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僕が編集者になれる日は?  作者: 松元 司
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会社再建の日

第四話 


昭和四十三年四月八日月曜日は、朝から快晴であった。最高気温も十七度で絶好のお花見日和はなみびよりと言ったところである。松宮は、前日の夕食時の折、母に本日開催の会社の記念日を説明し、帰りが遅くなることを話しておいた。松宮は何時いつもより三十分早く家を出た。

八時二十分に会社へ着くと、同期入社で同じ出版部学事課に配属となった白石松音が珍しく早く出社していた。松宮は、ロッカーに上着を掛けながら、

「白石さん、お早う。今日は随分と早い出社だね。」

「お早う。そう言う松宮君だって、早いじゃない。」

白石は、ニッコリと笑いながら席を離れた。松宮は、やはり彼女も今日という日を意識しているのだなと、緊張しているのは自分だけでないことを思いホッとした。

松宮は、先週の初出社から決めていることがあった。それは、毎週月曜日にはその週の予定と達成目標をできるだけ具体的に立てること、さらに会社から配られた卓上カレンダーと個人の事務用手帳に立てた目標を箇条書きにして二重にメモすることであった。

その松宮の卓上カレンダーと手帳には、すでに本日の予定として【六時三十分、如水会館にて会社再建十周年記念パーティー開催】としっかり書かれていた。

敬文館では、本来であれば業務終了の定時が十七時三十分のところ、十八時から如水会館での会社再建十周年記念パーティーの開催があるため、本日は十七時に業務終了となっていた。そのため、出版部も営業部も午後からの予定調整やら、著者や取引先との電話連絡などに追われていた。総務部は会場準備のため、全員が十六時三十分には居なかった。

「松宮、俺たちもそろそろ行こうよ。」

同期入社の営業部に配属された田島俊成が迎えに来た。

「ああ、ちょっと待って、あと一本電話をするから。すぐ済むよ。」

松宮にとって、田島は同期入社の中で唯一の男子であり、年齢も同じ二十二歳ということもあって、今年三月の入社説明会の日から気の置けない仲間として親しくしていた。

「それでは、チラシの校正刷は明日ということでお願いします。」

「結構忙しそうだな、意外と塚本課長は厳しいからな・・・。」

田島は、松宮の帰り支度を待つ間、タバコを吸いながら出版部の部屋を見まわしていた。

「やはり、出版部は落ち着くよな、営業の部屋は広いだけで、何かいつもせわしなくてさ、うらやましいよ。」

「まあね、だけど少し暗くないか。この部屋は編集の人たちが座っている側にしか窓がなくて、その窓も書類とかでほとんどふさがれているからな・・・。」

松宮は、手早く机の上の書類を片付けて、ロッカーから背広の上着を着た。

「お待たせ、それでは行こう。」

田島は、【うん】と短くうなずきながら吸いかけの煙草を松宮の机にあった灰皿にみ消すと、ふーと息をいて松宮の後ろから部屋を出た。

松宮と田島は、会社隣の東京堂書店入り口にあるショーウインドーの展示書籍に目をりながら、二人がランチタイムに行く黒いカレーで人気の【カレーの南海】や餃子専門店の【スヰートポーヅ】の前を過ぎて、すずらん通りを抜けた。

夕方のラッシュが始まり、業務用のトラックや乗用車が行き交う白山通はくさんどおりの横断歩道を渡り、さくら通りの入り口にある国際的なキリスト教団体である焦げ茶色の外壁が特徴の救世軍きゅうせいぐん本営から一変して近代的な建物である同業者の集英社しゅうえいしゃ、一階に日本交通公社にほんこうつうこうしゃのある小学館しょうがっかんビルを横目で見ながら、共立講堂きょうりつこうどうを過ぎたところで、白山通りの反対側の角にある旧帝国大学(国立七大学)出身の親睦と知識交流を目的とした場所で有名なお洒落しゃれな西洋風建物の学士会館がくしかいかんの斜め向かいの目的会場である如水会館が見えてきた。

学士会館に負けず劣らず、さすがに如水会館もロマネスク様式のカーブを描いた開口群かいこうぐんの正面玄関の入り口は、いつ見ても優雅で美しく、母親の影響で時代小説を読むようになっていた松宮には、ここが最後の将軍となった十五代将軍の徳川慶喜とくがわよしのぶの一橋家があった徳川由来の地であることを物語るのに相応ふさわしいとつくづく感じられた。

松宮と田島の二人は如水会館に着くと、本日の会場である【一橋クラブ】記念室・東へ向かった。松宮は、社長の熊川のように一橋大学出身者が同席であれば、このおもむきのある記念室の東西の部屋をそれぞれ定員四十人まで使用できることを聞いていた。

会場の入り口に、【敬文館再建十周年記念パーティー】と案内板が出ていた。二人が会場に入ると、総務部の岩田辰子いわたたつこ横田英美子よこやまえみこが並んで受付をしていた。昭和三十九年九月入社の岩田辰子は、いかにも大人っぽい雰囲気をかもし出し、多少悪戯たしょういたずらっぽい目をしてピンク色のリボンを二人に渡しながら、

「はい、松宮君と田島君は、本日の主賓しゅひんですからね。このリボンをけて前方のテーブルに行きなさいね。」

「有難うございます。でも、前の方は重役陣のテーブルじゃないのかな?」

 リボンを受け取りながら、松宮は多少たしょうはにかみながら先輩社員の岩田に頭を下げた。側にいた田島は、【どんまい、どんまい】と言いながら会場の中ほどに進んでいった。松宮には、すでに、ほとんどの社員が会場に集まっているように思えた。

 定刻の十八時に本日の進行役となった総務部長の林田の合図で予定通り会は進行された。社長の熊川の開会の挨拶から始まり、引き続き林田から松宮たち五人の新入社員の簡単なプロフィールが紹介され、社長の熊川から記念品として、松宮と田島の男子新入社員には【黒い樹脂に金色のデザインをほどこし、ペン先は十八金のパイロット製高級万年筆と同じデザインのシャープペンシルのセット】が渡された。女子の新入社員三名には【ワインレッドの樹脂に銀色のデザインを施し、ペン先は十八金のパイロット製高級万年筆と同じデザインのシャープペンシルのセット】がそれぞれ渡された。


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