冒険者の足の裏は傷つきやすい④ ゲームの日
ベルダさんの一言から夜のゲーム大会が幕を開いた。
今回はジェンガ対決となった。この世界では積み木崩しと呼ぶらしい。
ただいま、終盤の山場で私のターン。
積み上げた積み木タワーは21段ある。
これはチャンスだ!
もう、安パイは1カ所しがない。
他は危ない。これは2人のうちにどちらかのターンで崩れると踏んで勝利を確信しながら、慎重にゆっくり引き抜き成功。
ホッと。安堵しながらも再び息を飲み、丁寧に積み木を上に乗せた。
やった!崩れなかった!
おーすごい。と2人が私に拍手をした。
「次、ドンさんの番ですよ。」
「緊張するなー。崩れませんように。」
とジェンガの前で手を合わせ拝む。
私はドンさんがどの積み木を抜くのか少し考察した。
最有力は15段目の右かな。
上手く安定していると思うが滑らかに抜けない気がする。
次点で18段目の真ん中。ここは3つ残っているが下がスカスカだから簡単な刺激でも恐いなぁ。
などと考察しているとドンさんが意を決したように動いた。
よし。と小さく気合いを入れて手を伸ばした先は次点の18段目の真ん中。大きな手が震えながらも器用に積み木を取った。
頭頂部が揺れたが何とか持ちこたえた。
だが、積み終わるまでなにが起こるか分からない。
ドンさんがゆっくり真ん中に積み木を置いた。
またも少し揺れたが、崩れそうでもそびえ立ったままだった。
ふぅー!
ようやく安堵の息がでた。
「ナイスプレイです!」
私は振動を立てないように静かにドンさんの戦いを讃えた。
「すごいですね!正直、私にまで回ってくるとは思いませんでした。」
と微笑みながら。悠然と手を伸ばすベルダさん
え!最終盤にも関わらず、序盤のテンションでプレーする。これは自信がある人しかできないことだ。
ということは私が危ないのでは!?
そしてベルダさんは全く予想外のところからスッと抜き出した。
すごい!あまりに鮮やかで繊細かつ優雅な手付き、魔法のようだ。
確かにベルダさんは患者さんの絶対に失敗が許されな
い処置をたくさんしているから手先が起用なのは当然だった。
その後も問題なく置いてターンエンド。
「難しい場所を簡単に抜くなんて素晴らしいです!
さすが先生!!」
目をキラキラさせて感動している
ドンさんを横目に私は焦った。
……負ける?いや、最有力がまだ残っているではないか!
まだ、恐るるに足らず。いざ、尋常に勝負!!
と手を伸ばし触れてみる。
あ……これはダメだわ。固い。
恐らく、ベルダさんの予想外な手で状況が変わってしまったのだろう。多分。
しかし、ルールで一度触れてしまった積み木は抜かないとダメなので意を決して引いた。
その瞬間、ガタ、ジャラっと音を立てて不安定ながらそびえ立っていた塔が崩れ落ちた。
「あーー!!負けた!」
ガックリうなだれる私。
「でも、こんなに高く積み上げられるとは思わなかったです。」
積み木崩しを片付けながらドンさんが言った。
「久々にゲームを楽しめました。アイザワさん、ドンさんありがとうございました。」
「私も皆さんでゲームが出来てとっても楽しかったです!」
「では、週に1回はボードゲームの日を作りましょう。」
ベルダさんが提案する。
「おお!これからの楽しみが増えます。」
ドンさんもやる気満々のようだ。
「では、今回はお開きに致しましょう。」
こうしてゲームの日が終わった。
次は負けないぞ。と心に誓った。
次の日
今日は誰も来ないなぁとしょんぼりしていた昼下がり。
まぁ、お店の掃除でもしよう。
と思ったその時。
ガラリと扉が開いた。
「いらっしゃいませ!」
見えたのは珍しい若い女性だった。
「あの、すみません。耳に違和感があって……」
最初から耳掃除目当てのお客様が来るなんて!
この町に私のお店が浸透してるのかと思い感動して泣きそうになった。
「承知しました。すぐにご案内できるので。こちらにどうぞ。」
と椅子に座ってもらった後、すぐに寝かせた。
「では、耳を見ていきますね。」
「はい。」
私は耳の穴を見て衝撃を受けた。
穴が2つある!?




