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日本の首都、東京。ある屋敷の一室に背の高い青年とまだ小さい少年がいた。
「なぜっ、なぜ行かれるのですっ。ご家族やあの方々に何も言わず、なぜ黙って行こうとなされるのです。」
泣きそうな顔で青年がそう言った。
「仕方がないことだ。そう、仕方のないことなんだ。僕が居てはあいつらは成長しないだろう。僕が何でもでき、完璧だったせいであいつらは成長しなかった。だから、僕はあいつらの前から消えた方が良いんだ。」
悲しそうに少年はそう告げた。
「なぜっ、なぜですか。あの方々が成長しないのは、あの方々にその気がないからです。貴方には何の責任もないはずですっ。」
青年の説得の言葉にも少年は苦しそうな表情をするだけで頷きはしなかった。
「たとえ、誰になんと言われようと、それでも僕がいけないんだ。僕が何でもでき、完璧すぎさえしなければ、あいつらは僕を頼りすぎることもなかったはずだ。父様や兄様の世代の方々のように、互いに協力し、競争し合い、共に成長していくことができたはずなんだ。・・・だから、手遅れになる前に、僕たちが中等部に上がる前に、僕があいつらの前から姿を消すことが一番いい方法なんだ。」
青年はその言葉を聞き、顔を歪めた。
「そんなことっ、そんなことを貴方が気にする必要はあり「あるんだよっ!気にする必要があるんだよ!」・・・・っ。」
青年は少年の大声に一瞬驚いた様子だったがすぐに沈痛な面持ちで頭を下げた。
「無責任なことを言ってしまい申し訳ありませんでした。」
「・・・・・」
「・・・・・」
ガーンガーンガーン
二人とも話さなくなり、静かになった部屋に夕方5時を知らせる鐘の音が響き渡った。少年はゆっくりと窓の外に視線を向けた。
「時間だ。僕はもう行く。」
その言葉に青年は、はっとしたように顔をあげた。
「っ、お待ちください!お話はまだ終わっておりません!」
慌てた様子で引き止めようとする青年を無視し、魔法と呼ばれる力を使い、青年の意識を奪った少年は「すまない。」と、一言だけ言い残して部屋を静かに去っていった。