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異世界初耳掃除


 耳の穴、外耳道の入口付近の耳毛に引っかかっている耳垢を優しく、ゆっくりそっと取る。

オイルをつけた綿棒で耳垢と耳毛を湿らせると掻いたり剃ったりしたときに鼓膜に

落ちるのを防ぐことができる。


 ああ、おそらくベルダさんにはカリカリと素敵な耳の音が聞こえているんだろうな~

実にうらやましい。

と思いながら耳の中を冒険する。


 だいぶん、耳の中を湿らせたので綿棒から耳かきにバトンタッチして

少し力を入れて掻く。

小さい粉耳垢もまとめるとそこそこある。

上下に動かすのではなくゆっくり円を書くように

丁寧に掃除しながら少しずつ奥へ進入する。


「怖くないですか? かゆいところや不快なところはありませんか?」


 ベルダさんに問いかける。


「大丈夫です怖くはないです。不快感もありません。とても丁寧な耳掃除ですね。」


 良かった。嫌ではないみたいだ。

ここで、理容師時代施術中にしていた世間話をしてみる。


「先ほどこの病院は亡くなったベルダさんのお父様が継いだ。と言っていましたが他のご家族様は?」


「4人家族です。両親と妹が1人。ですが母が10歳で父は21歳のときに亡くなりました。」


「私の両親も私が12歳のときに事故でなくなってしまったんです。それから父方の祖父母に育てられました。私は一人っ子なので兄妹に憧れていました。」


「僕にとって妹は唯一の肉親で母が亡くなったときにまだ3歳だったので娘のようにも思えます。」


「大事にされているんですね。妹さんのこと。ベルダさん優しくて紳士だから妹さんも幸せだと思いますよ」


「ありがとうございます。良い兄。だと良いのですが、私は妹、リサベルが苦しんでいるときになにもしてあげられないダメな兄です。」


 ベルダさんが目を伏せて悲しげに呟く。


「どうかしたのですか? あ!言いにくいことだったら忘れて下さい。」


 自分で聞いときながらなに言い訳しているんだ。

と気の利いたことが言えない不器用さに凹んでしまう。

理容室に来ていたのはほとんど常連さんだったから、なにも考えず世間話をしていたが

本来、私はトークが上手くなかったな。


「妹は不治の病を患い伏せっているんです。医者でありながら何もできない自分が不甲斐なくて。」


「そうなんですか……」


 どう反応してよいか分からず相槌だけをうつ。

ただ黙りこくっている私に


「アイザワさんに聞いていただけて少し心が軽くなりました。」


 ベルダさんが優しく微笑む。

本当に素敵な人だなぁ。


「少しでもお役に立てて嬉しいです。」


 この話一段落したあとは集中して耳垢を取る。

軽く観察したときに見つけられなかった外耳道に

へばり付いて同化していた耳垢を剥がす。

あらかた取れたら耳毛を切って、綿棒でふき取る。

そして耳のマッサージを行い終了。


「お疲れ様です。ベルダさん。施術が終了しました。」


「ありがとうございます。本当にお上手なんですね。

最後の方は心地よくて少し寝てしまいました。」


「本当ですか! 嬉しいです!!」


 心地いいと言ってもらえるのは耳掃除屋冥利に尽きる。


「アイザワさんの耳掃除に感服しました。例の患者さんをお任せしたいと思っています。

よろしくお願い致します。」


「本当に良いのですか?」


「はい。私もそばで見守っているので大丈夫です。

彼の耳垢を取れるのはアイザワさん。貴女だけだと思います。」


「光栄です。精一杯頑張ります。」


 お医者さんのベルダさんですら取れない耳垢。

楽しみだなぁ。


「今日はこの病院でゆっくり休んで下さい。今から食事をしましょう。私の家から食料を持ってきますね。」


「何から何までありがとうございます!」


 ベルダさんの優しさに感動した。

身元が分からない不審な女にここまでしてくれるなんて!!

突然、変な世界に来て一時はどうなるのかと思ったけど良かった。


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