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第15話:ジークに過去の出来事を話しました

しばらく星空を見つめていると、少しだけ気持ちが落ち着いて来た。


その時だった。

「クレア、こんなところで何をしているんだ?」


話しかけてきたのはジークだ。


「ジークこそどうしたの?」


「俺か?俺は水浴びに来たんだ!」


そう得意そうに話すジーク。そしてなぜか服を脱ぎだした。


「ちょっとジーク、急に脱がないでよ」


「大丈夫だよ、ズボンを履いているから」


そう言って上半身裸のまま、川に入って行くジーク。


「冷たくないの?」


さっき触ったが、結構冷たかった。


「これくらい冷たいのがいいんだよ。それに夜は誰もいないからな。ゆっくり水浴びが出来る」


そう言って気持ちよさそうに水浴びをしているジーク。それにしても、ジークの腹筋は凄いわね。あんなに奇麗に割れているなんて。て、私ってば何を見ているのかしら。サミュエル様の裸ですら見た事が無いのに。


急に恥ずかしくなってきて、急いで下を向いた。きっと顔は真っ赤だろう。


「なんだクレア、俺の裸を見て赤くなっているのか?ハハハハハハ、やっぱりお前も女なんだな。あまりにも普通にこの隊に馴染んでいるから、つい女という事を忘れてしまうよ」


そう言って笑うジーク。こいつ、なんて失礼な奴なのかしら!でも、ジークのこういう気を使わないところ、結構好きなのよね。


しばらく水浴びをしていたジークが川から上がって来て、私の横に座った。チラッとジークの方を見ると、しっかり服を着ている。


「それで、お前は一体こんなところで何をしていたんだよ。そう言えば、両親から手紙が来ていたと言っていたな、なんかあったのか?まあ、言いたくないなら別に言わなくてもいいけどな」


どうやら私の事を心配してくれている様だ。ジークなら、なぜ私がここに来たのか話しても大丈夫かもしれない。


「ねえジーク、ここに来たばかりの時、私に“何でここに来たんだ?”そう言ったわよね。私ね、実は伯爵令嬢で、ここに来る1週間後には婚約者と結婚する事になっていたの」


「え…それはどういう事だ?」


訳が分からないと言った顔のジーク。


「でもね、その婚約者はエミリア王女と恋仲で、無理やり婚約破棄をさせられた上、討伐部隊に参加する様命じられたわ」


「なんだよそれ!ふざけるなよ!そんなの、あんまりじゃないか!それで、お前の親はなんていったんだよ!」


「家の両親もね。物凄く怒って、娘を魔物に殺されるくらいなら、伯爵なんか捨てるから、陛下に抗議しよう!そう言ってくれたわ。お兄様なんて、この国を出て隣国に亡命しようなんて言い出したの。でもね、家族が私を大切にしてくれる様に、私も家族や使用人が大切なの。伯爵家が無くなれば、家族はもちろん、使用人も路頭に迷うわ。そんな事はさすがにさせられないでしょう。だから、ここに来たの」


気が付いたら、頬から涙が伝っていた。そんな私の頭を優しく撫でるジーク。


「お前、随分大きなものを背負ってここに来たんだな。それであんなに頑張っていたのか。偉かったな、クレア」


「ジーク…」


今までため込んでいた感情が、一気に溢れ出した。次から次へと流れる涙を、止める事が出来ない。


「私ね、今までただがむしゃらに頑張って来たの。でも今日両親からの手紙を見たら、つい両親や元婚約者の事を思い出しちゃって…」


「もし、あんな事が無かったら、今頃は幸せに暮らしていたのかなっとか、そんな事ばかり考えてしまう自分が、物凄く嫌なの!“もし”なんてことは、決して起こらないのに!今まで必死に前だけを向いてきたはずなのに。もう泣かないって決めたのに、涙が止まらないの」


自分の思いをジークにぶつける。黙って聞いてくれるジーク。


「クレア、俺は過去の事を思い出す事は悪い事ではないと思うよ。俺だって、あの頃こうだったらって考える事もあるし。それに、泣く事は悪い事じゃない。辛い時は泣いてもいいんだ!もし1人で泣くのが辛かったら、今日みたいに俺にぶつければいい。そうすれば、少しは気持ちも落ち着くだろう。俺は平民の子供で何もしてやれないけれど、話しぐらいなら聞けるし」


そう言って笑ったジーク。


「ありがとう、ジークを見ていると、お兄様を思い出すわ」


「クレアの兄ちゃんって事は、伯爵令息だろ!そんな奴と一緒にしてもらえるのか。それは恐れ多いな」


そう言って恥ずかしそうに笑ったジーク。そんな姿を見たら、なんだか笑いが込み上げて来た。


「アハハハハ、ありがとう、ジーク。ジークのおかげで少し元気が出たわ!それに、気持ちもスッキリした。やっぱり、誰かに話しを聞いてもらうのって大切なのね」


「そうだろう、これからは辛かったら何でも話せよ。俺が聞いてやるから」


そう言って急に威張り始めたジーク。その姿を見たら、さらに笑いが込み上げて来た。


「ほら、さすがに夜も更けて来た。そろそろ戻ろう。明日の朝も朝練やるんだろう?」


「そうね、朝は私の為に皆が付き合ってくれているのだもの。私が遅刻する訳にはいかないものね」


「そうだぞ。ほら、テントまで送ってやるから、早く戻って寝ろよ」


そう言って手を差し伸べて来たジーク。温かいジークの手。本当に、ジークはお兄様みたいだ。


テントに戻り、ミノムシになる。今日、ジークに全てを話して良かったわ。なんだか、ずっと奥に溜まっていたものが全て流れ出て、スッキリした気がする。


ふと隣に置いてある手紙を再び手に取った。後半月か…もし陛下に話が行き、私の討伐が取り消しになったら、私は皆とお別れしないといけないのね。そう思ったら、なぜか胸の奥がチクリと痛んだ。


そしてなぜか騎士団長の顔が浮かぶ。ん?何でここで騎士団長の顔が浮かんだのかしら?とにかく、もう寝よう。明日も早いものね。ゆっくり目を閉じたクレアであった。

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