第18話:クレアは伝説の騎士だったようだ~ウィリアム視点~
少し話が遡ります。
すっかり熱も下がり、元気になったクレア。クレアが元気になり、討伐部隊に戻ったその日、俺宛に手紙が届いた。母上からだ。どうせ早く帰って来いという内容なのだろう!
そう思いつつ、手紙を開いた。そこには、“クレア嬢を守ってあげて!それから、もう1通の手紙は、彼女の両親からです。必ずクレア嬢に渡すように!”そう書かれていた。一体どういう事なのだろう。
疑問に思いつつ、クレアに手紙を渡した。一瞬動揺するクレア、手が震えていた。一体その手紙には、なんと書かれているのだろう。気になって、クレアのテントの前をウロウロする。すると、クレアが出て来た。
クレアについて行くと、川の方へとやって来た。そして、座り込み空を見上げている。
声を掛けようか、そう思った時だった。ジークがやって来たのだ。ジークに自分の過去を話すクレア。その内容は、はっきり言って胸糞悪い物だった。婚約者に裏切られただけでなく、家族という人質を取り、無理やり討伐に行かせるなんて!
婚約者もクズだが、何よりエミリア!あいつだけは絶対に許さない!こんなにも怒りを覚えたのは初めてだ!
ふと2人の方を見ると、ジークも同じように怒っていた。そりゃそうだろう!あまりにも、クレアが可哀そうすぎる。そんなジークに、クレアは泣きながら自分の気持ちをぶつけていた。
その姿を見て、胸が締め付けられた。そう、クレアが頼ったのは俺ではなく、ジークだったのだ。そう思うと、胸が苦しい。ただ、クレアはジークの事を“お兄様みたい”そう言っていたから、兄妹みたいな感じなんだろう。
とにかく、今はクレアを見守ろう。彼女が傷つかない様に、しっかりと!それが、今の俺が出来る唯一の事だから!
その日以降、今まで以上にクレアを気に掛ける様になった。とにかく彼女が心配で、極力側にいる様にした。クレアも俺になれて来たのか、俺が側にいても怯えなくなった。
そんなある日、デビッドと森の見回りに行った時の事だった。
「ウィリアム、あれを見ろ!」
デビッドが指さした先には、大きな洞窟があった。やっと見つけた!間違いない、ジャイアントスネークの巣だ!実はこのジャイアントスネーク、魔物界のトップに君臨しており、このジャイアントスネークから魔物が生産されているのだ。
そしてこのジャイアントスネークは、常に番で生活しており、オスが巣を守り、メスが魔物を生み出す。そう、このジャイアントスネークを倒せば、もうあえて魔物を討伐する必要も無くなる。こいつらを倒せば、クレアを家族の元に帰してやれるのだ。
「ウィリアム、早速明日にでもジャイアントスネーク討伐に向かおう」
「ああ、分かっている。ただ、あいつは凶悪で有名だ。下手をすると、全滅するかもしれない。とにかく、志願者を募ろう」
出来ればクレアを参加させたくはない。それくらい危険な戦いだからだ。だからこそ、志願者のみにした。
「ウィリアム、うちの隊にそんな腰抜けはいないよ。きっと全員が志願するだろう」
「確かにそうかもしれないが…」
「あぁ、クレアを連れて行きたくないと言いたいのだろう。でも、彼女は付いて来ると思うよ。諦めろ!ウィリアム」
デビッドの言った通り、志願者を募った時、真っ先に手を挙げたクレア。もちろん、他の隊員も全員手を挙げた。とにかく、クレアだけは俺が守ろう!たとえ命に代えても。
もちろん、好意を抱いているというのもあるが、何より今まで誰よりも辛く悲しい思いをして来た彼女には、今後の人生で幸せを掴んで欲しい。そう強く思っている。出来ればその相手が俺なら嬉しいが、無理強いをするつもりはない。
ただ、王都に帰った後、クレアが辛い思いをしない様に、公爵令息として全力で守るつもりだ。
正直身分なんていらないと思っていたが、まさか公爵令息として産まれた事に感謝する時が来るなんてな。
でも、まだ気が早いか。とにかく、何が何でもジャイアントスネークを倒さないと!
「ウィリアム、ジャイアントスネーク討伐に関する作戦だが、まず僕とジーク、ハルが馬でオスをおびき寄せるから、出て来たところを皆で一斉に攻撃をしよう」
「ああ、分かった。でも、そんな危険な仕事は、団長の俺の仕事だ!俺が行く!」
「いいや、僕達が行くよ。おびき寄せるだけだ。心配は要らない」
「わかった、とにかく今日はオスだけを狙おう。どれくらい強いのかは未知数だが、さすがに2匹同時には倒せないだろう」
「そうだな、でも、ジャイアントスネークの場合、オスを倒しても、メスが生きている限り1ヶ月もすればまた新しいジャイアントスネークが誕生すると聞く。オスを倒した後、1ヶ月以内にメスも倒さないと意味がない」
「分かっている!とにかく、今日はオスを倒す事に全力を尽くそう」
早速ジャイアントスネークの巣がある場所へと馬で向かう。もちろん、クレアは俺の馬に一緒に乗っている。久しぶりに感じるクレアの温もり。この温もりを離したくない。そんな思いが込み上げる。
ダメだ!今はジャイアントスネークを倒す事に集中しないと!高鳴る鼓動を抑え、何とか目的地に着いた。とにかくクレアには、俺から離れない様に伝えた。
そして作戦通り、デビッドたちがジャイアントスネークをおびき寄せた。姿を現したジャイアントスネーク、正直、その大きさに圧倒される。他の奴らも、かなり驚いて固まっている。
「皆、攻撃魔法を掛けろ!」
俺の掛け声で一斉に攻撃魔法を掛けるが、全く効いていない様だ。そうだ、確かジャイアントスネークは凍らせて倒すのだった。
早速指示を出す。もちろん、ジャイアントスネークも黙っていない。口から毒を出して攻撃してくる。
とにかく凍らせるしかない。俺の掛け声に合わせ、皆で一斉に氷魔法を掛けた。どれくらいかけ続けただろうか。何とかジャイアントスネークを凍らせることが出来た。
周りを見渡すと、皆魔力を使い果たし、倒れこんでいる者も多い。メスはまた今度にしよう。ただ、オスもこのまま凍らしておく訳には行かない。明日、止めを刺しにこよう。
一旦テントに戻る様に指示を出し、皆で馬が繋いである場所に向かおうとした時だった。氷が割れるような音がしたのと同時に、ジークの悲鳴が聞こえた。
急いで後ろを向くと、氷を砕いたジャイアントスネークの側に、ジークが倒れていた。しまった!まだ完全に凍っていなかったのだ!でも、もう魔力もほとんど残っていない。
その時だった、クレアがジークの側へと駆け寄って行ったのだ!
「デビッド、今すぐ皆を連れて逃げろ!このままでは全滅する!」
急いでデビッドに指示を出し、クレアの元へと向かう。次の瞬間、ジャイアントスネークがクレアたちに向かって、尻尾を振り攻撃しようとしたのだ。ダメだ!間に合わない!
その時だった。すっと立ち上がり、ジークを守る様に手を大きく広げたクレアから、物凄い魔力と共に光が放出されたのだ。
正直、眩しすぎて目を開けていられない。
それと同時に、ジャイアントスネークが苦しそうに唸り声をあげる。しばらくすると、光が落ち着いた。
「クレア!」
急いでクレアの元に駆け付ける。クレアを抱き起し、呼吸を確認する。どうやら、気を失っているだけの様だ。
「おい、大丈夫か?」
デビッドと隊員もこちらに走って来た。ふと周りを見ると、ジャイアントスネークが横たわっているのが目に付いた。どうやらクレアが倒した様だ。
「ジャイアントスネークは、クレアが倒した様だ!とにかくジークを!」
俺の言葉で、ジークに駆け寄るデビッド。
「ウィリアム、何とか生きている。ただ、怪我が酷い。魔力が残っている奴は、治癒魔法を!」
そう言って、皆がジークに治癒魔法を掛けるが、やはり意識は戻らない。急いでジークをテントに運ぶよう指示を出した。多分一命を取り留めても、ジークはもう戦えないだろう。
「ウィリアム、さっきの光は…」
「クレアが放ったものだ」
「という事は、クレアは伝説の騎士なのか?」
「その様だな…」
伝説の騎士…
100年に1回程度のペースで産まれると言われる伝説の騎士。その魔力は絶大で、主に光の力でどんな魔物もやっつけると言われている。
まさかクレアが…
「とにかく、テントに戻ろう」
デビッドに促され、クレアを抱きかかえると一旦テントへと戻ったのであった。