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プロローグ:日本

 今日、一人の男の裁判が終わった。


 誰にも好かれることがなく、誰にも認められることがなく、憎しみ怒り殺意、その他悪意全てを浴びさせながら、彼は死刑の宣告を受けた。


  その男は東京に生まれ、普通に育ち、普通に恋愛をし、普通に生きていた。

 25歳、大学を出て就職し、彼女と同棲し、何不自由なく暮らしていた。

 不自由さはなけれども男の感情は欲望は、渇望は満たされることがなかった。


 ある日料理していた彼女が包丁で指を切った。

 痛がっていた彼女だったが男は心配するよりも先に、滴る血が艶かしく美味しそうだと感じた。


 その日の晩、隣で眠る彼女の首元がとても綺麗で、どれ程の高級食材よりも美味しそうに思えた。

 そして衝動的に首元に手を掛け、絶叫する彼女の口元を自分の口で塞ぎ、舌を噛みちぎり、絶命させた。

 男はその時、初めて人を殺した。


 何の未練も罪悪感もなかった。

 有るのはただ早く食べたいという食欲と舌はやっぱり焼いた方が美味しいのかなという興味のみ。


 男はその日、初めて人肉を食べた。

 首元の血を啜り、唇を噛みちぎり、頬の肉を剥ぎ落として食べた。

 今まで食べてきた食材がまるで生塵、豚の餌以下だったのかのような衝撃だった。

 美味過ぎる、頭の中から何かじゅわりと気持ちい物質が出てきて多幸感も感じた。


 気づけば、顔だけでなく、身体中を包丁で切り裂き、食べれる部位を物色していた。

 胸や尻は不味かったが、よく動かしている脂身以外のところは旨い。

 手の甲の肉や指の肉、頬の肉に腕やら足やら、その日は初めて台所で料理しながら朝を迎えた。


 それから数日、死体の処理を終えて男は普通の生活に戻った。

 かの様に思えた。

 1週間目は何も感じなかった。

 2週間目に人肉を食べたいという欲望が抑えきれなくなった。

 その日初めて、デリバリーヘルスを頼みホテルへ向かった。


 女92名、男10名、計102名。

 5年後ただの大量殺人鬼になっていた。

 無論、殺しに快楽を感じて殺しているわけでなく。

 食べたいから、殺していただけ。


 ある早朝、死体の処理をする為、車にゴミ袋を詰めた。

 その日は大雨。

 車は坂道でスピードが少しオーバーしてしまった。

 近くで張っていたネズミ捕りの警察がサイレンを鳴らし横付けされる。

 最後は呆気なかった。




 被告は精神が極めて不安定な状態ではあるが責任能力は認められる。且つ反省の色が見られず、情状酌量の余地も無い。この被告人が犯した罪は極めて自己中心的行いであり、過去稀に見ない罰せられるべき大罪である。

 __よって被告人を死刑に処する。





 「最後の飯は何がいい?」

 「人肉がいいね。出来れば程よい肉付きの女がいいな勿論生きた状態が好ましい」

 「そうか最後まで糞野郎だな早く死んでくれ」


 スイッチは押され、男の身体は宙に舞った。


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