第4話
夜の7時半。N県に向けて芸能プロダクションZOZOZOから1台のハイエースが走り出してから2時間。車は夜の中央道を100キロを超える速度で走っていた。
運転手は憑神、助手席には羽子 依瑠、そして後部座席には機材一式と火羽 恵、九騎 葵が狭そうに座っていた。
「はぁ、社長。わざわざ、あんな村まで行ってPVを撮ってこいなんて、無茶苦茶すぎる。というか俺以外にスタッフ増やしてくれよ。1人で全部こなすとかきつい……」
「ボクだってあんなところに戻るなんて嫌なんだけどねっ。でも後ろの2人はノリノリだったし、何よりも社長が『断ったら、クビな!』なんて笑顔で言うもんだから」
「ねー、憑神さん。まだ、着かない、の? 恵、飽きたー。お腹も、減ったー!」
先ほどまで肉まんを貪って静かにしていた恵が声を上げる。
狭い車内に飽きたのか、肉まんの包み紙の入ったゴミ袋をぶんぶんと振り回す。
「あとまだ2時間は掛かるぞ。サービスエリアはまだ先だし」
憑神はちょうど目の前を流れる案内看板に視線を向ける。
そこには『30キロメートル先、SA』と書かれており、次の休憩所までまだまだ時間が掛かることが窺えた。
「んー、まあ。あたしも飽きてきたな。こんな長く3人一緒に移動することなんて初めてだし。ね、憑神さん。依瑠ちゃんの居たところって聞いたんだけど、その村ってどんなところなの?」
「あー、聞き、たーい」
今まで静かにしていた葵が、携帯ゲーム機から目を離して憑神に向かって質問する。
それに乗っかるような形で恵も大きく声を出す。
「んー、いや村自体は何もないただの村だぞ? ただあの屋敷だけが」
「憑神さんっ!」
そこまで話しかけた憑神の声に被せるように、依瑠が声を上げる。
その依瑠の急な大声に運転していた憑神は驚いてハンドルを切ってしまう。
「ぬおっ!!?」
「きゃ、あー」
「危ないっ!」
「ガードレールにぶつかるっ」
迫り来るガードレール。
4人は叫び。
憑神は必死にハンドルを操作し。
キィィッと大きくタイヤは悲鳴を上げる。
それは時間にしてみればたったの数秒のこと。
だが、4人の体感時間は数分にも感じられたのだ。早鐘のように打ち付ける胸を押さえながら、葵は依瑠に向かって抗議をする。
「依瑠ちゃん、大きな声を出して驚かさないでよ! 危うくみんな死んじゃうところだったじゃない!」
「……ボクは悪くないもんっ」
依瑠はそう言うとふて腐れたような表情を見せ、首に下げた手の平大の”箱”をなで回す。
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
葵の制止も虚しく、依瑠の姿が白いモヤになると箱の吸い込まれる。
そして助手席には主を失った”箱”がコロンと転がった。
「あ、依瑠ちゃん、引き、こもっちゃった」
「あいつ、あたしの話を最後まで聞かないで!」
「いや、俺が悪いな。依瑠がお前ら2人に聞かせたくなかったことを話そうとしちまったから」
「……憑神さん、さっきの話の続きって?」
「まあ、村に着けばわかるさ」
そうして無言になった車内は夜の高速をひたすらに走るのであった。