プロローグ
テンドケード。月の街。
その街には、古くから伝わる伝説があった。
名を、紅月の伝説といった。
紅月の伝説の内容は、このようなものだった。
その昔、テンドケードでは、月を神として厚く信仰しており、年に一度、聖月祭と呼ばれる伝説があった。聖月祭には、街に住む全ての者が丸一日参加しなければならず、参加しない者は不届き者と罵られ、街から追い出された。
街から追い出されたものは、不思議な事に、どこの街からも移住を拒否され、結局テンドケードに帰る事になったのだが、一度街を出ただけで住民達の態度は180度かわった。
毎年聖月祭の夜には、必ず一人、『実際には在るはずの無いもの』すなわち『幻』を見るものが居た。他の者は気が狂った、そんなものがあるはず無いなどと言い、幻を見たと言うものの事を信じなかった。
その幻とは、聖月祭では綺麗に飾られる月時計のアーチから見える、青白い手だった。
そのほか、アーチの中からからこちらを睨みつけている青白い顔、アーチの向こう側にぶら下げられている生首(反対側からは見えない。)など、非現実的なものばかりが目撃されたと言う。
そして、聖月祭の夜に他の者には見えない者を見てしまった者は、必ず次の日に行方不明になり、一年後の聖月祭の前日に、アーチにぶら下がった状態で見つかった。
もちろん息はしていない。
そして不思議な事に、体は全身無傷にもかかわらず、内臓、血管、脳、骨などは全て取り除かれ、体(皮)の中は空っぽだった。
その訳は、今でも分かっていない。
数年後、これ以上犠牲者を出すまいと、住人達は聖月祭を行うのを止めた。
その後、しばらく犠牲者が出る事は無かった。
それがちょうど200年前の事だ。