表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第5話

時刻は日を跨いだ夜中の0時過ぎ、目的の村へと1台のハイエースが乗り付ける。

とある古びた民家の前に駐車すると、腰をパキパキと鳴らしながら憑神が運転席から降りてくる。



「ふぅ、やっとこさ着いた。腰が痛くてきついな、何時間も運転するのは」



「憑神さんって、おじいさん、みたいー」



「あほ。俺はまだ26歳だ」



「えへへ、知って、るー」



「んで、依瑠のやつはまだ出てきそうにないか?」



「んー、出てこないっぽい」



 葵は小さな箱を振るが、中は空洞にでもなっているのか軽い音がカラカラとするばかり。

その箱に煙となって消えた依瑠の反応はない。



「まあ、とりあえず中に機材を運び込むか。おい、2人とも手伝ってくれ」



 玄関はところどころ朽ち、恵が扉を開けようとするとギイギイと不快な音を立てる。 

憑神は機材を下ろしつつ、お屋敷の中へと土足で上がり込む。



「ここで依瑠に驚かされたんだっけか」



 片手にカメラを抱えた憑神はかつて依瑠と出会った部屋に足を踏み入れると、何ともなしに独り言を漏らす。



「え、なになに、憑神さーん。ここで依瑠ちゃんと会ったのー?」



 耳ざとく憑神の独り言を耳にした葵が反応する。

音もなく近づいてきた葵に急に声を掛けられた憑神は一瞬だけびくりと反応すると、ホッと胸をなで下ろす。



「! おい、驚かさないでくれよ」



「ねえねえ、さっきの話は本当なのー?」



「ん。ただまぁ、依瑠も嫌がっていたし、とりあえず撮るもんだけ撮ってすぐに帰ろう。依瑠はまだ車に、いや箱に引きこもってんのか?」



「うん、恵が車でさっきその箱を振り回して『依瑠ちゃん、出て、きてー』なんて遊んでいたけど」



「ああ、まったく。恵のやつを止めてくるから、このカメラを適当に端に置いといてくれ」



「はーい」




 憑神は適当に話を切り上げると、恵を止めに車へと戻っていく。

その背をイタズラそうな目で見送る葵。



「さぁってと、依瑠ちゃんの秘密探し~♪」



 葵は吸血鬼独特の視覚と嗅覚を持って、部屋の中をごそごそと探し始める。

そしてすぐに床板の隙間から依瑠の微かな臭いがすることに気がついた。



「ん~、ここに何か……」



 その床板に手を突っ込んで何かないかとますぐると、指先に当たる固い感触。

それをしっかりと掴むと、そのまま葵は引きずり出す。



「何これ、板……?」



 擦れた文字が書かれた腕先ほどの長い板。

消えかかっていたが、どうやら9人の名前が羅列されているようであった。



「これ、なんなんだろ? んん、人……柱……? 羽? 良く読めないわ」



 葵があぐらをかいて、その板を見ているその後ろに音もなく1人の少女の姿。



「ねぇ、それ……」



「あっ、へっ。い、依瑠ちゃん……?」

 


 葵は板を抱えたまま振り返ると、そこにはいつの間に来たのか依瑠が居た。

そして依瑠はボロボロと大粒の涙をこぼす。



「あー……いや、ごめん。泣くほど嫌だなんて思わなくて」



 流石の葵もばつが悪そうに依瑠に向かって謝るが、依瑠は微動だにしない。

その様子に葵も段々と『あっ、これあたしめっちゃヤバやつじゃね?』と理解し始める。



「あ、依瑠、車に居ないと思ったらこんなところにいたのか。おおい、葵、カメラ片しておいてくれたかー?」



 そこに恵と一緒にマイクや雑貨などを持って現れる憑神。

その瞬間、依瑠は泣きながら部屋を飛び出していってしまった。



「あっ、依瑠ちゃん待って!」



「わー、い。鬼ごっこーだー」



「えっ!?」



 依瑠の背を追いかける葵、そして鬼ごっこのように2人を追いかける恵。

そしてマイクを持ったまま屋敷に1人残された憑神はただただ3人の背を見送るだけであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ