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Ⅲ 絆 (1)

 そのとき、恭二のスマートフォンに、メッセージの通知が届いた。

 親たちに気づかれないよう、膝に広げたナプキンの下でこっそり通話アプリを開く。


『ごめんね』

『びっくりさせて』


 思った通り、相手は静香だった。


『大丈夫』

『こっちこそなんかごめん、親父が』


 とりあえず返事を打つ。


 すぐに連続で返事が来た。


『ママのあれね、嘘だから』

『二重まぶた、なってないから』


 ――どういうこと? 

 静香の返信内容に、恭二は首をかしげる。


『二重にするやつ、恭くん知ってる?』

『ドラッグストアとかで売ってる』


 続いたメッセージに、


『あ、わかるかも、俺』


 恭二の脳裏に、古い記憶がよみがえった。


 中学生の頃だろうか。クラスの女子たちが、そんな話で騒いでいたのは。

 せっかくの一重まぶたを、彼女たちはなぜ、わざわざお金と手間をかけてまでして、二重にしようとするのか。朝の教室できゃっきゃと情報交換をする女子たちの声を聞きながら、心底残念だったから、よく覚えている。しかもそのアイテム名が、「〇イプチ」とか「〇たえのり」とか、すごくインパクトのあるやつで。


『そう、ママのってそれなの』


 静香が続ける。


『自然に二重になったんじゃなくて、作ったやつ』

『だから恭くん、安心して?』


 恭二の返信を待たずにメッセージが続いた。


『私、ずっと今のままだよ!』

『両親が一重だから』


 ――私、ずっと今のままだよ!


 その瞬間、世にも幸せなフレーズが、まるで実際に耳元で静香に言われたかのように、恭二の脳内でリフレインした。


 私、ずっと今のままだよ!

 ずっと今のままだよ!

 今のままだよ――!


(――ヒャッハーーー!!!)


 うなだれていた恭二の顔に、一気に精気が戻った。

 椅子の上でシャキンと背筋を伸ばし、恭二は猛烈な勢いで返事を打つ。


『何言ってんだよ』

『そんなの気にしてないよ』


 すぐに静香から、


『ごめん、考えすぎちゃった』


 テヘペロ猫のスタンプが来た。


『前に恭くん、私の目が好きって言ってくれたから』

『あのとき、嬉しくて』


 向かいの席で顔を起こした静香が、恭二を見上げて、えへへ、と笑う。


(……なーーんて、かわいいんだーーー!!!)


 恭二の中で、幸福感が爆発した。



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