初めての友達
城野先生は出ていってしまった黒宮弟に何を言うでもなく、ひとつため息をつくと教壇に戻っていった。
おい!注意しないのかよ!
「あークラスの自己紹介もほぼ全員終わったことだし、今日はこれで解決とする。これからは自由時間となるが門限の7時までにはきちんと寮に戻るように。それでは、解散!」
城野先生がそう言うと、生徒たちはそれぞれ教室を出ていった。
「ああ河野君、君は待って下さい。」
「え?なんですか?」
俺も教室を出ようと思い席から立ち上がると結月先生に呼び止められた。
「すみませんね、外部生にはこの学園について必ず説明することになっていまして。河野君には今から他の外部生と一緒に職員室に来ていただいて説明を受けてほしいんです。」
できるなら早く寮に戻って部屋を片付けたいが学校説明は聞いていた方がいいだろう。
「はぁ、別に構いませんが寮の片付けがまだ終わってないのでなるべく早く帰りたいんですが。」
「え?寮の片付けなら専門の業者が来てしてくれているはずですよ?」
「は?」
まじか、流石金持ち学校。てかっ、業者が片付けしてんなら俺が入学式の前にしたことってなんだったんだ?まぁ、服とかは流石に片付けてないだろうから無駄じゃなかった、のか?
「驚きましたか?外部から来た生徒は大抵同じ反応なんですよね。」
俺の驚きように面白げに笑った結月先生はそういった。
そりゃそうだろうな。平民の常識はこの学校の非常識だろうし。
「あの、流石に服とかは片付けないですよね?そういうのの片付けをしたいんですが。」
「え?服ももちろん業者の方が片付けてくれますよ。」
「は?」
俺は先程の比じゃないぐらい驚いた。まさか服まで片付けるなんて。ていうことはさ、下着とか、下着とか、男の生理現象に必要な物とか片付けられるってことだよな。知らないやつに見られるってことだよな。はぁー、一番最初に片付けといてよかったー。
てかっ、この学校の生徒たちは平気なのか?
…ああ、そうか。外部生以外は全員お坊ちゃま、お嬢様だから平気なのか。そういうことか。はぁー
…ていうか俺もお坊ちゃまの端くれなんだがな。なんか複雑だなー。
俺がそんなふうに考え込んでいると俺のそんな様子に気付かないのか結月先生は話しを続けていた。
「それでですね、話が脱線してしまいましたが寮の心配はいりませんので、今から職員室に来てもらっても大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。行きます。」
「それは良かった。…強制的に連れて行くことにならなくて…ボソッ」
俺は寮について安心できねーよ、と内心思いながらも頷いた。
結月先生が最後に何か言ってたのは気のせいだろうと思うことにした。
☆☆☆
そんやかんやで俺は今、職員室に来ている。
そして、まず、俺は言いたいことがある。
「あの、結月先生、ここが職員室ですか?アイドル事務所じゃなくて?」
「ふふっ、何言ってるんですか、ここは職員室ですよ。学校にアイドル事務所があるわけないじゃないですか。」
「そう、ですよね。」
俺はわりかし本気で言ったのだが冗談と思われたようだ。
いや、本当にアイドル事務所にしか見えないんだ。まず、床や机や椅子が大理石で出来てる事や天井にシャンデリアが下がっていることはもう慣れたからいいとして(いや、良くはないんだが)、なぜ、職員室にいるのが全員美形なんだ。生徒たちもそれなりに綺麗なやつは多かったがここまで全員美形ってどういう事だよ!教師っていうよりアイドルって言われた方が納得できるわ!…はっ、もしや採用基準に顔も入ってるのか?
…そんなわけないか。
…はぁ、とりあえず落ち着こう。
俺は自分に落ち着けー、落ち着けーと言い聞かせながら落ち着こうとした。
「おい、早く入ってこいよ。」
そんな俺に城野先生はニヤニヤしながらそう言ってきた。
こいつ、俺が動かない理由に気付いてるだろ。ふざけるなよ。こんなやつホスト教師って呼んでやる!
俺が城野先生を睨みながらガキみたいなことを思っていると「そうですね。さぁ行きましょう、河野くん。」と結月先生まで言ってきたので結局大人しく入るしかなかったのだった。
そのまま俺は職員室の奥の部屋に通された。
部屋には誰もいないのでどうやら俺が一番らしい。
俺がぼーっと窓の外を見ていると、それから数分も経たないうちに部屋に男女の生徒が入って来た。
男子生徒はそのまま黙って席に座ったが女子生徒は何故か俺に近づいてきた。
「はじめまして。私、宮崎 七海といいます。あっちは宮崎 浩太。双子なんです。それと、あなたの名前を聞いてもいいかな?」
「え?あ、はい。俺は河野 慎哉といいます。」
「慎哉君!私たちと友達になってくれない?」
「え?あ、はい。別にいいですが…」
「そう!じぁシンって読んでもいいかな?」
「別に構いませんが…」
「私はナナでいいよ!よろしくね!」
「はぁ…」
「おい、ナナそいつが困ってるだろ。少し落ち着けよ。」
俺が女子生徒のあまりの勢いに押されていると男子生徒が突っ込んでくれた。
良かったー。俺グイグイ来られるの苦手なんだよなー。
俺は女子生徒に見えないよう男子生徒(浩太君)に軽く頭を下げた。
俺の行動に気づいているだろう浩太は気にしないでと言うように軽く微笑んだ。
「もうっ、私をのけ者にして二人の空間を作らないでよー。」
「ごめんごめん。でも二人の空間は作ってないよ。のけ者にもしてないしね。」
「うー、分かってるよ!冗談だよ。でも仲良さそうにしてたから…」
「はは、ごめんって。」
ナナはどうやら俺と浩太君の声のない会話に嫉妬したらしい。浩太君が一生懸命なだめている。
「あ、えっと慎哉君で良かったかな?ごめんね、ナナから話しかけたのに無視してしまって。」
俺がぼけーっと二人を眺めていると俺に気づいた浩太君が申し訳なさそうには話しかけてきた。え、俺別に気にしてないんだけど…。そんな気まずそうにされるとこっちまで気まずくなっちゃうじゃんか!
「えっと、別にお構いなく。あと、慎哉であってますよ。」
なんか初めて友人の家に行って友人の親が色々と世話を焼いてきて困ったときの反応みたいになった!
あ、ついでにいうと前世で俺はよく体験してました。
「そんなよそよそしく話さないで!私達もう友達でしょ!もっと砕けた口調でいいんだよ!」
「は、はい…。あっ、うん分かったナナ。」
敬語使ったら睨まれた。ただ返事しただけなのに。返事で「はい」はいいと思うけどなー。ナナにとっては駄目なのか?まぁ、いっか。俺も堅苦しいのは苦手だし。
「慎哉君、なんかナナがごめんね。」
「いや、いいよ。別に気にしてないから。それより、浩太君も大変じゃない?」
「ははっ、俺はもうなれてるから。それより俺もコウって呼び捨てで呼んで。俺もシンって呼ぶから。」
「ああ、分かった。」
「じゃあ、改めてよろしくねシン。」
「こっちこそよろしく。コウ」
俺はコウと強く握手を交わした。
「もぉー!私をのけ者にしないでってばー!シン!私もこれからよろしくね!」
またのけ者にされたと思ったのかナナが乱入してきた。
「あ、ああ。よろしく。ナナ」
「うん!」
驚きながらもナナとも握手を交わした。なんかナナの性格がだんだん分かってきたぞ。まぁ、とりあえずはこの二人なら仲良くなれそうだ。ぼっちは免れたー。良かったー。
✽ ✽ ✽ ✽ ✽ ✽ ✽ ✽ ✽ ✽
そしてこれが将来、〘世界王〙と呼ばれる者と、常にその者の隣にいた〘双生の魔神〙と呼ばれることになる双子の出会いであるのだが、それはまだ誰も知らない。