大好きな耳掃除よもう一度
今回使う道具は綿棒と耳かき、ピンセットかな。
ゆっくりオイルに浸した綿棒でそっと外耳道を掃除する。
ここで大事なのはいきなり本丸を攻めないことだ。
じっくり、じっくり手順を踏んで外堀を埋めていく。
そして、小さなはさみを耳毛を切る。
切っているときの音が鳴っているはずだが
これに恐怖心を感じていないか観察する。
「どうですか。恐くないですか?」
「はい。大丈夫です。なんだか眠いです。」
大丈夫なようだ。
では、本丸に揺さぶりをかけるぞ。
耳垢の周りをオイルで柔らかく、滑りやすくする。
ベルダさんの耳掃除で使った改造耳かきの登場だ。
薄くしたからわずかな隙間さえ作れば取れるはず!
耳かきで耳垢をそっとかく。
ヒューさんは気づいてないみたいだ。
なら、一気に行く!
隙間を作るために少し強く潰すように横に寄せる。
よし開いた!!
耳かきを滑らせ地盤を上に押し上げる。
そして左手でピンセットを取って耳垢を
素早く掴み、丁寧に取る。
出てきたのは2cmほどの超大物だった。
これが外耳道に詰まっていたら聞こえづらく不快なはずだ。
「取れました!」
とれた大物ををベルダさんとヒューさんに見せると
歓声と拍手が沸いた。
私の仕事が喜ばれてとても誇らしい瞬間だった。
「ありがとうございました。
アイザワさんのおかげで心身の憂いが取れて
スッキリしました。」
「いえいえ。満足していただけて嬉しいです。」
「ベルダさんにもお世話になりました。」
「悩みが解決して良かったですね。」
ベルダさんが微笑む。
「……ひとつお願いがあるのですが……」
ヒューさんが恐る恐る、言いにくそうに
私に尋ねた。
「何でしょうか?」
「あの……えっと……」
大きな体をすくめた30秒程沈黙の後
「取ってもらった耳垢を持ちかえりたいのですが
……」
と意を決したように言った。
「大丈夫ですよ。超大物ですもんね!」
「え!? 変だと思わないんですか。」
「耳垢を記念に持ち帰るお客さんはいますよ。
私としても大変光栄なことです。」
「そうなんですね! 良かった。」
ヒューさんはホッと安心した様子だった。
その後、ガーゼで包んで箱に入れた耳垢を渡して
ヒューさんは帰って行った。
「今日は本当にありがとうございました。
アイザワさんが居なければヒューさんはもっと不愉快な時間が続いていたでしょう。」
ベルダさんが深々とお辞儀する。
「お辞儀なんて止めてください。私に生きがいである耳掃除をさせてくれたのはベルダさんです。」
私も深々とお辞儀をする。
「なので耳掃除店を開きませんか。病院と併設という形で。」
「ええ!?」
まさかの事態に思わず私は前のめりになる。
「アイザワさんの素晴らしい耳掃除と髪を切る技術があるのなら繁盛しますよ。」
お店が潰れてもう人に耳掃除をする事なんてほとんどないと思っていた。
ベルダさんのあまりにも嬉しい提案に思わず涙が溢れる。
「是非、やってみます! よろしくお願いします!」