Ⅱ (2)
静香の母に話を振られて、恭二の母もにこやかに調子を合わせる。
「ええええ、本当に。おっしゃる通りだと思いますわ。このたびは、昔のこととはいえ、主人がご迷惑おかけしましたそうで」
隣で、恭二の父が力なく笑った。
そういえば、父の好みをわかりやすく反映したのか、恭二の母は奥二重のあっさりした顔立ちだ。
「いえいえそんな、奥様。どうぞお気遣いなく」
静香の母が大げさに手を振る。
「もう、ママったら」
「ははは。しかし君にはいつも驚かされるなあ。もしも静香が君に似ていたら、びっくり箱がふたつで、僕はきっと気が休まる暇がなかったよ」
たしなめる静香と、あくまでも朗らかなその父。
ふわふわと続けられる会話に、笑顔で適当に合わせつつ、恭二は内心、衝撃に打ちのめされていた。
(――嘘だろ?!)
問題は、静香の母の話の内容だ。
(二重まぶたは優性遺伝だと? 今は一重でも、ゆくゆくは二重まぶたになる?)
生物に限らず理数系全般に弱くて、遺伝の話はよくわからないけれど。
恭二は、親たちに何か言って笑っている静香の横顔を盗み見る。
親子は異性の好みも似るって、よく言うけど。ほんとだったんだな、あれ。親父も切れ長フェチかよ。
てか、わかるわー、ママさん捨てた親父の気持ち。
だってさ。静香のこの、涼しげで色っぽくて優しくて、でもときどきなんかゾクッとする……みたいな魅惑の目が。ある日いきなり、ママさんみたいなぱっちり二重になっちまったら。
……うわ、ありえねー!
それでシャープな洞察力とか発揮されても、ギャップゼロだし。
考えれば考えるほど、いら立ちが募ってくる。
あーもー、なんなんだよ!
俺はあの静香の、普段ちょっと眠そうな、猫みたいなとろんとした目が! 真面目なときだけ、すってクールになる感じが! 好きなのに!
思わず髪をかきむしりそうになって、慌てて手を下ろした。
幸い、妙な動きは誰からも気づかれなかったらしく、ほっとする。
……親父さんは一重まぶただから、静香は親が一重と二重で、ママさんのときとは条件が違うのかもしんねーけど。でも、優性ってことは、この先二重になる確率の方が大きいの?
やだやだ!
ちょっと待ってくれよ。
やだ! 今この場でひっくり返ってじたばたしたいくらい、やだ!
……ちょっと、考えさせてほしい。この結婚。