平和な休日………のはずなのにっ!?
「シン!これ見て!これ、面白い形じゃない!?」
「……そうだね。」
俺はナナの楽しげな声に苦笑いを返す。
文房具屋に入って一時間、ナナはずっとこの調子で俺に色々な魔道具を見せてきていた。
最初は俺も興味津々で相槌を打ち、楽しく話していたが、流石に一時間も続くとなると疲れてくる。
コウは俺がナナに捕まったのを見ると、即座に見を翻してナナの視界に映らないところまで逃げていきやがった。この事を知っていたのだろう。
あの、裏切り者め!
逃げるのはいいが、先に教えとけよ!ナナが大の魔道具好きだって!!
「シン?どうしたの?私の話聞いてる?」
「……え、うん。聞いてるよ。もちろん。」
ここにはいないコウへと怒りをぶつけていた俺は、その思考を無理やり打ち切り、ナナに返事を返す。疑わしげにジーッと見つめてくるナナに愛想笑いを浮かべた。
うんうん。ちゃんと話は聞いてるよー。だから安心してくれ。
そんな思いを込めてニコニコと愛想笑いを浮かべ続ける俺に諦めたのか、暫くの見つめ合いの末、先に目を逸らしたのはナナだった。
「そう?ならいいけど。」
ナナはそんな事を言いながらも、どこか納得していない様子だったが、俺が話の続きを聞きたいと言うと、今までの様子が嘘だったように嬉々として語り初めた。
俺はその様子に安心すると、ナナに気付かれないようにため息を吐いた。
俺は話しているナナを横目におさめながら、何気なく店の外へと視線をやる。
あれ?あそこにいるのって……。
俺は見覚えのある人物を見つけて思わず凝視した。
俺が見つけたのは、土御門家現当主の妹君、土御門千里様だった。
千里様は元は茶色だったはずの髪を真っ黒に染めており、見覚えのない男と腕を組んで歩いていた。
どうやらあの、年齢=彼氏いない歴の千里様にも春が訪れたらしい。化粧までしてほぼ別人だ。
俺が気づけたのも、昔魔力の波長を感じたことがあったからだし。
俺は昔の知り合いの成長した姿に安心していたせいで、重要なことに気づくのが遅れた。
うん?おかしいな。周りに護衛の気配がしない。
千里様は危なっかしいから土御門の当主は昔から最低でも五人は護衛を付けていたはずなのに……。
考え込んでいる間も、千里様と男は歩を進めて外へと向かっている。
俺は何とも言えない不安から、二人をつけることにした。
何もないならそれでもいいんだ。
「ごめんナナ。知り合いがいたからちょっと挨拶してくるね。すぐ戻ってくるから。」
俺はまだ続いていたナナの話を遮ってそう言うと、何か言われる前にその場を抜け出して二人の後を追う。
追いついた時、二人は駐車場にいた。二人の様子に変わった所は見受けられない。
自分の思い過ごしかと思って俺が帰ろうか迷っていると、男が何か話している声が聞こえてきた。
ここからでは距離が遠くて聞こえないな。
俺は一瞬迷ったが、これ以上近づくのは得策ではないと判断し、聴覚強化魔法を使用した。
「…………………ばれないのか?」
「大丈夫よ。こうしてあなたの言うとおり変装もしてきたのよ。魔力封じの指輪だってつけたわ。」
「そうか。なら安全だな。誰かが来る前に行こうか。」
「ええ。やっと貴方と二人で暮らせるのね…。嬉しいわ。」
「千里!僕もだよ。」
会話の内容は不穏以外の何物でもなかった。
ただの駆け落ちにしては用意周到すぎる。千里様は気づいていないようだが、魔力封じの指輪は誘拐によく用いられる道具だ。今では販売禁止になっていたはず。
恋は盲目もでもいうのか?普通なら気づくだろう。
変装させるのも誘拐の常套手段だぞ!
これはやばいな。ここで俺が助けてもいいが、それだと俺の存在が栄光七家の当主達の耳に入ってしまう。
そしたら水門家の両親と会う確率も上がる。会えば流石に実の親にはバレる。
ここは通報するのが一番いいな。
この学園には魔法警察が常に警備にあたっていたはず。
俺はその場から急いで魔法警察に通報を入れると、必要事項だけ伝えてすぐに電話を切る。
名前や年齢を聞かれるのは面倒だからすぐ電話を切ったが、いたずら電話と思われないように願うしかない。
俺はもう一度誘拐現場を見つめると、その場に背を向けてナナの元へと急いで向かうのだった。
✽✽✽
後で知った話だが、どうやらあの誘拐は現場に急行した魔法警察により犯人が取り押さえられ、誘拐未遂事件として無事解決したらしい。
千里様は犯人とはネットで知り合い、恋に落ちて駆け落ちをしようとしていたらしく、自分で変装をして魔法封じの指輪までつけて護衛をまいたらしい。
魔法警察と土御門の当主は通報してくれた青年(声で判断した)を探していたらしいが、手がかりが少なく結局は諦めたらしいことも聞いた。
それを聞いた俺が思った事は、バレなくて良かった、だった。




