第2話:魔物討伐部隊に参加する事を決めました
「お言葉ですがエミリア王女。クレアは確かに魔力はありますが、魔物と戦えるだけの力は持ち合わせておりません。そんな部隊に入れられては、すぐに命を落としてしまいます!」
お父様の言う通りだ。私はずっと令嬢として生きて来た。魔力は確かに持っているが、他の貴族と同じくらいしか無い。さらに、攻撃魔法も治癒魔法も使ったことが無い。どう考えても、死にに行くようなものだ。
「これは王女命令です!もし逆らうなら、それ相応の対応を取らせて頂きますから、そのつもりで!さあ、もうあなた達に用はないわ。さっさと帰って!」
そう言って侯爵家からつまみ出されてしまった。仕方なく帰るしかない。
「いくら何でも、こんな横暴な話はない!これではクレアが可哀そうすぎる。それにしても、まさかサミュエル殿があんな男だったなんて…すまない、クレア。私に力がないばかりに、お前をこんな目に合わせてしまった」
そう言って涙を流すお父様。
「お父様のせいではないわ!私の見る目が無かったのよ。それに、王女命令ならどうしようもないもの」
これは事実上の死刑宣告だ。でも、もし王女様の命令に逆らえば、最悪国家反逆罪で家族全員殺されるかもしれない。そう考えたら、答えはもう出ている。
重苦しい空気の中、伯爵家に着いた。
「お父様、着きましたよ。さあ降りましょう」
馬車の中から動こうとしないお父様の腕を引っ張り、何とか降ろし、屋敷に入る。そんな私たちの姿を見て、お母様が駆け寄って来た。近くにはお兄様もいる。
「あなた、一体どうしたの?侯爵様に呼び出されたのよね。一体何があったの?」
心配そうなお母様。真っ青な顔をし、目を真っ赤にしているお父様を見たら、そりゃ誰でも心配するだろう。
「お母様、お兄様もちょっとよろしいでしょうか。大事な話があります」
早速家族で居間へと向かった。そして、さっき起こった出来事を2人に話した。
ドン
「一体どういう事だ!そもそも、サミュエル殿がどうしてもクレアと結婚したいと言うから、婚約を承諾したのではなかったのか!それなのに、まさか王女と浮気をするなんて!」
机を叩いて怒るお兄様。最もな意見である。
「その上、魔物討伐部隊にクレアを…そんなところに行かせたら、クレアは生きられないわ!なんて恐ろしい事を。さすがにこれは容認できないわ!あなた、陛下に抗議しましょう!」
「そうだな、それで伯爵家が潰されるのなら、それはそれで本望だ。娘を犠牲にしてまで、貴族にこだわる必要はない。だが、そうなると…」
お兄様の方を見たお父様。そう、伯爵家はお兄様が継ぐことになっている。きっとお父様は、お兄様の事を心配しているのだろう。
「父上、俺はクレアを犠牲にしてまで、伯爵になんてなりたくはない!別に平民になったからと言って、生きて行けない訳ではないんだ!いっその事、財産を持って隣国に亡命してもいいんだ!」
そう言い切ったお兄様。あぁ、私はなんて家族に恵まれているのかしら。婚約者には裏切られてしまったけれど、私には自分たちを犠牲にしてまで、私を守ろうとしてくれる家族がいる。
そんな家族を、私は守りたい!
「お父様、お母様、お兄様。私の事を考えて下さり、ありがとうございます。でも、私は陛下にたてついてまで、生きながらえようとは思いません。私、魔物討伐部隊に参加しますわ!」
「クレア、それは認められない。そんな事をすればお前は…」
「大丈夫ですわ。確かに私は伯爵令嬢として今まで生きて来ました。でも、王女様が言った通り魔力もありますし、体力もある方です。何とかなるでしょう!私はもう決めたのです!」
「クレア…」
お父様とお母様が泣き出してしまった。お兄様も悔しそうに唇を噛んでいる。
「私の為に泣かないで下さい!私は大丈夫です。絶対に生きて帰ってきます。だから、この家で私を待っていてくれますか?」
「もちろんだよ!お前が元気に帰って来てくれる事だけを、私達は願っているからね」
そう言って泣きながら抱きしめてくれた両親。私の瞳からも、どうやら涙が流れていた様だ。
家族で話し合った後は、1人自室に戻り、湯あみを済ませベッドに潜り込んだ。魔物討伐に行ったら、きっとこんなフワフワなベッドでは眠れなくなるのね。せめて、討伐に行く前にある程度の魔法は覚えておかないと。
それにしても、まさかサミュエル様とエミリア王女が恋仲だったなんて…魔物討伐もショックだが、何よりサミュエル様に裏切られていた事が、一番ショックだ。あんなにも大切にしてくれていたのに、あれは全部嘘だったのかしら?
そう思ったら、涙がとめどなく流れる。
「うっ…ううぅ…」
どうして私はサミュエル様が浮気している事に気が付かなかったのだろう。気が付いていれば、もっと傷が浅いうちにお別れできたかもしれないのに…
もう家族以外誰を信じていいのか分からない…昨日まで幸せの絶頂にいたのに、どうしてこんな事になってしまったのかしら?
そう考えたら、さらに涙が溢れる。ふとベッドから起き上がり、今までサミュエル様から貰った思い出の品を、机の上へと並べた。
これは13歳の時の誕生日プレゼントで貰ったネックレス。これは14歳の誕生日。1つづつ、箱に詰めて行く。楽しかった思い出が一気に思い起こされ、さらに涙が溢れ出す。最後の1つを、箱に詰め終わった。
そうだわ、これもあったのよね。
首に掛かっているネックレスに触れた。これは12歳の時、サミュエル様との婚約が決まった時に贈られたものだ。
“僕と婚約してくれてありがとう。これは婚約記念だよ。僕の瞳の色の宝石が付いているんだ。僕の方は、クレアの瞳の色でもあるサファイアの宝石が付いているんだよ。これは僕達の婚約の証。ずっと身につけていてね”
そう言って貰ったもの。これももう必要ないものね。そっとネックレスを外し、箱の中に入れた。そして、クローゼットの奥にしまった。サミュエル様に送り返してもいいが、きっと迷惑だろうから、近いうちに処分しよう。
なんだかサミュエル様との思い出の品を全て片付けたら、少しだけ気持ちがスッキリした。再びベッドに入り、眠りに付いたのであった。