6:野盗
屈強な男が通り過ぎて行ってから、二台馬車が通った。
どうやらこの道はあまり交通量が多くないようで、二台目に通って行った馬車の御者は「昼だけども野盗は来ないでくれ」と独りごちていた。
廃村を襲った野盗だろうか。
迷惑な奴らだ。
通って行った馬車が二台ともかなりの護衛を連れていた。
これでは気軽に襲えないじゃないか。
この道は諦めようかどうしようかと重い腰を上げようとしたところ、全速力で走ってくる馬車と叫び声と怒声が聞こえ始めた。
…少し様子でも見るか。
丁度目の前で野盗の馬が馬車の前に回り込み進路をふさいだ。
御者が慌てて馬の手綱を引く。
それは悪手ではないか?
突っ込んだほうがまだ助かる確率が高かった気がするが。
「おいっ貴様! 誰が止めろと言った! 荷の中には大事な商品がいるんだぞ! 護衛も使い物にならんしどういうことだ! お前は街に帰ったらクビだ! 早く出せ!」
「ですが! 囲まれてしまっていて!」
荷馬車の中から怒声が聞こえた。さっきから聞こえていた怒声はこいつか?
さして馬車の装飾が豪華で無いこと小隊を組んでいるわけではないということは中堅より下だがこれだけ偉そう振舞える部下がいるということは行商人というわけではないのか。
それにしても商品がいるという表現はどうなのだろうか。
生き物でも運んでいるのだろうか?
馬から降りた野盗たち五人は馬車の周りを取り囲むと御者を地面に引きずり下ろし切り捨てた。
「おいおい商人さん。御者君は死んじまったぞ。お望み通り首だけになってな!」
ハハハハ。
なかなか面白い、これがブラックジョークというやつか。
荷馬車の布地が捲られ、中から細めの体つきの男が出てきた。
「貴様らこの無礼者が! 今私はヒジリ男爵様の使いで商品を運んでいるんだぞ! 私に手を出したということは即ち男爵様に敵意を向けたも同然だ! 早くそこをどきたまえ!」
まさかこの商人男爵の使いだったのか。あまり公にしたくない商品を運んでいるから人の少ないこの道を通り、そして質素な馬車と最低限の護衛。なるほど、な。
「はいそうですか、ってどく訳にはいかないなぁ。男爵サマの荷物ならかなり上等なお宝ってことかぁ? さっさとアンタを殺して貰っていくとするよ。お前ら! やっちまえ!」
野盗の纏め役と思わしき人物が号令を出すと二人は馬車の馬を逃がし残りの二人は荷馬車に上がり商人を蹴落とした。
「おいカジ中に何が入ってる?」
纏め役が商人を踏みながら荷馬車の上にいる一人に声をかける。
「ぐは…やめろ! お前たちどうなるかは知らんぞ!」
「お前が死んだら誰が俺たちのことを知るんだよバカが! 死ね」
纏め役は商人の胸元を思いきり踏みつけ首を切り裂いた。
「ダンさん! 奴隷が一人いるだけです!」
「奴隷だぁ!? なんだよ金目のもんじゃねえのかよこの屑があぁ!」
ダンと呼ばれた纏め役は死体の頭を何度も蹴っている。
そんなに死体をけらなくてもいいだろうに…ひどい野郎だ。
それに、奴隷がいるのか。合法なのか、それとも公にしたくないということは非合法なのか。
どういう状況で奴隷になるかも調べないとな。
「でもダンさん! こいつかなりの上モノですよ!」
「ほぅ。そうか連れ出してこい」
と馬車から連れ出されてきたのは綺麗な翡翠色の髪をした女の子だった。
花は高くスッと通っていて色白だ。
典型的な白人の美少女といった容姿をしている。
地毛なのかなあの色。
地毛ならこの世界には赤とかピンクとかそういう髪の持ち主が普通にいそうだ。
目がちかちかしそう。
それにしてもあの子は少し遠めに見ても整った顔立ちをしている。
奴隷と言ってはいたが、痩せこけてはいない。
途轍もなく美味そうだ。
無意識に喉が鳴る。
直感が、あの子は今まで食べた中で一番美味い肉だと囁いている。
あの子を食べよう、絶対に。
あんな屑どもに渡してたまるか。
それは俺が食う。
口の中が涎で湿っていくのを感じる。
どう動けば最善か。
考えろ。
答えは決まった。
俺はスリングに石をセットした。