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未来の王は姿を隠す   作者: 水無月 霊華
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邂逅と嘘

「君は、誰?」


 りゅう兄様は俺を校舎裏に連れてくると、開口一番そう言った。


「え、あ、えっと……」


 兄様の突然の問いかけに上手く言葉を紡げない。

 俺はいつものように微笑むことも忘れて、必死にこの場を切り抜けるのにふさわしい言葉を探す。


 だが、考えれば考えるほどこの状況じゃネガティブなことばかりが思い浮かぶ。


 兄様は俺の正体に気づいているのか?

 それとも鎌をかけているだけなのか?

 

 兄様の考えていることが分からないから、困惑の表情を浮かべながらも俺は結局黙り込むしかない。


 それからしばらくは沈黙が続いた。

 俺は勿論だが、何故か兄様も何も言わない。


 しかし、その沈黙のおかげで少し冷静さを取り戻した俺は、今度こそ兄様の質問に答えるために口を開く。

 先程まで忘れていた微笑みを浮かべて。


「…私は、河野 慎哉といいます。はじめまして。先輩」


 できるだけいつも通りの声で話せるように気を配りながら、俺は心の中で独りごつ。

 今日は今世で一番というほど疲れるな。呪いか?意味わからん試験で一位をとった呪いだとでも言うつもりか?


 延々とそんなくだらない事を考えながら、俺は握手を求めて手を差し出す。

 兄様はそんな俺の手を暫くじっと見つめると、軽く笑みを浮かべて握り返してきた。


「ええ、はじめまして。河野 慎哉くん。」


 兄様はそこで一旦言葉を区切ると、顔から唐突に微笑みを消した。


 俺は何か嫌な予感がして少し身構える。


 そして、その予感はくしくも当たっているということを、その直後に知る事になる。

 兄様の投げた言葉の爆弾によって。


「さて、挨拶はこのくらいにして、ここからは少し真面目な話をしようね。剣哉。」


 兄様のその言葉を聞いた途端、俺は反射的に手を引き抜こうとした。だが、それは兄様によって防がれてしまう。

 兄様は俺の手を強く掴み、視線をしっかり合わせたまま真剣な表情で話し続ける。


「逃さないよ、剣哉。三年前とはもう違う。今は君より私の方が強い。君はここ三年、まともに訓練していないのではない?魔力制御が甘くなっているよ。」


 その言葉に俺は反論できず、視線を下の方にそらす。

 確かにここ三年、本格的な魔法の訓練をしていないのは事実だ。だが、果たしてそれだけで正体を見破れるものなのだろうか。

 

 俺が眉間にしわを寄せて考えていると、まだ幼かった頃の記憶がふと頭の中に浮かんできた。


 そう。確かあれは俺がまだ二歳になったばかりの時、兄様と共に読んでいた本に載っていた言葉。



『  

  魔法使いの本当にして真の天敵は、血縁者である。血縁者同士は互いの魔力をどこか感覚的に捉えることができ、ほんの僅かな乱れで相手の魔法使いの居場所を見つけ出してしまう。


 いわばこれは魔法使いにかけられた呪いである。       

                   』


 あの頃は迷子になった時に便利だなとしか思わなかった。でも、今考えると、もしそれが事実なら非常に厄介だ。

 

 兄様と俺は勿論血縁者。

 この先、行く先々の場所を把握されでもしたらたまったものではない。特にアノ場所はバレるわけには行かないのだ。


 俺の中に焦りが浮かび始めた。

 これは早急にどうにかしないといけない、と。 


 確か兄様は現在19歳だったはずだ。二ヶ月後には20歳になる。

 ということは、世界ランク戦にも出場している。いくら前世持ちの俺でも、魔法に関しては兄様の方が上手。これはほとんど摘んでいる。勝ち目ゼロの無理ゲーだ。


 でも、ここまで考えた時、俺はふと思い付いた。


 敵対するのではなく、こちら側に引き込めばいいのではないか?と。


 どうせ視線をそらした時点で、ほとんど答えを言ったようなものだし、元々そのつもりで付いて来たのだ。

 それに兄様が味方なら、これほど心強いことはない。兄様は昔から俺に甘かった。理由を話せば、味方になってくれる可能性は十二分にあるはずた。


 俺は兄様にそろりと視線を戻す。

 ゆっくりと口を開こうとして、だがすぐに止めて、もう一度視線を地面に向けた。


 よく考えると、兄様に言えばどんなに口止めしたとしても、両親には絶対伝わる。そうすると、両親は捜索に協力してくれた他家に報告を入れなければならなくなる。

 俺がどうしてもとお願いすれば、両親なら報告を保留にしてくれるかもしれないが、協力してくれた他家に嘘をつくのはよろしくない。

 そしてそれがバレた時に、水門家が窮地に陥る可能性がある。そんな危険なことをさせるわけにはいかない。


 しかし、こうしてよく考えてみると、兄様に真実を話すのはデメリットが多すぎる。


 俺はもう一度、兄様としっかり視線を合わせた。

 心の中で覚悟を決めて、ゆっくりと口を開く。

 先程言おうとしていた事とは、真逆のことを伝えるために。例え気づかれていたとしても、自分の意思を貫き通すために。


 俺は心の中で兄様に謝りながら、困惑の表情を浮かべる。


「えっと、剣哉様?というのは、水門 剣哉様のことですか?弟君の?それが私って、どういう事でしょうか?」

「…え?」

 

 兄様は俺の言葉を聞いて驚いたように、少し目を見開いて固まった。 

 恐らく今、兄様には俺が本気で困惑しているように見えているだろう。

 これでも前世の文化祭で褒められたことがあるのだ。演技には少し自信がある。


「剣哉?もう隠さなくてもいいんだよ?」

「え、っと?…何を隠すんですか?それに私は剣哉様ではないですよ?」


 兄様の言葉を俺は全力で否定する。例え本当に気づいていたとしても、この場では見逃してほしいから。


 それに敏い兄様は、すぐに私の意図に気づくはず。そこからは向こうの出方次第だが、交渉では前世&今世のハンデのある俺のほうがまだ上手だろう。


 案の定、兄様はすぐに私の意図に気づいて話を合わせてきた。


「…………そうか。君は剣哉ではないと言うんだね?」

「はい。剣哉様ではありません。私の名前は河野 慎哉ですから。」

「…………わかった。なら慎哉君、君に一つアドバイスをあげよう。これからは、魔力を抑える術を重点的に学びなさい。」


 兄様はそう言うと、俺が頷くのを見てから、少し悲しそうな顔をして大学の方へと帰っていった。


 俺はその後ろ姿を見つめながら、今度は心の中だけではなく、小さく声に出して言った。


「……ごめんなさい」と。





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