いざ!耳の中へ
「ここです。」
おそらく15分程歩き、ベルダさんの病院に着いた。
見た感じは慎ましいシンプルな木造と思われる二階建ての建物だ。
入ってみると木とアルコールの匂いがする。
木の廊下は掃除が行き届いていて綺麗な木目が見える。
見上げると天井には一定の間隔で裸電球がぶら下がっていた。
「1階は診察室と処置室。2階は病棟です。」
「院長さんなんですね。すごい。」
「亡くなった父の後を継いだだけです。すごくなんかありません。」
「そんなことないですよ。私は祖父から継いだ理容院を潰してしまいましたから。」
「苦労されてたんですね。」
「時代の流れには勝てませんでしたね。」
私はベルダさんにこの世界?に来る前の苦労話をした。
いろいろ話しているうちにある一室の前に立ち止まった。
「ここが処置室です。」
中はベッドと椅子、パーテーションなど最低限の道具があるだけの簡素な診察室だった。
「えっと。普段使っている耳掃除道具はありますか。」
「あります。これをどうぞ。」
差し出されたのは何とも不格好で無駄に多き(無駄に大きすぎる)すごる耳かきだった。
「ここには耳かきはこれしかないんですか?」
不満を隠しきれない私にベルダさんが若干びっくりしているようだ。
「……はい。」
「ダメですよ。この耳かきは! まず耳垢を取るさじの部分が曲がり過ぎです。それに先端も厚すぎる。
これじゃあ取りづらいし耳垢も取りにくいです。
この耳かきを強引に入れたら外耳道が傷ついてしまいます。
もう少し平べったくします。やすりありませんか?」
耳掃除愛がつい、炸裂してしまい止まらなくなる。
「耳垢の種類で道具を変えるのは基本ですが本来は耳の穴の大きさでも道具を変えなければいけないんですけどね。」
私はベルダさんから手渡されたやすりで耳かきを削る。
材質は限りなく竹に似ていて丈夫さとしなやかさがあるが、あまり上等なものではないかな。
曲がり過ぎた部分を滑らかにし、先端を薄くする。
あらかた、希望の形に整えても手を抜かない。
凹凸や棘は有ってはならい。
しかし、耳かきが折れないように慎重に滑らかなにしていく。
「できた!!」
匙の曲がりを穏やかして、ヘラの様にとはいかなかったが先端の厚みをできる限り薄くした
耳かきが完成した。
綿棒とオイル、耳毛カット用の小さなハサミ、ピンセット、洗浄綿を貰い
ベッドを緩く腰掛けられるくらいの角度に調節してこれで準備は整った。
あとは、メインの耳掃除だ。はぁ……楽しみだ。
「すみません。言葉が過ぎてしまいました。では、よろしくお願いします。」
「ええ……どうか、お手柔らかにお願いします。」
私の怒涛の文句ラッシュにもなにも言わないベルダさんは聖人だ。
「大丈夫です。大船に乗った気持ちでリラックスしていてください。」
ベルダさんの耳を見る。
粉耳タイプの耳垢だ。
まあまあ綺麗だが、耳掃除によって押し込んでしまった耳垢が鼓膜に
パラパラと落ちていた。
耳毛にも耳垢が付着している。
うーん。耳毛の方は剃れば綺麗に取れるだろう。
でも、鼓膜の方は難しい。
自分の耳なら危険を承知、万が一鼓膜が破れても自己責任で掃除ができるが
お客さんには絶対にできない。
こういう時、お医者さんではないので取れないのがもどかしい。
鼓膜の耳垢は見なかったことにして耳毛の処理と浅瀬だけを掃除しよう。
「では、掃除させていただきますね。」
ベルダさんに一声かける。
「はい。よろしくお願いいたします。」
了承は得た。いざ! 耳の中へ。
まずは綿棒にオイルを染み込ませて、優しく外耳道に入れる。