異世界でも耳掃除がしたい!
おじいちゃんが経営していた理髪店を継いだが私の力不足で店を閉めることに。
理髪店を経営していたおじいちゃんは散髪の腕もさることながら特に耳かきが名人の領域で汚れた耳でもきれいにして、
どんなに耳かき嫌いな人でもおじいちゃんの手に掛かれば大好きになって帰っていく。
そんなおじいちゃんの背中を見て育った私も耳かきを人にするのが大好きなった。
私は理容師免許を取り高齢になって引退したおじいちゃんの後を継いだ。
数年は常連さんが定期的に来てくれていたが徐々に常連さん達が入院したり高齢者施設に入ったり、亡くなるようになって1週間に誰も来なくなる日も多くなっていって、私が思い悩んでいた時におじいちゃんも亡くなってしまった。
思い出の品々を片付けている最中にセットチェアで寝入ってしまって起きたらなぜか全く知らない場所の
道脇だった。
「意味が分からない。これは夢か現か。」
いや、冷静に考えて夢だよね。これは。そうに違いない。明晰夢ってものかな。
道脇で寝ていた私を全く気に留めることなく道を歩くる人々は黒髪、金髪、茶髪、中には赤毛や銀髪など
珍しい色や緑や青、紫など現実世界ではありえない髪の人もいる。
立ち上がり街を見回す。
「なんだかファンタジーの世界だな。」
街には露店が多く衣服や加工食品、武器や防具を売っている店もあった。
まぁ折角の変わった夢だ。人に話しかけてみよう。
「あの、すみません。ここはどこですか?」
とはたから見ればおかしな質問だが仕方がない。
「? ここはピエタムですが……」
男性は摩訶不思議な顔をしている。
「ピエタムですか。随分栄えてますね。」
「まぁ、ソルランに向かう人々が多いからね。」
「ソルラン?」
「ソルランも知らない……もしかして貴女、記憶喪失とか」
「え!? いや私は今まで日本に住んでいて目が覚めたらここにいました。」
「二ホン? 聞いたことがありませんね。もしや貴女はルシンを求めてソルラン向かったのは良いが
傷を負ってしまって命からがらピエタムに戻ってきて記憶を失ったと思います。」
え?え? 私が現状を飲み込めないうちになんだか勝手に話が進んでいる。
「えっとソルランやルシンとはなんですか?」
とりあえず聞いてみる。
「ルシンはソルランにしかないこの世のものと思えない程の美しい輝きを放つ鉱石です。
ルシンを手に入れたものは一生の富を手に入れると言います。
しかし、ルシンを手に入れるのは過酷を極め命を落とす者も少なくありません。」
「そうなんですね。私記憶を失っているのかもしれませんね。」
んーここでこの人の言うことを否定しても、じゃあお前なんなんだよ。となるだけだし肯定しておこう。
「あの、私記憶もないしこの街に何の伝もないのでどうやって食べていけばいいのでしょうか?」
「そうですね。ここは比較的大きな町ですから働き手を募集しているところも多いし、何らかの技能を持っているなら店を構えるのもいいかも知れません。」
「お店……ですか。」
もう一度理容師したい。
髪を切りたい。
そして何より耳かきがしたい!!!
「あの、すこーし思い出したことがあるんですが私、人様の耳掃除や髪を切ることを生業としていました。だから、この、ピエタムでも人様の耳掃除や髪を切る仕事がしたいです!!」
「君、耳掃除が得意なのですか!?」
「ええ!そうなんです!! 私は耳掃除研究科です。これまで数百人の耳を見てきましたが一度たりとも怪我をさせたことはありません!
そんなことより!! 耳掃除のことでお悩みなんですね!!」
私は男性に食い気味に距離を狭める。
「え??」
「最近、人の耳掃除をしていなくて飢餓感が半端ないんですよ!! あなた、耳掃除のことでお悩みなんですよね!?」
「はぁ、患者の耳の中に虫が入ってしまってようで摘出しようとすると痛い、痛いと言って暴れてどうにも出来ずに困っているんです。」
「もし、よろしければ 是非!! 私にその方の耳掃除をさせてくれませんか。自信はあります。」
「よろしければというレベルの圧ではないですよ。それは。それに名前も知らない。素性の分からない人に大事な患者の処置をまかせられません。」
いけない、いけない。あまりに耳掃除がしたいが為にがっついてしまった。
「そういえば、名前言っていませんでしたね。私は相崎珠希です。」
「アイザキタマキさん。ですか。僕はベルダ=ヴームと申します。みんなからはベルダと呼ばれています。」
「ありがとうございます。ベルダさんは恩人です。私のことはタマキと呼んでください。……で耳掃除のことなのですが……。
「わかりました。タマキさんの耳掃除に対する強い愛と執念とこだわりがあるのは痛いほど理解できました。なので一度私に施術してください。結果次第で僕の患者もお願いしようと思います。」
「いいんですか!! ありがとうございます。」
「では、僕の病院に向かいましょう。そこで施術を行ってもらいます。」
「はい。よろしくお願いします。」
私は高鳴る気持ちを抑えつつベルダさんについていった。