく何とかしないと!
明日もう一度王女に会って説得しよう。そう思い、翌日王女に会いに行った。
「あの女なら今朝、討伐部隊に行く様に命じたわ!これで邪魔者はいなくなったわね!」
そう言ってにっこり笑ったのだ。体中から怒りが込み上げるが、何も出来ない。
「悪いが君と結婚するぐらいなら、平民にでもなった方がましだ。二度の僕の前に姿を現さないでくれ」
そう言い残し、王女の前を去った。後ろでギャーギャー言っていたが、もうどうでもいい。侯爵家に帰ると、早速父上を呼び出した。
「今回の件、申し訳ありませんでした」
まず父上に頭を下げた。
「別に謝らなくてもいい。それで、お前はこれからどうするつもりなんだ」
「僕はクレアを助けるために動きます。死んでもあんな王女と結婚するのはごめんです。もしかすると、侯爵家に迷惑が掛かってしまうかもしれません。ですので、どうか僕を勘当してください!」
そう、僕は陛下と王太子殿下に今回の件を、直談判するつもりなのだ。
「サミュエル、お前の気持ちは分かった。でも、勘当はしない。それに、今陛下と王太子殿下は外交に行っていて留守だ。帰ってきたら、家からも正式に抗議をしよう。さっき、お前に王女を紹介した友人がやって来て謝られたよ。それで、今までの王女の悪事の数々の証拠を私に渡して来た。これがあれば、お前と王女が愛し合っていなかった証拠にもなるだろうって」
あいつ、わざわざ僕の為に…
「とにかく、陛下と王太子殿下が帰ってくるまで、様子を見るしかなさそうだ」
それまで、クレアはあの過酷の環境で暮らさないといけないのか。必ず陛下と王太子殿下を説得して迎えに行くから、どうかそれまで無事でいてくれ!クレア。




