カザマンス紀行詩・2「奴隷船オロール号」
※強烈な詩かもしれません。一呼吸置いてからお読みください。
奴隷商人は言った
「お前らは西アフリカの動く雑草だ」と
足枷から続く鎖 その先の鉄球
まさしく重い根の生えた草
赤くただれた尻の焼き印は 53492番
敷かれた桟橋は鉄球が木目を叩く
土を踏めるのは南米か 北米か
詰め込まれた奴隷船オロール号
大波に傾けば 数千が崩れるように倒れる
起こしてくれる者などない
皆倒れている
隙間の無い空間 起こしてくれるは次の大波
船底の裸の民には
夫婦 兄弟 親 友 恋人 子供
そんな単位はもうないのだ
男も女もない
時もなければ場所すら用はない
空が青かろうが 満月だろうが
聞えるのは
奴隷蒸気船のタービン音
大音響の波の音
海に投げ捨てられた息の無い雑草の
おこぼれに ありつく鮫の群れ
次の大陸まで 追走する
破壊された感情と肉体には
涙も恨みもない
憎しみなど 到に過ぎ去った
血の流れる音だけが
自分の耳にコダマする
ただ大西洋を渡るのみ
帆には異国の旗がたなびいている事
船底の民は誰も知らない
奴隷商人は葉巻をくゆらし
星空の甲板の上に出た
「大西洋に浮かぶ月夜の奴隷船
なんと美しいことか」
※文中とは関係ございませんが。
奴隷詩人フィリス・ホイートリーをご存じですか?
1700年代西アフリカ生まれの彼女は、7歳にして北アメリカに奴隷として売られました。
ボストンのホイートリー家にメイドとして買われた彼女は、そこで文字を覚え、才能を見出されました。
日本では有名ではありませんが、世界的には著名な作家。詩人であります。
小説カザマンスをが終わったのを機に、フィリス・ホイートリーに敬意を込め、拙作ながら詩という形で投稿させて頂きました
尚、小説など関係なく単体でお読み頂けるよう執筆致しておるつもりです。
お読みくださり誠にありがとうございました。