謎の配置
Cクラスの教室を出て数分後、俺達はAクラスの教室を見つけられず校内を彷徨っていた。
「なあおかしくないか?この校舎内全部歩き回ったぞ?なのに教室が見つからないなんてことあるか?ここにはないんじゃないか?」
疲れたように呟いたコウのその言葉は俺も薄々思っていた事だった。
俺が同意する様に頷いたその時、ナナが思い出したように声を上げた。
「そういえばさ、学園案内のパンフレットには三つ校舎が載ってたよね?一つは今いる所だとして、あと二つの内どちらかにAクラスの教室があるなんてことはないかな?」
ナナの言葉は確かに的を射ていた。その可能性は十分にある。
それにパンフレットで思い出したが、学内案内の地図が確かメールで送信されてきていたはずだ。それを確認すればいい。
俺はその考えに思い至り、直ぐに二人に伝える。
二人も俺の言葉に地図の存在を思い出したようで、慌てて携帯を操作し始めた。
それから直ぐにAクラスの教室の場所は判明した。
ナナの予想は当たっていたようで、右隣の校舎にAクラスの教室があると示してあった。ただし、驚く事に一階と二階の全ての教室がAクラスのものだった。ついでに言うと、Sクラスも同じ校舎の三階から五階までで、SSクラスは左隣の校舎の丸ごとだった。
SSは勿論だが、S・Aクラスも十分に優遇されている。というか、教室はそんなにいらないと思う。本心から。
「二人とも急ごう!朝礼開始まであと五分しかない!」
考えに没頭していた俺はナナの声に現実へ引き戻されたる。
慌てて時間を確認すると、確かにあと五分しかない。
俺はナナに頷き返すと、速足で隣の校舎へ向かったのだった。
右隣の校舎に着いてまず驚いたのは、玄関口に指紋認証・虹彩認証・暗証番号の三つのセキュリティロックがかかっていた事だ。全てクリアしないと入れない仕組みとなっていた。
ついでに言うと、玄関に着いてすぐ、携帯にメールで暗証番号が送られてきた。そして一度開くと、このメールは三十秒で削除されるとも書いてあった。
それはつまり、三十秒でこの八桁の数字を覚えろと言うことだろうか?無茶振りをしてくれる。今覚えても明日には忘れるぞ絶対!
心の中でこの仕組みを作った奴に文句を言いながらも、俺は数字を必死に暗記する。
隣ではナナとコウも必死に覚えているようだった。
暫くすると、書いてあった通りにメールは勝手に削除されてしまう。
「二人とも、暗証番号はちゃんと覚えた?」
メールが削除されてすぐに、ナナが聞いてきた。
俺とコウはそれに頷く。
俺達はそれから、それぞれロックを解除して校舎に入ると、急ぎ足で生徒が多くいる教室を探し回る。
どれが教室かわからないからな!
教室はすぐに見つかった。
なぜなら、一階の一番奥の教室から幾つもの話し声が廊下へ響いていたからだ。
鐘の音がなるまではあと2分程ある。俺達は間に合った事に安堵して教室の扉を開けた。
―――ザワッ
学校の校舎へ入った時と同じような視線が幾つも体に突き刺さる。
一瞬気圧されたが、それを気取られないようにとっさにいつも通りの表情を作る。
これからはこの視線が日常になるのだろう。
前世も含めて今までこんな視線を向けられたことはあまりなかったから、結構きついが知らなかったとは言え、身から出た錆だ。甘んじて受けようではないか。
俺は心の中で密かに決意を固めると、しっかりと前を見つめて歩き出す。
黒板を見たところ、席の場所は自由らしいので、一番目立たない窓際の一番後ろの席へ向かう。
その直後、教室の扉が開けられる音がした。
――ザワッ
まただ。突然教室が騒がしくなった。
だが、これは俺の時のとは違い、好意的な雰囲気だ。
俺は目立たない様に席に座る振りをしながら、一瞬だけ扉に視線を向ける。
「…っ!」
俺は叫び出しそうになるのを、口をとっさに手で抑えて防ぐ。
心臓がドキドキと音を立てているのを感じる。
っ、何故っ!何故ここにいるのですか!りゅう兄様!
俺は心の中で叫ぶ。扉へは決して目を向けない。
りゅう兄様なら、俺が誰だか気づきそうだから。
………いや、もう気づいているのかもしれない。だからここへ来た。
俺は恐る恐る扉の方へ視線だけを向ける。
――ドキッ
目が、合った。直ぐに視線はそらしたが確かに今、目が、合った。
俺は胸元の服をギュッと掴む。
自分の呼吸が荒くなっているのを感じる。心臓も大きな音を立てている。
どうすればいい。俺はどうするべきなんだ!兄様のあの目は、確かに俺を見ていた。俺に気づいていた。
俺は緊張で汗ばむ手を胸元から放して握り込む。
冷静に。冷静になれ。もうバレているんだ。なら、ここは口止めをすべきだ。兄様なら話せば分かってくれるはずだ。
俺は一度大きく深呼吸すると、兄様へ向き直る。
顔を上げることができない。足も震えていた。
俺はこんなに弱かっただろうか?こんな、こんなに!!
心の中で自分を罵りながら、震えそうになる足を叱咤して兄様の元へ歩く。
覚悟を決めろ。顔を上げろ。
俺は今から、兄様と対等の交渉をするのだから!!
思い切って顔を上げる。
その先に見た兄様は、俺の思い描いた表情とは違い、笑っていた。
そう。嬉しそうに、悲しそうに。
――笑っていたのだ。
そのすぐ後、りゅう兄様は俺が口を開く前に、俺の手を掴んで言った。
「君が河野 慎哉君だね?少し話があるんだ。一緒に来てくれる?」
その表情は笑顔だったが、目は笑っておらず、逆らえない雰囲気を醸し出していた。
俺は顔を引き攣らせながらゆっくりと頷く。
「ありがとう。では行こうか。」
りゅう兄様は俺の返事を待たず、手を掴んだまま歩き出す。
それに少し慌てて着いていきながら、俺は軽く振り返ってナナとコウへ視線を送る。
あとはお願い。先生への説明もよろしくね。
そんな思いを込めて見つめると、その想いは通じたのか、二人共しっかりと頷き返してくれた。
俺はそれに安心して、前へ向き直る。
さっきからりゅう兄様が何か言う様子はない。これでは俺の正体に気づいていたのか、確実な判断ができない。
俺はこれからどうすべきかを考えながら、りゅう兄様に引きづられていった。




