ドンさんが冒険者になった理由
「こんばんは。食器を下げますね。」
とドンさんの病室に入った。
「ありがとうございます。今日も美味しかったです!」
「ふふ。夜の治療までゆっくりして下さいね。」
私が食器を持って病室を去ろうとしたとき
「あの、アイザワさん。俺はいつ退院出来ますか!」
と唐突に質問される。
「うーん。ベルダさんによると順調らしいですが……
でもハッキリとしたことは言えないのでベルダさんに聞くとよいと思います。」
心苦しいが私はこのくらいしか応えられない。
「つい、早くソルランに向かいたい焦燥感に駆られてしまって、すいません。」
「いえいえ。ドンさんはどうして冒険者になったんですか?」
気になっていたが聞いていなかった重要なことを質問してみた。
「……俺の故郷は小さな寒村で皆貧しく、飢饉や疫病が流行れば大勢の死者が出ます。
俺は長男で比較的優遇されたが
弟は6歳丁稚奉公に出され、妹は8歳で流感で死んだ。
本当に寂しくて悲しかった。
自分の子にはこんな思い絶対にさせたくない。
ソルランにあるルシンや財宝を村に持って帰れば
妻子、両親、村全体が裕福になれる。幸せになれる。そう、信じているんだ。そのためなら命さえ惜しくはないです。」
ドンさんの話しが衝撃で何も言えない。
そんな重い過去と強い決意があったなんて。
私の安易な質問でドンさんを傷付けたかも知れない。
「では、今の病気をしっかり治さないといけませんね。焦る気持ちが有るかも知れませんがせめて、ここにいる時は安寧にして下さいね。」
私は長い沈黙の後、そう口にした。
「ありがとうございます! アイザワさんに話して決意を新たにできました!」
思い出した。おじいちゃんも寒村出身で10人兄弟だったが成人できたのは6人。その後兵役に出て戦地で大怪我負ったそうだ。
同僚の耳掃除をたくさん行った武勇伝は子どものころよく聞いたな。
ドンさんは村に電気を引く夢が有ること、夫人との馴れ初め(幼なじみだそう)とのろけ話や子どもが可愛すぎて辛いなど明るく楽しい話をした。




