このくっそ親父がァァァァ
「今日、綺麗なお嬢さんと線交換したお!」
五十を過ぎた男がなにやら嬉しそうである。線とはすなわちLINEのことだろうし、「〜お!」はオッサンがやっても可愛くないっての!
「ほら、可愛いでしょ、これで五十代なんだぜ! 控えめに見ても二十代に見える」
それは流石にないわ……とドン引きしている私、十九歳の大学生。そしてこのクソ親父の娘。母さんとはしばらく会ってない――別居中だから。
「それはそうと、玉ねぎと牛乳ちゃんと買ってきてくれた? それないとシチューできないんだからね?」
それがないと晩飯がないぞと念を押したのは、彼女(仮)自慢に余念がない親父がお使いの話をリマインダした途端に青ざめたからである。
言外に「忘れたなら今からでも買ってきやがれ」を込めたはずなのだが、このくそ親父はやはりズレている。
「ごめんごめーん、忘れちゃった☆ミ でも彼女からワインのお裾分けもらったし、一緒に飲もっか☆ミ」
「はぁ? 親父ってば娘が未成年なことも忘れたわけ? ってか恋愛に溺れて娘の誕生日とか記憶の彼方みたいなパターン??」
私が激怒したのも仕方ないと思う。っていうか妻と別居中の身でオンナからワインとは何様じゃボケ。
身体の隅々までお星さまを漂わせてる図体だけデカイ能無しだが、一応学費を出してくれてる恩があるから、グツグツに煮えた茶漬けを頭からぶっかける罰は免除してやる。
「……まぁいいよ。どうせ忘れると思ったから講義帰りに玉ねぎと牛乳買ってきたし。今からシチュー作るから待ってて」
親父には親父の苦労があるかもしれないし、ここは労っとくかと苦し紛れに悪態の数々を封じ込めたのに、その後振り向いて見た光景に私は二度目の激高を果たすことに相成った。
「早々に飲んだくれて潰れてんじゃねぇーッ」
その叫び声は、深夜の住宅街に(はた迷惑なことにエコーまでつけて)反響した。
……ごめんね、近隣の方々。